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    ruka

    @blaze23aka
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    ruka

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    ❄️オンリーの展示作品 
    現代パロ 教師🔥×生徒❄️ です。
    ⚡️君も、少しですが出てきます。

    もともとは 幽!閉!サ!テ!ラ!イ!トさまの 『レ!プ!リ!カ!の!恋』 からイメージしたお話です。原型はとどめてないのですが💧

    #煉猗窩

    レプリカのような心だとしてもこれは本物じゃない。
    偽物の感情だ。

    なんの間違いか、人間に生まれてしまったから
    履き違えてしまったものだ。

    俺は人ではない。
    人にはなれない。
    誰かを愛し愛されるなど有りえない。

    偽物の存在を愛する人がどこにいる?
    どこにもいないだろう?

    それでも、ずっと想い続けていたら
    いつか
    本物になれるのだろうか…

    そんなお伽噺のような奇跡など……起きるはずがないのに。

    どうしても、

    この想いを消すことだけはできなかった。
    あの男のことが好きだというこの気持ちを。







    『レプリカのような心だとしても』








    猗窩座が己の内面を理解したのは小学生の時だ。
    悪夢のような出来事が脳内と言わず、身体中を駆け抜けた。
    そして悟った。


    己は鬼であると。人ではないと。


    それからは、ただ息を潜めるように静かに生きてきた。
    双子として生まれた狛治と幼馴染の恋雪を守るために、師範のところでの稽古は続けてもらったが中学では空手部には入らなかった。

    代わりに入ったのは陸上部だった。
    駆け引きはあるが、誰かを物理的に傷つける可能性は低いと考えたからだ。

    それに、走っている時だけは何も考えずに入られた。
    猗窩座はそのことがとても心地よかった。




    元々のセンスもあったのだろう。
    猗窩座はメキメキと頭角を現し、ある高校から特待生にならないかと誘いがあった。
    空手部の主将だった兄の狛治と共に。
    もともとそこには恋雪も希望していた学校だったので三人でその高校へと進学した。


    kmt学園高等部。
    中高一貫校であったが高等部からの編入も多いその学校で、猗窩座の運命は大きく動くのだった。









    高等部の入学式。
    中等部からの生徒も一緒に参加するのがその学園での決まりとなっていた。

    狛治と恋雪は同じクラスとなったが、猗窩座は隣のクラスとなった。

    そして、式のときに発表された高等部の教師たち。

    猗窩座は並んでいる教師をみて絶句した。

    見慣れた顔がいくつもある。
    間違いない、前世で見た顔だ。
    鬼殺隊の、それも柱だった人間だ。


    その中でも……

    特徴的な黄色と赤色の髪。
    意志の強そうな炎のような緋の瞳。
    現代においても鍛えているとわかる身体。


    (杏寿郎っ!?)

    上がりそうな声を抑え、胸の中、声無き声で叫んだ。



    煉獄 杏寿郎。

    歴史の教師である彼は、前世で猗窩座が殺した男だった。
    今世においては、彼はあの頃よりも年が上になっているらしい。だが、間違いなく炎柱であった男だと猗窩座にはわかった。


    (………担任ではない、か。よかった。
     授業は……担当か……)

    大人しくしておくしか無い、な。
    杏寿郎に記憶があるかもわからない。
    とにかく距離を取るしか無い。

    そう覚悟を決めた猗窩座は密かに息を吐いた。





    それなのに、だ。

    (どうして、お前が、剣道部ではなく、陸上部の顧問なんだ!杏寿郎っ!!)


    中学生のときに陸上部の練習に参加していたときは顧問は違ったはずだ。
    そう思って先輩に尋ねると

    「顧問の先生が退職されたんだ。
     それで、後任が決まるまで煉獄先生が見てくれることになったんだよ。剣道部は副顧問だった冨岡先生が顧問となることになったからな」

    ということだった。
    それなら逆でいいじゃ無いか!義勇は体育の教師なんだからと思ったものの、決まった以上仕方がないので猗窩座は部活動でも新入生らしく、大人しく目立たないようにと誓った。

    だが、もともと特待生で入った実力だ。

    実力を知るためにと高等部から新しく入った生徒たちが100M、1500M、5000M、走り幅跳びを測定していく時に、
    猗窩座は今いる先輩たちを含めた陸上部の中で一番の成績をおさめていくと、
    次の日の昼休みに杏寿郎に社会科準備室に呼び出された。


