【飯P】指南すべきは宵に尽く 夏の夕暮れの風は、実にゆっくりと夜を連れてくる。濃く湿った夕陽が落ちるにつれて、地平線に近い空の底だけが鮮やかな紅色に染まり、天頂から滑り落ちる濃紺は、紫を経てそこに到達する。
ピッコロさんが無言のままに服を整えるのを、僕は地面に座り込んで見ていた。最後の最後で、躱すことも受け流すこともできず拳を受け止めたから、手のひらに痺れが残っている。手を握り込んで、また開いて、じっと眺めていると、ピッコロさんから声がかかる。
「そろそろ、終わりだな」
「はい! 明日また……」
「違う。おれではもう、セルすら圧倒したお前の修業の相手にはならん。今日で終わりだ」
僕は言葉の意味を理解できず、少しのあいだ返事に詰まった。草擦れのかすかな音が、やけに遠くから響くようだ。一瞬の後に慌てて身を乗りだし、手のひらをかざした。
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