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    hn314

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    hn314

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    太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。

    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。

    「前に鍵を失くして家に入れなくなったことがあってさ。それから家を出るときは鍵をかけないように気をつけてるんだよ」
    「いや、鍵を失くさないように気をつけろよ」

     おもわず俺がつっこむと、隣人の男子大学生は笑って流した。朝の八時前。俺はこれから九時始業の職場に出社するところで、大学も一コマ目から講義があるならそろそろ駅に向かわないと間に合わないだろう。ただ隣人は部屋着らしいスウェット姿のまま。学校に行く用意どころか朝の支度すら終えている気配がない。今日は朝から講義が入っていない日というよりは、講義があってもサボる気でいるのかもしれない。ずっと空き部屋だった一◯三号室に越してきてからいつもゴミ出しの時間に遅れる隣人を見かねて、収集日には右隣の部屋のチャイムを鳴らして一緒にゴミを出すがてら雑談をする仲になった。が、「単位がやばい」「レポートの締め切りが二週間前だった」「寝坊して起きたらヒッシューの講義の時間を過ぎていた」という話は聞くものの、「昨日大学に行った」と言われたことはまだ一度もなかった。隣人はよく夜中にどこかに出かけては朝に帰って来るから、ゴミを出したあとは大学に行かずに二度寝しているんだろう。俺も二年前まではおなじ三門市立大学生だったから気持ちはわかる。オール飲み会とか徹夜カラオケとか深夜の警戒区域沿いめぐりとか、いまとなっては思い出すことすらないあのだらだらした時間が大学生のころはやけに楽しかったのだ。
    「だからオートロック?ってやつだと絶対家に入れなくなるから、一人暮らしをするときは防犯対策がゆるい部屋にするって決めてたんだよ。ちょうどいいアパートがあってよかったぜ」
    「そんな理由で部屋を選ぶやつはおまえ以外いないけどな……。つーか大家さんが目の前に住んでるんだから、鍵を失くしても頼めば合鍵で開けてくれるんじゃないか?」
     大家さんなら全部屋の合鍵を持っているだろう。足が悪いから家を空ける時間もすくないだろうし。ただ俺の提案に隣人は「深夜に帰ってくる日もあるのに大家さんを起こすわけにはいかないだろ」とさらりと返した。おおらかを通り越して言動も雰囲気もゆるい隣人だが、適当に見えてこういうところはちゃんとしているんだよな、と思う。ゴミも出し忘れたからといってしれっと時間外にゴミ置き場に放置しないし。そういうところが俺も気に入ってこうして面倒を見ているわけだが、それはそれとしていくら成人済みの男子大学生とはいえ鍵をかけないまま外出するのはまずいだろう。
    「…………アレだ。誰か信用できるやつに合鍵を預けとけばいいんじゃないか?深夜に呼び出しても来てくれそうなやつがひとりくらいはいるだろ。親とか兄弟とか友達とか──」