    「素山 猗窩座。流石の実力だな!」
    ニッコリと笑う杏寿郎に心臓がけたたましい音を立てているのを微塵も感じさせないで猗窩座はどうも、と小さくと頭を下げた。

    「ところで、俺から提案がある」
    「提案?……ですか?」

    素の喋りになりそうなのをどうにか丁寧に問い直すと
    杏寿郎は

    「走り高跳び、してみないか?」

    聞けば、杏寿郎は中学、高校と陸上部で走り高跳びの選手だったという。

    思わず
    「剣道部じゃなかったのか?……ですか?」

    とまたもおかしな言葉遣いになった猗窩座に杏寿郎はくすくす笑って
    「本当はいけないんだが、俺と二人の時は無理に敬語を使わなくてもいいぞ。そのかわり、他の先生にはちゃんとしておけよ」
    と猗窩座の頭を優しく撫でた。

    その手の優しさに猗窩座は頰が熱くなるのを感じた。
    恥ずかしいのか、嬉しいのかわからない感覚で。

    その様子に優しく微笑んだ杏寿郎は話を続けた。

    「確かに、俺の実家は剣道の道場をしているから
     剣道はずっと続けている。
     だが、その頃はそれ以外のことがしてみたくてな」

    今、美術教師をしている宇髄と数学教師の不死川に誘われたと杏寿郎は懐かしそうに猗窩座に説明してくれた。
    ちなみに宇髄は棒高跳び、不死川は100Mの選手だったという。

    杏寿郎は猗窩座の肩に手を置いてもう一度尋ねた。

    「どうだろう?チャレンジしてみないか?」

    その言葉に猗窩座は考える前に頷いていた。
    杏寿郎はそんな生徒の様子に満面の笑みを浮かべたのだった。






    離れておくと決めたのに、マンツーマンの指導を受けることになってしまったことに頭を抱えたが……正直なところとても楽しみでもあった。


    「……覚えてない、みたいだし……」


    杏寿郎には前世の記憶がないように思えた。
    もしも覚えていたらあんな風に自分に接してくるはずがないからだ。
    それならば、いいのだろうか。


    前世で殺した相手。
    ……あの時ずっと一緒にいたいと思った人
    その強さに憧れた人。

    自分は鬼なのに。
    人のふりして、杏寿郎の側ここにいてもいいのだろうか?

    三年、だけだ。

    その間だけ、どうかどうか許して欲しい。
    あの太陽のような男の近くにいることを。


    猗窩座は祈るようにそう願った。





    初めてする競技でありながら、天性の才能というのだろうか。
    猗窩座は直ぐに記録を伸ばしていった。
    杏寿郎の教え方がうまいと言うのもあるのだろう。

    他の部員たちも、臨時コーチできた宇髄と不死川によりめきめきと力をつけていっていた。

    夏には
    1m85cmが楽に飛べるようになり、
    1m90cmを安定に飛ぶことを目標において猗窩座は練習を続けていく。


    なかなかうまくいかない時、杏寿郎に飛んで見せてくれと猗窩座は頼んだ。

    この高さを最近は飛んでないからなあと、言いながらも杏寿郎は見本のようにふわりと重さを感じさせないフォームで飛んでみせた。

    猗窩座はその美しさに目を奪われた。
    そして、頭に何度も焼き付けるように思い出してイメージをする。

    よし、いけそうな気がする!


    猗窩座は所定の位置につき杏寿郎の前で、彼を思い浮かべながら飛ぶと、バーのかなり上を越えていった。

    「よし!今の感じだ!
     あれならいける、高さを95に上げるぞ」
    「はいっ!」

    杏寿郎の嬉しそうな顔に猗窩座も笑顔で応え、再び飛ぶためにスタンバイすると、高さを上げた杏寿郎から合図をもらい走り始める。


    ふわっ


    猗窩座の体は重力を感じさせないような柔らかな放物線を描いて設置されたバーを越えていった。


    「よしっ!」

    杏寿郎の大きな声がした。

    そのまま走り寄ってきた杏寿郎は猗窩座に

    「2mだ!軽々と飛べたな、猗窩座っ!」

    そう設定した高さの秘密を伝えて豪快に笑った。


    (杏寿郎が、嬉しそうに笑ってる。
     凄く、凄く、笑ってる)

