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    hn314

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    hn314

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    付き合っているし関係は良好だし恋人同士なのを隠していないので周りはみんな自分たちの関係を知っていると思い込んでいるものの、周りからは付き合っているとはまったく思われていない太刀川慶と二宮匡貴の(ラブ)コメディです。

    付き合っているのに周りからは気づかれていない太刀川と二宮の話「――太刀川さん、さすがにそろそろ二宮さんに嫌われるんじゃないですか?」
     いつか言おうとタイミングを見計らっていた言葉だった。おれのまじめな声とは反対に、太刀川さんが「ん?」とのんきに答える。意識は会話よりもノートパソコンに向いているんだろう。顔もおれじゃなくて液晶画面を覗き込んだまま。こどもがピアノで遊ぶような拙いキーボード音も途切れる気配がなくて、続いた返事にいたっては「そうなのか出水?」と完全に他人事だ。話に集中していないのが伝わってきたものの、いま太刀川さんが書いている報告書の重要性がわかっているから文句を言うつもりはなかった。というか隊長が真面目に働いているときに話しかけるおれの方が非常識だろう。太刀川さんが自分から書類仕事に手をつけるなんてめったにないのに。
     
     昼の防衛任務終わり。柚宇さんと唯我はとっくに帰ったあとで、いま太刀川隊の作戦室にはおれと太刀川さんしかいなかった。偶然ふたりきりになったんじゃなくて、ふたりになれる機会をうかがっていたおれがわざと残ったのだ。太刀川さんはなかなか帰ろうとしないおれに不思議がっていたけど、「このあと米屋と三輪と約束してるんで」と誤魔化したらそれ以上は聞かずに納得してくれた。こういうとき太刀川さんが深入りしないタイプで良かったな、と思う。おおざっぱな性格なのもあるけど、おれたち隊員のプライベートに余計な詮索をしない人なのだ。その隊長の個人的な事情に口を挟むことへの後ろめたさが芽生えたものの、いやこれも太刀川さんのためなのだと覚悟を決める。
     それくらいいまの太刀川さんは二宮さんに迷惑をかけまくっているのだから。
    「太刀川さん、昨日も一昨日も二宮さんの家に泊まってたって言っていたじゃないすか」
    「ああ」
    「それで今夜も泊まりに行くんですよね? レポートが溜まっててやばいのはわかりますけど、さすがに二宮さんも迷惑ですって」
    「いや、昨日で全部終わらせたぞ」
    「じゃあ今日は行かなくていいんじゃ……」
    「昨日はレポートを仕上げるのに忙しかったから、ふたりでゆっくり過ごせなかったんだよな。だから今夜は二宮の家で夕飯を食おうかと思って」
    「わざわざ二宮さんの家で食べなくても、自分の家で食べればいいじゃないですか。最近太刀川さんも二宮さんみたいにひとり暮らしをはじめたんだし」
    「……ん? 今夜は二宮がうちに来るってことか? それが一昨日スーパーで買った材料がまだ二宮んとこの冷蔵庫に残っててさ。傷んだらもったいないし、今日も俺が二宮の家に行った方がいいだろ」
     だめだ。話が通じない。なぜか太刀川さんの中では二宮さんと夕飯を食べるのが大前提になっている。ここまでかたくなに二宮さんにこだわる理由がわからないし、そもそも最近になっていきなりふたりが一緒にいる場面が増えたのも謎だった。
     たしかに太刀川さんと二宮さんは会うたびに子どもの喧嘩みたいなやりとりをしているけど、なんだかんだふたりの仲が悪くないのはおれも知っている。性格も真逆なようでいて通じ合う部分があるし、噛み合いさえすれば相性は良いんだろう。個人総合一位と二位という実力があるだけじゃなくて、A級ランク戦でさんざん戦ってきてお互いの戦い方を知り尽くしているぶん、ハマればボーダートップの戦力にもなれるはずなのだ――ハマりさえすれば。
     そんな太刀川さんと二宮さんが、つい数週間前から頻繁にお互いの家を行き来するようになった。ここ数日は太刀川さんが二宮さんの家に入り浸っているものの、二宮さんが太刀川さんの家に泊まる日もあるみたいで、預かっていた鍵を返しに太刀川隊の作戦室に立ち寄ったこともある。てっきり二宮さんが泊まり込みでレポートを手伝っているんだと思っていたけど、いまの太刀川さんの話を聞くかぎりそうじゃないらしい。もしかして――とおれはひとつの想像をする。太刀川さんも実家を出たばかりだし、まだひとりで夕飯を食べるのが寂しいんだろうか?
