Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    るみみずく

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    るみみずく

    ☆quiet follow

    グルメ界行ってた弟分が一年半ぶりに帰ってきたと思ったら結婚決めやがって、いろいろ先を越されて頭バグっちゃったココさん

    はぁー??? 元気に生まれてきてね。ずっと待ってるよ。胎児に呼びかけるが如き声が寝息に変わる。卵が孵るのを誰より近くで見守っていた小松は、子を抱く母猫の如く体を丸めて眠ってしまった。
     そのことに誰より早く気がついたのはココだ。樹を颯爽と駆け上ってブランケットをかけてやると、布越しに小松の背をそっと撫でた。
    「お前の進化には驚いたが、小松くんも一年見ないうちに逞しくなったね」
    「そーか? 猛獣見てビビるの変わんねーし、顔つき変わったとかサニーに言われるまで気付かなかったぜ」
     組み合わせた手を枕代わりに、トリコが足を組み換えながら応えた。樹の上でなおも絹鳥の卵を扱うような手付きで小松を撫でるココの目が冷たく光る。
    「もう少し声を抑えろトリコ。小松くんが起きてしまうだろ。ま、毎日顔合わせていたら変化があっても分からないのも無理はないさ……一年間、誰にも邪魔されず、小松くんがお前のためだけに作ってくれた料理をひとり貪り食っていたんだからな」
     降ってくる声には隠しきれない棘がある。強いストレスにさらされている獣が発する特有の臭いを、トリコは樹の上の方から嗅ぎ取った。
     どうやらココはかなり不機嫌らしい。
    「仕方ねーだろ、人間界は土壌が枯れちまってんだ。何億人といる腹ペコに食わすための食材集めとなりゃあ、そんくらい時間かかってもおかしいことねぇって」
    「そうだね。そうだとも。一時的にではあるが、お前のおかげでどれだけの人たちに笑顔が戻ったことか。……だが、食材集めに小松くんを付き合わせる必要がどこにあった? それも無限に食べられる食材がここにあると知っておきながら」
    「そりゃあ、小松はオレのコンビだからな」
     ちくちくとまち針で刺すように言葉だけ降らせていたココがふわりと飛び降りる。着地点は寝転ぶトリコの頭に定めたらしく、いち早く察知したトリコは勢いよく体を起こしてこれを避けた。
     さっきまで頭があった場所がブーツの踵でぐりくり躙られる。舌打ちが聞こえたのは気の所為だとトリコは思うことにした。
    「コンビ、コンビといえば。結婚することとコンビがいることは関係ないんだったな」
    「お、おう。リンと結婚しても、オレと小松のコンビが解消することはねーよ。絶対に。そこに関してはココも同意見だったろ」
    「もちろん、同じ考えだよ」
     贅沢者め。ワントーン下げて吐き捨てるように付け加え、腰に手をやったココは二の句を告げる。
    「トリコ。ボクはゼブラと違って二人のコンビを解消させるつもりは無い。お前たちに危険が迫ろうものならボクは命がけでそれを退けよう」
    「ココ……」
     頭を踏みつけられるかと思って咄嗟に避けてしまったことをトリコは恥じた。こんな良い兄貴分が本気で顔面を踏み砕こうなどあるわけがないのだ。避けなかったらその時はココの方が回避行動をとっていたことだろう。
     トリコはあと一歩のところで確信に至ることができない。
     いかにも友好を望む面をしたココの手が差し伸べられる。
    「だからトリコも考えてほしい……ボクが女の子になる方法を」
     トリコは恥じた。さっきまで己の頭があった場所を執拗に躙る男を信じかけたことを。
    「おう……うん……は????」
     トリコの頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。無限に生まれるというビリオンバードも顔負けに増殖を止めない。
    「えぇ、ココお前、なに? そういう願望あったのか? 体と心の性別が〜、みてーな」
    「トリコ、お前はなにを言っているんだ? 生まれてこの方ボクの肉体的性別と性自認は男で一致しているが」
     あざけも蔑みもない。本当に何を言われているのか分からないとばかりにココは優男の貌を傾げてきょとんとする。
    「そうなら別に良いんだけどよ」
    「なんだかよくわからないが、安心したなら何よりだ。で、ボクはどうしたら女の子になれると思う?」
     不可避! この問いから逃れることは叶わないらしいと察したトリコは樹の下をちらりと見やる。地面に寝そべるサニーとゼブラから瞬間的に発汗の臭いがした。狸寝入りしていることは明白である。なんならサニーとはバッチリ目があったが、頼むから巻き込まないでとばかりに寝返りをうたれた。
    「待て、待ってくれココ! 落ち着け!」
    「ボクは落ち着いているよ。言いたいことがあるならそんなに大声を出さなくても聞くさ。小松くんが起きてしまうだろ」
     しい。ココはぴんと立てた人差し指を己の唇に押し当てた。昔から変わらない兄貴分らしい行動が、今のトリコには鳥肌ものだ。
    「なんで急に女の子になる方法を考えろって話になるんだよ、どうしたらそうなった」
    「なんだその言い方? まるでボクが突拍子もない話をしだしたみたいじゃないか」
    「いやしてんだろーが!!」