    ああ、どうしよう。


    (俺を見てくれてる。
     真っ直ぐに、優しく、強く見てくれている)

    気がついてしまう。
    見ないようにしていた気持ちに。
    決して持ってはいけない気持ちに。

    「よくやった、猗窩座」

    呆けている自分に、2mと聞いて驚いたか?
    とニコニコ笑って杏寿郎が近づいてきて頭を撫でられた。いつかのように。


    (あ、あ……、どうしたらいい?
     俺は、俺は……)





    お前が好きだ、好きになってしまっていた。
    杏寿郎が、好きだ。
    どうしようもなく、好き、なんだ。


    前世で殺したのに、
    俺は鬼なのに、
    こんなのは、違う。
    人でないのだから、違う。


    の感情など、人間狛治を真似した

    まがいものだ。
    偽物だ。
    よくできたイミテーションだ。

    なのに抑えられないんだ。

    欲しくて欲しくて仕方ない。
    お前の視線も、お前からの言葉も、お前から向けられるもの全てが俺は欲しくて仕方ないものなんだ。






    猗窩座は歓喜の中で、静かに絶望した。


    消せない想いを封じ込めることだけを決意しながら。








    杏寿郎を中心とした指導により陸上部は皆がそれぞれに伸びていった。
    ブロック大会に参加出来るようになり、インターハイにも何人も出場していく。

    勿論、猗窩座もだ。

    結果が出ている以上、このまま杏寿郎が顧問として教えていくことを理事長たちは決めた。
    杏寿郎も彼らと共に頑張りたいとやる気だ。


    そうして、猗窩座にとっては地獄のような甘い日々が続くことになった。




    杏寿郎が一際熱心に教えているのが猗窩座なのは気が付けば周知の事実となっていた。
    だが、猗窩座の実力を考えればそれは当たり前のことだと認められてもいた。

    事実2年ではインターハイに出場し予選突破を果たした。
    3年となった今年も勿論インターハイ出場を決めている。


    杏寿郎との関係は一年の頃から変わってはいない。
    ……つもりだった、猗窩座は。

    周りの友達、例えばクラスメイトの善逸に言わせれば
    煉獄先生のお気に入り。
    お気に入りというより、溺愛されてるよね、とのことだったが。


    そんなとき、ある噂が校内を駆け巡った。



    『煉獄先生、結婚するんだって』



    猗窩座はその噂を聞いた時、目の前が真っ暗になった。
    何故かわからないが、身体が震えてしまう。
    善逸が慌てて、猗窩座を空き教室に連れていって落ち着かせてくれなかったら動けなかったかもしれないほどに。


    教室内の奥に隠れるように並んで座る二人。

    「……煉獄先生から何も聞いてないの?」

    善逸の言葉に猗窩座は首を横に振った。

    「じゃあ、単なる噂だよ。
     気にするなよ」
    「善逸……」
    「あのさ……好き、なんだろう?先生のこと」
    「っ!」
    「ごめん、俺……昔から耳が良くて、その、人の気持ちとか結構わかっちゃうんだ。心臓の音で」

    善逸が自分の体質について説明してくれた時、猗窩座は

    「………、偽物なんだ」

    と呟いた。

    「偽物?」

    善逸も鬼殺隊の一人だ。
    記憶が無いからと言って、なかなか話せないでいる猗窩座に対して善逸の方がいつになく静かな声で話し始めた。


    「もしかして、前世が鬼だったから?」


    驚く猗窩座に大丈夫、と笑って善逸は言葉を続けた。


    「記憶、あるんだ。俺も。
     だから、猗窩座の気持ちわかるよ。
     俺もさ、その、前世の気持ちに引き摺られてるんじゃないかって悩むことがあったから」

    でもさ、俺たち友達になれたじゃん?

