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    朝からイチャイチャしているだけのジョルミス

    #ジョルミス

    目は口ほどに物を言う朝日がだだっ広い寝室を白く染め上げていた。ベッドでは二人の逞しい美丈夫が仲睦まじく抱き合いながら眠っている。
    彼らは上司と部下の間柄であり、ステディでもある。金髪の男の名はジョルノ・ジョバァーナであり、黒髪の男の名はグイード・ミスタである。
    ジョルノの小麦色の金髪は粉砂糖をまぶしたような煌めきに透かされ、いつもより色を薄くしていた。
    安らかな寝息を立てているジョルノとミスタに朝の訪れを告げるのは目覚まし時計か? はたまた携帯のアラーム音か? 否、そのどちらでもない。

    「朝ダー! 朝ダゾミスター!」
    「起キロ! 起キテ飯ヲ食ワセロ!」
    「ジョルノー! ミスタヲ離シテクレヨー!」
    「腹ペコナンダヨー!」
    「焦ラシプレイハゴメンダゼー!」
    「今スグ起キナイトイタズラシテヤルゼ!」

    ヘッドボードに置いてある銃はシリンダーが開かれたままになっていた。そこから腹を空かせたピストルズたちが飛び出してきて、かしましく騒ぎ立てる。
    これがいつもの朝の風景。毎日のように繰り返されるお決まりのやり取りだった。
    ピストルズの催促にミスタとジョルノの睫毛が同時に震え、まぶたがゆっくりと持ち上げられる。

    「わぁった……わぁったからちったあ声のボリューム落とせって」
    「……んんぅ……おはようございます、ミスタ、ピストルズ」
    「「「「「「メーシ! メーシ! メーシ!」」」」」」

    ピストルズが声を揃って大合唱を響かせる。ミスタはため息をつき、渋々ベッドから身を起こした。

    「ったく。今日は数ヶ月ぶりの休みなんだぜ? 朝くらいゆっくりさせろっての。あ、ジョルノ、お前はまだ寝てていーぜ? たまには思う存分二度寝を楽しめよ」
    「いえ……僕も起きます……キミのいないベッドに一人でいるのは寂しいので……」

    ジョルノの口から放たれるどストレートな愛情表現はいつだってミスタに効果抜群だ。勝手に口角が持ち上がり、まなじりがゆるんでしまう。

    「んじゃ先にシャワー浴びてこいよ。うまーいカプチーノ淹れてやるからさ」
    「期待しています、ミスタ」

    ようやく起き上がったジョルノがにっこりと微笑む。普段なら洗練されたその微笑みに束の間目を奪われるところだが、今のジョルノは隙だらけでドン・パッショーネとしての威厳は微塵も感じられない。
    背中に下ろしている豊かな金髪は寝癖だらけでぐちゃぐちゃだし、上半身は裸だし、下半身に履いているのはなんの変哲もないスウェットだ。
    ジョルノが古代ギリシャの彫刻のような圧倒的な美貌を備えていることを除けば、今の彼はどこにでもいる普通の温厚な青年に見える。
    彼がギャングのボスであり、必要であればどこまでも残忍な振る舞いができるのをうっかり忘れてしまいそうだ。
    年相応の無邪気な微笑みを可愛らしいとすら思ってしまう。
    まあ、ギャングのボスとして肩肘を張っているジョルノも大層魅力的で可愛らしいのだが、それはそれ、これはこれだ。
    ジョルノが自分の前で無防備な姿をさらけ出してくれるのがミスタは嬉しくって仕方がないのである。
    一足先にベッドから降りたミスタは、背後にいるジョルノにひらりと手を振って寝室をあとにした。
    廊下に出てリビングへと直行する。キッチンの冷蔵庫を開くと、ひんやりした風が寝汗で湿っている肌を優しく撫でた。
    ミスタは冷蔵庫に腕と顔を突っ込み、ガサガサと中を物色する。
    見つかったのはいくつかのオレンジ、トマト、食べかけのモッツァレラチーズ、プロシュート、それと冷凍庫にはフォカッチャも眠っていた。
    これだけ食材があれば、朝食には事欠かない。
    ミスタは冷蔵庫から次々と食材を取り出し、キッチンに並べた。
    それから大皿と二人分のグラスも用意する。
    ミスタはおもむろにオレンジを手に取り、皮を丁寧に剥いていった。つややかでたっぷりとした果肉を思いきり絞り、グラスに注ぎ込めばジュースの完成だ。