     恋人とか、と続けようとして、「ああ、コイビトとかな」と先に言われる。隣人は元バスケ部だった俺と変わらないくらい背が高いし、見た目も悪くないから彼女がいてもおかしくはない。おかしくはないが、恋人がいるそぶりも部屋に訪ねてきたこともいっさいなかった。予想外の反応に驚いて「付き合ってる子がいるのか?」と食いつき気味にたずねる。アパートの指定ゴミ置き場にふたりで燃えないゴミを捨てたあと。普段ならこのまま駅に向かうところだが、いまは遅刻覚悟でも恋人の詳細を聞きたかった。
     俺の内心を知ってか知らずか隣人がのんびり言う。
    「おう。最近付き合いはじめたんだよ。忍田さんや月見に頼んでも説教されるだけで引き受けてくれないだろうが、あいつなら俺が頼めば預かってくれそうだな。なんだかんだ面倒見がいいやつだし」
     めちゃくちゃ怒られるだろうがな~と隣人が顔をしかめながら漏らす。けれど頼みを引き受けてくれるのは確信している様子だった。シノダさんやツキミが誰かはともかく、隣人の彼女はなかなか世話焼きで恋人に甘いらしい。まあ俺ですらただ隣に住んでいるだけのルーズな男子学生のゴミ出しの手助けをしてしまうんだから、そうさせてしまう空気があるんだろう。
    「ここからちょっと離れたとこに住んでるやつだが、おなじ警戒区域沿いだし歩いて来れない距離じゃないだろ」
    「わざわざ警戒区域沿いに住むなんてめずらしいな。俺みたいに家賃を節約したいならともかく……あ、その子も大学生で一人暮らしとかか?」
    「そうそう。同い年で大学も一緒なんだよ。学部もおなじだぜ」
    「ということはその子も俺の後輩なわけか。どんな子なんだ?」
    「そうだなあ……」
     隣人が顎に右手をあてて首を傾げる。今朝はまだ手入れされていないヒゲを指でなぞった。ちらっと腕時計に目を向けると八時七分。いまから走ればいつも乗っている電車にギリギリで間に合う時刻。だが俺が軽い気持ちでたずねた質問がよほど難しかったのか、隣人は考え込んだまま口を開く気配はない。「なにから言うか迷うくらい良いところがたくさんあるのか?」と俺が助け舟を出そうとしたところで、隣人がようやく右手を下ろした。
    「──簡単には死ななそうなやつだな」
    「え?」
    「三門市になにが起ころうと、たとえ俺が死んじまっても、いっそ死んだ方がマシだってくらいボロボロな目にあわされても。絶対に死なずに最後までしぶとく生き残りそうなやつだ」
     襟足を撫でる風に冬の静けさが残る春の日。降水確率ゼロパーセントの晴天の下で、犬のしっぽみたいな寝癖をつけた隣人が口にした。まるで三門市がのどかで穏やかな街ではなく、戦場の最中にある街のように。講義をサボってばかりの大学生でも、まだ似合わないヒゲを伸ばす二十歳の若者でもなく、死線をくぐり抜けた兵士のように告げる隣人に口をつぐむ。俺の様子にふっといつものゆるい姿に戻った隣人が「タナカさんそろそろ出勤しないとやばいんじゃないか?」と深刻さのカケラもない口調で言った。慌てて腕時計を見ると全力で走れば電車に間に合う時間。諦めるか走るか迷ったが、ここは高校時代に体育祭で陸上部のやつに勝ったこともある俺の足を信じるべきだろう。
    「だからタナカじゃなくて俺は杉山な。つーかそっちこそ今日は大学に行けよ」
     らしくなく母親から聞き飽きるほど言われた小言を言うが、隣人はまったく行く気がなさそうな顔を隠さずに「おう」とうなずく。忘れずに恋人にもちゃんと鍵の話をしとけよと伝えかけたが、さすがに時間が惜しくて駅への道を駆け出した。「お、スギタさん足めちゃめちゃ速いな」と隣人ののんきな声が背中に降り注ぐ。