     上から死角になるよう螺旋状の蔓枝が伸びる根本に丸まっていたサニーとゼブラがビクッと肩を跳ね上げる。ココは慌てた様子で樹上を仰ぎ見て、小松に起きる気配がないことを確認すると胸を撫で下ろした。
    「次やったら舌がダメになる毒が飛ぶと思え」
     退けるべき危険に自らがなってしまっているのではと指摘したかったが、第一声を出そうとした瞬間腹に凄まじい力が入ったため飲み込んだ。
    「ちょっと整理したい。コンビと結婚は関係ないって話してたよな? オレたち」
    「家はお菓子で作って、無くなったら新築するお前が整理をしたいだなんて……フフ、面白い冗談だ。ああ、結婚してもコンビは解消しないって話をしていたよ」
    「だよな。で、その後お前なんて言った?」
    「だからボクが女の子になる方法を考えてくれと……何回も同じことを言わせるな。いい加減に覚えろ」
    「おい、ストップだココ。だからってなんだ。なんでだからになるんだ」
     胸ぐらに掴みかかりたくなる両手を空中で留め、傍から見れば肩をすくめる姿勢でトリコは問う。
     すれ違いの原因にようやく合点がいったらしく、ココは顎の下で軽く握っていた手を開いた。
    「相方が結婚してもコンビが解消することはないんだろ?」
    「おう、そうだな。もし小松が結婚しても、オレはコンビを解消するつもりはねーぜ」
    「それを小松くんは承知しているのか? ま、小松くんのことだ。ハントに行くぞと一声かけられたら血眼になってスケジュールを調整するだろう。それはさて置き……とにかく、小松くんが結婚してもトリコはコンビを解消するつもりは無いんだな?」
     釘を刺すようなココの口振にトリコは「おう」と頷いた。
    「言質は取ったぞトリコ。ボクと小松くんが結婚しても、コンビは解消しない。いいな?」
    「お……おーう?」
     雲行きが怪しい。胸騒ぎがした。
    「だからボクが女の子になる方法を考えてくれ」
     地面の方でバズーカが打ち放たれると同等の衝撃が起こった。
    「いや待て待て待て待てココぉ! 結婚? 小松と? お前が?」
    「お前たちのコンビを解消させたくないが、ボクは小松くんと一緒になりたい。そうなると結婚するしか選択肢がなくなってしまうだろ。お前がそう言ったんだぞトリコ」
     考えなくとも分かるだろうと貶されても、トリコにはココの考えていることがさっぱり理解できなかった。分からなくはない、けれど分からない。
    「女の子になるってのは??」
    「自ら名乗ったわけでもないのにボクは世間的に美食屋四天王だとかもてはやされているだろ? 結婚したとなればそれなりの騒ぎになるだろう……そのうえ男同士だなんて知られれば、小松くんに迷惑がかかるのは目に見えてる」
    「あー、まあそうだな」
     同性婚は犯罪ってわけでもないが、世間の目が厳しくなるのも事実。もちろん小松にも石は投げられるだろう。しかし、四天王の中でも特に女性ファンの多いココが男色家だと広まればそっちの方がダメージが大きい気がしたが、トリコは口を噤んだ。二十年近い付き合いでココが男色家をほのめかしたこともなければ、そのようにトリコが感じたこともなかったから。
     恐らくココのそれは小松に限定したものであろう。
    「それならボクが女の子になって小松くんのお嫁さんになるしかない」
    「お前は小松に抱かれたいのか??」
     果たして本当にそうなのか。小松の性別ではなく己の性別を変えんとする兄貴分の姿勢にトリコは自信を失いつつあった。
     フ、とココは嘲るように表情を作り替えた。
    「ボクが小松くんに抱かれたいだって? そんなことあるわけないだろ」
     淀みなくサラリと言い切った。無銭飲食をして警官につまみ出されるゾンビを見るかの如く、心底から冷えた眼差しとともに吐かれた言葉に嘘は無い。トリコは今度こそ確信した。
    「だよな! 小松を抱く抱かれるとかそんな、ねーよな、なあココ!」
     安心した(い)トリコはがばっと腕をココの肩にかける。
     毒をまとった手がトリコの手首を掴んだ。一瞬、焼けるような痛みがした後、2メートルを超える巨躯が投げ飛ばされた。
     わけもわからぬまま背中から着地したトリコの視界いっぱいに星空が広がる。樹上で体を丸める小松の姿も見えたが、それを隠すようにココが立った。
    「小松くんを抱きたくないなんて誰が言った」
    「……えぇ???」
    「あの優しさ図々しさ容姿料理への情熱、男という性別。それら全てが小松くんを構成する必要不可欠なものなんだ。ボクの私欲のために好き勝手に捏ね変えてはいけない。
    グルメ世界遺産は壊したり汚したりしたら重罪人として罰せられるだろ? それと同じなんだよ。
    小松くんと、サニーらしく言えば調和、ゼブラらしく言えば適応するには……分かるだろ? もうボクの形を変えるしかないんだ。
    だからボクが女の子になる方法を考えろ、帰ってきたらリンちゃんと結婚すると決めてたくせに一年も小松くんを独り占めしていたトリコ?」
     暗闇で光を取り込むため開かれた瞳孔はどこまでも続く深淵か。夢の中でもビリオンバードに呼びかけているらしい、寝言を呟く小松に差し向けられる微笑みは捉え方が変わってしまった。
     晴れたかに思われたクエスチョンマークの暗雲がトリコの頭を埋め尽くした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    るみみずく