    「カプチーノは食後の楽しみに取っておくのがいいんだよなあ」

    ふんふんと鼻歌を歌いながら、ミスタは大皿の上でトマトとチーズをカットする。薄切りにしたそれらを縁が重なり合うように並べ、バジルソースを垂らせば瞬く間にカプレーゼが現れる。
    かちこちに凍っているフォカッチャをレンジで解凍し、生ハムを上下から挟む。これで朝食の準備はすべて整った。

    「おめーら、ジョルノが来るまで手をつけるんじゃねえぞ」

    L字型ソファの正面に置いてあるローテーブルに大皿とグラスを運びながら、ミスタはしっかりとピストルズに釘を刺した。大皿の周囲を旋回し、我先にと朝食にかぶりつこうとしていたピストルズが、一斉にブーイングを飛ばしてくる。

    「ソリャネーゼミスタ!」
    「拷問ダ!」
    「コノ腹ノ音が聞コエネエノカヨ!?」
    「ケチ! 甲斐性ナシ!」
    「ミスタハオレタチガドウデモイイノカ!?」
    「オレタチトジョルノノドッチガ大事ナンダ!?」

    No.5が面倒な恋人のようなことを言い出した。ミスタは呆れ混じりのため息をつき、一度へそを曲げたジョルノのご機嫌取りがどれほど大変で気疲れを要するものかを説こうとした。ジョルノを仲間外れにして拗ねられると何が起きるかわからない。
    もしかしたら一週間くらいこの家に軟禁されるかもしれないし、銃を没収され、ピストルズとも隔離されるかもしれない。
    嫉妬深い男をむやみに刺激して怒らせるのは得策ではないのである。
    しかしジョルノの取り扱い方をくどくどと説明してもピストルズには梨のつぶてである。馬の耳に念仏。暖簾に腕押し。糠に釘。つまり何を言っても無駄ということだ。

    「朝食は全員でってのがルールだろ。ルールを破る奴は罰として今日一日飯抜きの刑だからな」

    なのでミスタはピストルズにとって最も酷な台詞を簡潔に告げてやった。途端にギャアギャア騒いでいた彼らがぴたりと口をつぐむ。

    「――そもそも」

    そのタイミングを見計らったかのように背後からつややかなテノールが聞こえてくる。
    振り返れば相変わらず上半身裸のジョルノがリビングに入ってくるところだった。豊かな髪は生乾きでしっとりしている。
    ジョルノは落ちてくる前髪を耳にかけ、ミスタの隣に並んだ。

    「ミスタの特別は僕で、一番大切なのも僕。僕はミスタのボスで最愛の恋人なんだから。当たり前でしょう?」

    ちゅ、とミスタの頬に口付けをしながらジョルノが言う。ミスタはやれやれと肩をすくめた。

    「大人げないマウントすんな! 話がややこしくなるだろうが!」
    「はははっ、冗談ですよミスタ。真に受けたりしないでください。キミのことでピストルズと張り合ったりしません」
    「いまいち信じられねえんだよなあその台詞……おいなんだよ。その妙ににやけた面はよぉ」
    「いえ、別に。ただ僕をたしなめはしても、否定はしないんだなあと思って」
    「あ? ジョルノ、てめー、何を言っ……」

    言いさしてミスタは口をつぐんだ。先ほどジョルノが言い放った台詞が脳味噌をリフレインする。
    彼はミスタの特別は僕で、一番大切なのも僕だと臆面もなく言いきってみせた。ミスタはそれについて言及しなかった。無視を決め込んだ。その理由は真面目に問答すると羞恥プレイが始まりそうで嫌だったからだ。

    「……俺はお前もピストルズも平等に愛してんだよ」

    ただもしジョルノの身に危険が迫ったとき、ミスタはためらいなくピストルズと自分自身を犠牲にして、彼を守るだろう。
    ジョルノがほかのスタンド使いに負けるところなど想像もできないので、そんな未来はあってないようなものだが。