     これが俺がアパートの右隣に住む男子大学生こと太刀川から聞いた恋人の話で、代償として俺は入社以来はじめて遅刻するハメになったのだ。

     * * *

     三門市はのどかで穏やかな街だ。いや、のどかで穏やかな街だった。四年半ほど前までは。いきなりゲートと呼ばれる黒い穴が開いて、中から近界民と呼ばれるロボットみたいな化物が出てきて、街と平和と俺たちの日常をめちゃくちゃに壊した日をいまでも忘れずに覚えている。雨の日だった。俺は大学生だったが、雨のなか講義を受けに行くのが面倒で当時暮らしていた実家でゲームをしていた。母親からは「あんたまた講義をサボって」と呆れられたが、俺が勤勉な学生じゃなくてよかった、といまでは思う。三門市立大学の近くにゲートが開いて、学生や教職員が被害を受けたのだから。俺の家は運よく近界民に襲われることはなくて、家にいた俺も母も会社にいた父も無事だった。ただ無傷で済まなかったやつは何人もいて、俺は大学に講義を受けに行っていた友人の訃報を知らされたとき。亡くなった人たちのぶんも俺はこれからはちゃんと大学に通おうと決めたのだ。
     新しい三門市立大学の校舎はすぐに建って、おなじくいつのまにか三門市には真四角の基地が出来ていた。近界民の襲撃は続いていたが街はのどかで穏やかな生活を取り戻しつつあった。ただ昔とまったくおなじわけにはいかなくて、いまでも基地の周りは警戒区域として有刺鉄線で囲われている。ふと空を見上げると太陽の真下に黒い穴が浮かんでいるときがあるし、ときどき警戒区域からライブ会場のような光が漏れることもある。そして三門市にはボーダーという組織が出来て、志願者は街を守るためにボーダー隊員として近界民と戦っていた。
     俺の職場にもボーダーのポスターが貼ってある。休憩室に置かれた冷蔵庫の横の壁。たしか嵐山隊というアイドル並みに顔のいい隊員たちが爽やかな笑顔を浮かべているポスターで、総務も貼ったことを忘れているのか陽に晒されて色褪せても放置されていた。俺が狭い休憩室で昼メシのカップラーメンをすすりながら見るともなしに眺めていたとき。冷蔵庫から愛妻弁当を取り出しにきた事業部の部長が、俺の視線の先を追って「こんな子どもがなあ」とつぶやいた。自分の子供と同年代くらいだろう隊員が写るポスターを眺めて部長が言う。
    「なにも若い子が戦わなくていいだろうに」
    「…………若いから戦うんじゃないですかね。きっと、大人と違ってこの先の未来を信じているんですよ」
    「おお、君いいこと言うな」
     偉そうなことを言ったかと思ったが褒められる。ただ代わりに「営業部もうちの会社の未来のために頑張ってくれよ」とつつかれて、中高生時代にバスケ部の縦社会で培った体育会系らしさを活かして元気よく返事をした。「ボーダー隊員みたいだな」と苦笑されたのは嫌味だったのかはわからない。ボーダー隊員は嵐山隊みたいにちゃんとしているマジメなやつらで、あの日大学に講義を受けに行って死んだような人たちで。単位がやばいのに大学をサボって家で二度寝したりゲームをしたり締め切り前日のレポートを横目に昼メシのうどんをすすっていた俺のようなやつじゃないのだ。けして。