    「俺さ、猗窩座は俺の大事な友達だと思ってんの。
     だから、偽物とか言わないでよ」


    猗窩座は今ここにいるんだから。
    その気持ちが偽物なわけないじゃんか。

    「好きなことは止められないんだから。
     俺も……悪あがきしていたけど、やっぱり好きになったんだから仕方ないって割り切ったんだ」

    そう善逸はいつもとは違う顔をしていた。
    善逸も苦しい恋を、それも前世絡みでしているのだと伝わってくる。


    その時ストンと猗窩座の心の中で何かがはまっていった。


    「………いいのか、俺は、あいつを
     杏寿郎を好きでいても」
    「ああ、勿論だよ。
     それは猗窩座の大切な気持ちなんだから」
    「俺は鬼だったのに?」
    「それでも、その気持ちは偽物じゃない。
     そんなこと言ったらその気持ちが可哀想だよ」



    自分を殺した相手を愛する人などいないのはわかってる。

    それでも、この気持ちは
    こんなにも自分の中にあるこの気持ちは
    偽物でもまがいものでもなく

    『本物』の心だといっていいのだろうか。

    本当に?

    そんなことが許される?


    猗窩座は静かに涙を溢れ落とした。
    静かに静かに泣き続けた。

    心に張った糸を解くように
    固く閉ざした扉の鍵を壊すように。


    「俺は……好きなんだ。
     どうしようもなく、杏寿郎のことが、好きなんだ」
    「うん、それでいいよ。認めてあげてよ、その心を」

    優しく背中を撫でられていると急に善逸の手が震えた。

    「ぜん、いつ?」
    「や、あ、あのね!
     俺、やること思い出したから、ちょっと、出てくね!」
    「え?」
    「猗窩座、素直になるんだぞ!わかった?」

    そう言いながら、慌てて自慢の足で脱兎の如く善逸が出ていったのと入れ替えに誰かの足音がした。

    見慣れた靴、
    聞き慣れた足音、

    まさか、と思いながら猗窩座はゆっくりと音の方へ視線を送るとそこには
    いつもとは違い笑みを消している男が立っていた。

    「れ、んごく…せんせ…」
    「何故、泣いている?」

    真っ直ぐに猗窩座を見ているその瞳は、何故かいつもの明るさを感じられずにいた。


    「答えなさい、猗窩座」
    「っ……」
    「君は何故泣いている?
     誰かに何かされたのか?」
    「ち、違う!
     何も、ない。何もされてない」

    詰問されるようで猗窩座は慌てて涙を拭いながらそう否定した。

    「では、何故だ?」

    答えないことを許さない圧を感じ取り、猗窩座はびくっと震えた。
    怒りさえ感じる杏寿郎の態度がどうしてだかわからないが、嘘も誤魔化しも通用しないことだけは痛いほどわかった。


    「………好きな人が、結婚すると聞いたから、です」
    「………誰のことだ?」
    「え……」


    バンっ!


    音を立てて猗窩座の体を挟むように、杏寿郎の両手が壁に置かれた。
    逃さないと示すように。


    「……駄目だ、逃さない。
     他の誰にも、君を渡すものかっ!」
    「っ!」

    そのまま猗窩座の唇に杏寿郎のそれが重なりあうと、猗窩座の体は逞しい腕に拘束される。

    「ん、んんっー!」
    「猗窩座……、俺の、猗窩座……」

    身動きできずに、息を奪うようにキスをされて
    猗窩座は酷く混乱していた。
    だが、直ぐに杏寿郎のことしか考えられなくなる。


    嬉しい。
    嬉しい。

    でも、どうして?

    俺をみてくれている?

    偽物なのに?




    『認めてあげて』

    善逸の声が優しく響いた。
    その声に促されるように

    「……す、き……、きょ、じゅ…ろ、が…好き」

    口づけの合間に、途切れ途切れになりながら
    伝えた告白。

    杏寿郎の動きが止まり、それが伝わったことを猗窩座に示した。


    「……今、なんと言った?」
    「……好き、です。
     杏寿郎が、ずっと、ずっと好きだった。
     偽物の俺なんかに好かれても嬉しくないと思うけど……あの時からずっと好きでした」

    金色の瞳に水の膜が静かに張り、溢れ出るように雫が落ちていく。


    「……猗窩座」
    「結婚するって、聞いたのに、ごめん……」
    「誰が?」
    「杏寿郎が……」

    ずっと煉獄先生ではなく杏寿郎と名前を呼んでいるのだが、杏寿郎はそれを気にすることなく己の知らないところで起きていた噂話に目を瞬かせた。

    「俺に結婚する予定はないぞ」
    「でも…」
    「結婚式に参列はするがな。
     来週、大学時代の先輩の」
    「は?」


    遠方のため、理事長に許可を取って金曜の午後から休みを取った。
    確かに結婚式に出るため休むとは話したが、どうやらそれが一人歩きしてしまったのではないか、と杏寿郎は言う。


    勘違いによる噂話を間に受けてしまった?