    DOODLEいいえ私はで始まる某曲を聴いていたのだと思います。手を置いて誓うための聖書なんかうちには無いけどなってどうしても言ってもらいたかった。
    話しているときに小松くんの名前が出ると機嫌が悪くなるタイプのココさんがトリコとおしゃべりしてるだけ。
    ココさん小松くん付き合ってない。ココ→マ
    さそりの毒は後で効くらしい グルメフォーチュンで占いの店に目もくれず、ぽつんとそびえる陸の孤島に建つ家へ一直線に訪ねる者は数少ない。
     食材を持ち込み家主に調理させ、食うだけ食ったら帰る(帰される)。片手の指で数え切れるうちのひとり、トリコのいつもである。リーガル島から帰還して以降、それまで何年もぱったり途絶えていたのが嘘のように、交流が続いている。
     いつものようにハント終わりのその足で立ち寄ったトリコを、ココはいつものようにややウンザリした顔で迎え入れた。何時来て何を持ってくるかも占いで分かっているために、食材を調理する準備がすでにできているキッチンもいつも通り。
     持ち込んだ荷物は二つ。特別に大柄なはずのトリコが担いでも相対的に小さくなることのない大袋と、小脇に抱えられるほどの袋。トリコは「メシ作ってくれ」と大きい方をココに突きつけると、小さい袋を机に、自分の尻は椅子にどっかり置いた。
    7763

    recommended works