     納得のいく答えだった。思い至った瞬間に太刀川さんの気持ちもわかって、おもわず「夕飯ならおれが付き合いますよ」と口にしていた。毎日付き合うのは難しいけど、たまになら太刀川さんと予定を合わせられるはずだ。昔はよく防衛任務終わりにみんなでファミレスに行っていたし。そう軽いノリで伝えた言葉に、なぜか太刀川さんが手を止めて驚いたようにおれを見つめた。
     目が合う。
     嫌な予感がする。
    「……出水」
    「はい」
    「おまえ、俺と一緒に夕飯食べたかったのか?」
    「………………え?」
    「さっきからなんか話が噛み合わないと思ったんだよな~。そっか、俺も最近二宮にかまいきりで出水のこと放っておいたもんな。わるいわるい。寂しがらせちまったな」
    「は!?」
    「今度国近と唯我も連れて焼肉に行くか」
    「いや、いやいやいや。そうじゃなくて――」
     まずい。誤解されてしまった。太刀川さんの中でおれは隊長から放っておかれて拗ねている隊員になっているらしい。慌てて言い繕うとしたものの、「なんでも好きなもの奢るぞ」と告げられて喉から飛び出しかけていた言葉がひっ込む。おれも健全な男子高校生なので“奢り”の三文字には弱い。しかも焼肉。一ヶ月前に二宮さんにご馳走してもらって以来だなと考えて、太刀川さんにしてはめずらしい店に違和感をもった。それこそ二宮さんじゃあるまいし。ただおれが違和感の正体を見極める前に、太刀川さんがなだめるように続ける。
    「今日は二宮と鍋にするから無理だけど、来週くらいには行けるだろ」
    「おれはいつでもいいんですけど……というか、二宮さんと食べるときは焼肉じゃなくて鍋なんですね」
    「最近はずっと鍋だな。餅も入れられるし、二宮も好きみたいだし。切って煮るだけだから楽なんだよなー」
     うちのお母さんとおなじことを言っている。鍋だと具材を切って煮るだけだから簡単だし調理に手間がかからなくてありがたい。と、昨日の夜に家族で鍋をしたときにも話していた。おれの隣でねえちゃんも「みんなで鍋を囲んでおなじものをつつくと美味しいしね」とうなずいていて、たしかに家族揃って食べる鍋は美味しかったなと思い出す。美味しいだけじゃなくて楽しかったしと昨夜の記憶が蘇って、あ、とおれは気がついた。
     もしかしたら太刀川さんと二宮さんがふたりで鍋を食べるのもそれが理由かもしれない。一緒に夕飯をとるようになった経緯まではわからないけど、すくなくともおなじ鍋を囲むくらいには仲が良いんだろう。ならおれがいましているのは余計なお世話でお節介のはずだ。
    「すみませんでした」と隊長を疑ってしまったのを謝れば、「いや、今回は俺が悪かった」と太刀川さんも謝る。
    「出水が寂しがっているのに気づけなかったわけだし」
    「あー……それなんですけど……」
     この誤解を解くのは難しそうだな。どう返せばいいのか悩んで黙っていると、太刀川さんがおれにはなにもかも理解の及ばない言葉を口にした。
    「ただ出水には寂しい思いをさせたけど――二宮も、ああ見えて俺が放っとくとすぐに拗ねるんだよ」
    「……………………」
    「おまえも二宮の師匠ならわかるだろ? あいつ甘やかしてくるわりに自分から甘えるのは下手だから、こっちからかまってやらないと寂しがるし拗ねるんだよな。そのくせ自分からは会いたいって絶対に言ってこないし。いつもあれだけはっきり言うやつなのに、こういうときだけ繊細でおもしろいよな~」
    「…………太刀川さん」
    「なんだ、急に暗い顔してどうした出水」
    「おれも一緒について行くんで、二宮さんに嫌われたときはふたりで頭を下げて謝りましょう」
     さすがに太刀川さんが二宮さんを本気で怒らせて、隊長と弟子が絶交したあいだに挟まれるのはきつかった。けれど太刀川さんはおれの真剣な面持ちに面食らったように目をまたたかせたあと、「大丈夫だろ」と妙に自信ありげに言う。にやりと笑う顔はランク戦で対戦相手を仕留めるときに何十回も見てきたもので、おれは隊長を信じてもいいんだろうか――と淡い期待を抱いた瞬間、あっさりと裏切られた。
    「二宮は俺のことが大好きだから嫌いにならないって」
    「ああ……」
    「あれだ。アイラブユーってやつだ!」
     アイラブユーのスペルがわからないだろう太刀川さんが、けれど二宮さんに愛されているのは微塵も疑っていないように言う。まるで本物の恋人同士みたいに。太刀川さんのどこか誇らしげな表情を眺めながら、もしかしたらふたりは本当に恋人なのかもしれない、とふと頭によぎった。そう考えればつじつまが合う。太刀川さんと二宮さんがお互いの家を行き来するのも。一緒に夕飯を食べるのも。二宮さんが太刀川さんを嫌わないのも。そして太刀川さんが二宮さんに愛されているのを知っているのも、ふたりが恋人なら当たり前だ。
     