    「本当にかわいい人だな、キミは」

    ミスタの苦し紛れの返答をジョルノは掘り下げようとはしなかった。これ以上しつこく絡めば、ミスタがブチギレるとわかっているのだ。引き際を見極めるのが異常に上手いからこそジョルノはドン・パッショーネとして不動の地位を築き、ミスタのハートをも手に入れられたのだろう。

    「ピストルズを待たせるのも可哀想ですね。朝食を食べましょう。その前に――僕の髪を結んでもらえますか? 下ろしたままだと邪魔なので」

    ソファに腰を下ろしながらジョルノが上目遣いでミスタにおねだりをしてくる。この類のおねだりにミスタは滅法弱かった。
    なんでも卒なくこなしてしまえるジョルノに甘えられるのは気分がいい。100パーセントの信頼と愛情のこもった眼差しで見つめられると、つい世話を焼きたくなってしまう。

    「ったく。しょうがねえなあ。ピストルズ、お前らは先に食ってろ。俺たちの分は残しとけよ!」
    「「「「「「イーハー!」」」」」」

    ピストルズが喜びの声をあげ、大皿に飛びつく。ミスタはローテーブルの下部にある引き出しからヘアブラシとゴムを取り出し、横向きでソファの座面に座った。あぐらをかき、ジョルノの髪に指を絡ませる。

    「おら、こっちに背中向けろ。正面向いたままじゃあ、やりにくくってしょうがねえ」
    「はい」

    ジョルノは嬉しそうに口元を綻ばせ、ミスタの指示に従った。体の向きを変えてミスタに背中を見せてくる。片足はソファから下ろしたまま、座面に乗せた片膝を抱え込み、ジョルノは動かなくなった。

    「どうぞ、ミスタ」
    「ん」

    絡まり合っているジョルノの髪の毛をヘアブラシで丁寧に解きほぐす。指を通して三つの束に分け、ねじって三つ編みにしていく。

    「ずいぶん上手くなりましたよね。最初の頃は髪を分けるのにも苦労していたのに」
    「セックスする度に毎回頼まれてんだぞ。嫌でも上達するっての」
    「たまには断ってもいいんですよ?」
    「おいおいジョールノォー。パッショーネのボスともあろうお方が、つまんねえジョークを言うもんじゃねえぜ」

    ジョルノは誰にも頼らずに独りで生きてきた少年だ。これから青年となり、魅力的な男に育っていく。誰にも心を許さず、誰ともつるまず、誰も近寄らせなかった。
    そんな彼の背中を見ることをミスタは許されている。ミスタはジョルノの背後で何をしていてもいいし、髪にだって触れられる。ミスタのすべてをジョルノは許している。
    それはミスタだけの特権だ。この優越感を、多幸感を、自ら遠ざけるなど愚行の極みである。
    だからミスタはジョルノのおねだりには逆らえないのである。ジョルノを甘やかすことは、もはやミスタの生き甲斐でもあるのだ。

    「あー……やっべえなおい。これはやべえんじゃねえかおい」

    自分はジョルノに特別扱いされているのだと実感した途端、下半身が元気になってきてしまった。体温がぐーんと上昇していく。むき出しの滑らかな素肌に唇を寄せたくって仕方がない。首筋に顏を埋めて彼の匂いを思いきり吸い込んでしまいたい。

    「なー、ジョルノー」

    きれいに結べた三つ編みを指先で揺らしながら、ミスタはジョルノの耳元に顏を近付けた。

    「ちょっと相談があるんだけどよ」
    「なんです? ミスタ」

    ジョルノが半身をひねってミスタを見つめる。炯々と輝くエメラルドグリーンは何かを期待して燃えていた。

    「朝飯を食ったらよお、またベッドに戻っておねんねするのはどうだ?」
    「キミが子守唄を聞かせてくれるなら喜んで、ミスタ」

    ジョルノのまなじりが火にあぶられたチーズのようにとろける。目は口ほどに物を言うとはまさにこのこと。ミスタは恋人からの完璧な返答に満足し、分厚い唇からぬらぬらと光る赤い舌をのぞかせるのであった。
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