    かあーっと恥ずかしくて赤くなってしまい、それからすぐに青褪めてしまう猗窩座の様子をみて杏寿郎は小さく笑った。


    「そうか、それで君は泣いたのか」
    「っ……」
    「噂話もたまには良いものだな」


    そう言いながら、杏寿郎は猗窩座の頬に手を置くと


    「俺も、あの夜からずっと君のことが好きだ。
     猗窩座」
    「杏寿郎………、え、ちょっと、待て。
     あの、夜……?」
    「離さないと君に告げたあの時から」
    「それは、つまり…」
    「初めて会った時から、わかっていた。
     君があの時の鬼だと。
     だから、記憶があってもなくても一から関係を作るつもりで君に近づいたんだ」

    ニッコリと話す杏寿郎。

    「俺は、お前を殺した鬼なのに?
     人じゃないのに?」
    「君は君だ。
     確かに殺されたが、俺も殺すつもりで戦ってたからお互い様だろう?」

    杏寿郎は猗窩座の身体を己の腕の中に閉じ込めて

    「離さない、俺の愛しき鬼。
     いや、愛しい人」
    「杏寿郎……」
    「偽物、というのは人でないという意味か?
     君は前世のことで苦しんでいるのかもしれないが
     俺は君が鬼で良かったと思ってる」
    「な、んで…?」
    「君自身を苦しめ、たくさんの人を悲しませたかもしれないが、俺はそのおかげで君に逢えた」

    そう言いながら、杏寿郎は猗窩座の頬に、そして渇望していた頸にとキスを降らしていく。

    「幻滅したか?」

    杏寿郎の問いに猗窩座は小さく首を横に振る。


    「だから、君という存在は、俺の唯一無二の宝物。
     例え誰かから見て偽物のようにみえたとしても
     俺に取ってはかけがえのないものだ」

    もう一度唇へと、今度は羽根のように触れるだけのキスを贈り

    「……絶対に、離さない。
     君といることがもし罪だというのならば、共に堕ちよう、地獄の果てまでだろうとも。
     他の誰にも、一片たりとも渡さない。
     愛してる、猗窩座」

    苛烈というほどの強さで最上級の愛の言葉を贈られた。





    偽物の存在だけど、愛してもいいのか?
    愛してくれるのか?

    本物のように輝けなくても、それで良いと笑ってくれるのか?


    二人にとっては本物の、まがいものでもなんでもなく
    確かな心だと受け止めてくれるのか?



    「俺だけのものになってくれ。
     ずっと、俺は君だけを求めていたのだから」


    そうすれば、俺の全てを君にあげよう。

    その言葉に猗窩座は泣きながら杏寿郎に抱きついて

    「ずっと、欲しかった。
     杏寿郎が欲しかった!
     そばにいて欲しかった、一緒にいて欲しかった!
     それを、望んでいいのか?いいんだな?」
    「ああ、望んでくれ」

    猗窩座から初めて杏寿郎にキスをして

    「好き、杏寿郎が好きだ!」

    ともう一度想いを告げた。








    この想いだけは、
    猗窩座だけのものだった。
    狛治の頃にはなかった、猗窩座だけのもの。

    人ではないレプリカのようなまがいものの心でもそれでもいいと望んでもらえるのならば、もう本物だと胸を張って言えるのだろう。



    ああ、幸せだ。


    どうしようもなく、涙が止まらなくても
    それを大きな手が拭ってくれるから、繋がった手は二度と離れないと信じられるから。



    今、偽物レプリカだと思って隠していた、履き違えたものと言いきかせていた恋心は間違っていない、本物の想いなのだと猗窩座の中で昇華されたのだ。




    誰よりも愛しい炎によって。




















                 【終】








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