     太刀川さんと二宮さんが付き合っている。
     
     いや。いやいやいやいや。ない。絶対にない。可能性のひとつとしてもあり得ない。太刀川さんと二宮さんが付き合うなんて、京介と唯我が親友になるくらい無理だろう。おれが頭に浮かんだ想像を振り払っているあいだに、太刀川さんのモバイルにメッセージが届いたみたいで、「お、二宮からだ」と嬉しそうにつぶやく。ポチポチと画面を操作してから、「さっさと終わらせて二宮の家に行かないとな」とふたたびノートパソコンに向き直った。
     やる気に満ち溢れた太刀川さんの姿を、無力感に苛まれながら見守る。
     もうおれにやれることはない。太刀川さんが二宮さんに本気で愛想を尽かされないように祈るだけだった。ただ最後に太刀川さんの部下として、おれの弟子である二宮さんにフォローをお願いするくらいはできるだろう。
     おれもモバイルを取り出して、「うちの隊長をよろしくお願いします」と二宮さんにメッセージを送る。ダメ押しにいま流行ってるうさぎのキャラクターが“お願いします”とセリフ付きで頼んでいるスタンプもつけておいた。二宮さんに送るにはかわいすぎるかなと迷ったものの、下手に堅苦しくしない方がいいはずだ。よし。既読がついたのを確認して、ジャケットのポケットにモバイルをしまう。
     もし太刀川さんが二宮さんに嫌われたら、おれがふたりに焼肉を奢って仲直りさせよう。二宮さんもおれから頼めば一回くらいなら許してくれるだろうし。
     心の中で決意して、太刀川さんの邪魔をしないように小声で帰り際の挨拶を告げる。ポケットから伝わる振動に背中を押されながら、おれはそっと作戦室から抜け出した。
     
     * * *
     
    「――なんか、出水に誤解されてる気がするんだよな」
    「太刀川おまえまた出水に迷惑かけたのか」
    「俺の話じゃなくて俺たちのことだよ。出水が俺と二宮が付き合っているのを知らないみたいでさ」

     二宮の家の台所にふたり並んで立つ。俺の家よりは広いけど、男ふたりが隣り合うとさすがに狭かった。二宮の腕にぶつからないように注意しながら白菜をちぎる。本当は包丁で切った方がはやいんだろうけど、二宮が豆腐を切るために使っているし、俺はふたりで料理を作るときは刃物を扱うのを禁止されていた。禁止したのはもちろん二宮だ。おまえが包丁を使うと指ごとまな板を真っ二つにしそうだとかいう理由で。さすがにそこまで不器用じゃないと言い返しかけたものの、料理に慣れていないのはたしかだし、二宮が俺を気にかけているのも伝わるからあえて否定しないことにした。付き合ってからわかったけど二宮はめちゃめちゃ過保護だ。まあ出水や三輪や二宮隊の隊員への態度を見ていたら予想できたことではあるのだが。
     その二宮が「出水が?」と不満そうに聞き返す。
    「おまえみたいに頭の悪い馬鹿ならともかく、出水にかぎってそれはないだろ。どうせおまえの方がろくでもない誤解をしてんじゃねえか」
    「………………」
     こいつ本当に出水が好きなんだな。一応恋人の俺ではなく師匠の肩をここまで持つとは思わなかった。まあ俺も忍田さんと二宮のどっちにつくかって言われたら、即答で忍田さんを選ぶから似たようなもんなんだろう。
    「でも出水の様子がおかしかったんだよな~」
     二宮が用意したザルに白菜をまとめながら、つい一時間前の会話を思い出す。俺が作戦室で報告書を書いているあいだ、出水はらしくなくそわそわしていた。まるでなにかを心配しているみたいに。聞いてくる内容は俺と二宮の話題ばかりで、最初は単に好奇心からの質問だと思っていたけど、俺たちの関係が誤解されているのだと考えれば納得がいく。
     つまり出水は俺と二宮が付き合っているのを知らないのだ。二宮から出水に説明したらしいし、俺も隠していないから察しているものだと決めつけていたけど、どこかで行き違いがあったのかもしれない。
     そんな俺の疑問を打ち消すように、ちょうど具材を切り終えた二宮が俺へ向けて自分のモバイルを放った。
    「おまえがなにくだらない勘違いをしているかは知らないが、さっき出水からメッセージが来た」
    「なんて?」
    「自分で見ろ」
     言われて受け取ったモバイルを見ると、すでにトークメッセージの受信画面が表示されていた。俺もよく連絡用に使うアプリだからだいたい見方はわかる。メッセージの送り主である出水のアイコンにも見覚えがあって、その横の本文には「うちの隊長をよろしくお願いします」と土下座の絵文字つきで書かれていた。マメなやつだなあ。送信時間的に俺との会話が終わってからすぐに送ったんだろう。メッセージのあとには出水と国近がよく使ううさぎのスタンプが続いていた。
    「俺たちの関係を誤解してるならそんなスタンプ使わないだろ」
    「あ~そうだよな~」
    “お願いします”とセリフ付きで頼んでいるうさぎは赤くてでかいハートを抱きしめている。まわりにも小さいハートがたくさん飛んでいて、バレンタインの広告みたいな甘い雰囲気があった。たしかに俺たちの関係を知らなかったら、このメッセージのあとにハートがいっぱい描かれたスタンプなんて送らないはずだ。二宮の言うように俺の方が勘違いしていたんだろう。これが杞憂ってやつなんだろうな、と最近忍田さんが使っていた言葉を真似してみる。意味は知らないけど使い方は間違っていないはずだ。たぶん。まあとにかく俺の思い過ごしだったわけで、しかし、だとすると――。
    「じゃあ出水のやつ、なんで俺が二宮に嫌われるのを心配してたんだろうな」
    「は?」
    「今日作戦室で報告書を書いていたら、出水がやけに心配そうに聞いてきたんだよ。俺がそろそろ二宮に嫌われるんじゃないかって。俺たちなんか出水を不安がらせるようなことしたか?」
    「…………覚えがない」
    「俺もないんだよな~。あれか、最近俺が二宮んとこに泊まってばっかでおまえがうちには来ないからか」
     付き合いはじめのころは交互にお互いの家を行き来していたけど、いまは俺が二宮の家に泊まりに行く方が多い。うちより二宮が住んでいるマンションの方が広いし、なにより部屋がいつも綺麗に片付いてるからだ。単にそれだけの理由なのだが、これからは細かい事情も出水に説明した方がいいんだろうか? でも話したら掃除しろと叱られるだろうしな――と、俺が悩みながらも二宮のシャツのポケットにモバイルをつっこむと、頭上から声が降ってくる。
    「それで、おまえはなんて答えたんだ」
     あ、これ二宮は気にしてるやつだ。
     俺たちのことで師匠の出水を不安がらせたのが気にかかったのか、俺たちがすぐに喧嘩別れしそうに見えたのに引っかかったのかはわからない。もしかしたら両方かもしれない。普段はあれだけ図太くてまわりを気にしないくせに、こういうときだけ妙に繊細になるのだ。まあそのぶん俺との関係を真剣に考えてくれているんだと思えば悪い気はしなかった。
    「さーなんて言っただろうな」
    「もったいぶってないでさっさと言え」
    「どうすっかな~出水に聞いた方がはやいんじゃないか? おまえ俺より出水の方に懐いてるみたいだし」
    「太刀川」
     焦れたように名前を呼ばれる。これ以上からかえば本当に嫌われるだろう。俺はふっと笑ってから、二宮を安心させるように意識して柔らかい声で告げた。
    「大丈夫だって返したに決まってるだろ。二宮は俺のこと大好きだから嫌いにならないってな」
     だろ? とささやいて、ちょうどいい位置にあった二宮のくちびるにキスをする。しばらく見つめ合って返事を待っていたが、二宮はいままでの甘い空気が嘘みたいに、「メシにするか」とあっさり俺から顔を背けて台所に向き直った。人のことは言えない自覚はあるものの、本当にマイペースだなとすこし呆れる。ただその背中から滲む雰囲気はいつもより和らいでいて、俺もふっと気を抜いて「腹減ったしな」と隣に並んだ。鍋の具材を皿に盛りながら、そういえば二宮から面と向かって好きだと言われたことがないのに気がついた。俺は二宮とは反対にそういうやりとりに興味がないタイプだけど、たまには言わせてみるのもいいかもしれない。
     そのときの二宮の顔を想像して、俺は鍋のあとの楽しみがまたひとつ増えたのだった。
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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