    「太刀川、ゴミ捨てに行くぞ」

     俺が会社を遅刻してから三日後。仕事のない土曜日の朝。右隣の部屋のチャイムを鳴らしてついでに声をかける。でも今日は薄いドア越しから返されるゆるい返事やドタドタと玄関まで駆けてくる音が聞こえなかった。もしかしたらまだ寝ているのかもしれない。太刀川とは三日前にゴミ出しをしたときに会ったのが最後で、アパートの前や近所のコンビニで姿を見かけることもなかった。太刀川も忙しかったんだろうかと考えながらもう一度チャイムを鳴らす。今日は燃えるゴミの日だから出し忘れるのはマズい。春だから虫も発生しやすくなっているのだ。
     俺の焦りが伝わったのか、ドアの反対側でガチャリと内鍵を開ける音がする。ただ顔をのぞかせたのは、寝起き姿の太刀川──ではなく、休日の朝に優雅にドリップコーヒーを入れていたところを呼び出されたような見た目の男だった。
    「いま捨てに行きます」
     固まった俺に告げてドアを閉める。ゴミ袋を取りに部屋に戻ったんだろう。ふたたびドアが開いたとき、男は三門市の指定ゴミ袋をふたつ携えていた。一人暮らしにしてはやけにゴミの量が多いから、冷蔵庫にあった賞味期限切れの食品でもまとめて捨てたのかもしれない。というかその前に。元バスケ部の俺と変わらないくらい背の高い男を見つめる。
     このオシャレなカフェで文庫本を片手にエスプレッソを飲んでいそうなイケメンは誰だ?
    「………………太刀川は?」
    「一昨日から『研修旅行』です。あいつからなにも聞かされなかったんですか?」
    「おう」
     うなずくと男は不機嫌そうな雰囲気になった。ただ俺に怒っているんじゃなくて太刀川に怒っているんだろう。状況から推測するに大学の研修旅行で太刀川は家を空けていて、代わりに男が部屋の様子を見に来たのだ。ついでに掃除してやったのかもしれない。俺はまだ太刀川の部屋に足を踏み入れたことはないが、けして綺麗じゃないのは想像がつく。ふたりでゴミ置き場へと向かいながら太刀川との関係を聞こうとしたところで、名乗り忘れているのに気づいたのか「二宮です。あいつとおなじ三門市立大学生です」と挨拶をされた。ということは太刀川の大学の友人なのかもしれない。二宮がゴミ置き場にふたつぶんのゴミ袋を丁寧に並べたのを見て、とっつきにくそうな見た目をしているがいいやつなんだろうな、と俺は思った。
    「太刀川はいつ研修旅行から帰ってくるんだ?」
    「予定通りにいけば一週間後ですね」
    「結構長いんだな。あいつが旅行先からちゃんと帰って来れるか不安じゃないか。すぐに迷子になりそうだろ」
     ゴミを捨てたあとアパートの出入り口の脇にふたり並んで話す。部屋着のライブTシャツとジーンズ姿の俺とは違って、二宮は休日なのに襟付きの白シャツを着ていた。それもしっかりアイロンがかけられたものを。雰囲気も言葉遣いもきちんとしていて、太刀川みたいなゆるいやつと仲良くなるタイプには見えないんだよな。と、好奇心からちらちら隣に目をやる。二宮は俺の視線に気づいているのかいないのか、部活の見学に来た新入生のような態度で俺の話を聞いていた。
    「太刀川、大学にはちゃんと通ってるのか?」
    「いえ。まったく見かけないです」
    「やっぱりな。俺も一緒にゴミを出すがてら太刀川と話すんだが、大学に行ったって話をいっさい聞かないんだよ。これから就活もはじまるのに将来どうするんだろうな」
    「いまみたいなふざけた態度のまま生きるんじゃないですか」
    「二宮くん意外とハッキリ言うな……まあ仕事はなんとか見つかるかもしれないが、太刀川は生活力がないだろ。それに地に足がついてないっつーか、目を離した隙にいなくなりそうっつーか、いなくなった先であっさり死にそうっつーか」
     はじめて太刀川と話したときからずっと思っていたことだった。太刀川はけしてフラフラしているわけでも、危なっかしいわけでもないが、ある日いきなり隣の部屋からいなくなりそうなやつなのだ。それこそ俺になにも言わずに『研修旅行』に出かけたように。「ちょっとコンビニに行ってくるわ」というような軽いノリで別れたあと、そのまま一生会えなくなりそうな。だから俺も太刀川をこの街に繋ぎ止めるように、らしくなくゴミ出しを手伝っているのかもしれない。
    「──大丈夫です」
     俺の言葉に二宮が答える。隣をうかがうと二宮はまっすぐな眼差しを俺にそそいでいた。
    「俺がかならずあいつを生きたまま連れ戻します」
     本当に太刀川がどこか遠い世界に旅立つのを覚悟しているような声だった。いつか三門市から出ていくのを予想しているような。そして太刀川が旅立った場所がのどかで平穏な街ではなく、三門市とおなじくらい過酷な戦場だと理解している声だ。
     清々しい土曜日の朝。窓を開けっぱなしにしているのか大家さんの家からテレビの情報番組の音声が漏れ聞こえる。「明日から雨。洗濯物は今日のうちに干しましょう」というアナウンサーのほがらかな声が現実感なく響いた。俺がどう返すべきか迷っていると、ふと思い出したように二宮から「あの馬鹿がいつも世話になってます」とお礼を言われる。太刀川とはまた違ったマイペースさに俺もふっと緊張がほどけた。
    「あいつが『研修旅行』から帰ってきたらスギウチさんに礼に行かせます」
    「いいよいいよ。俺が放っておけなくてやってるだけだし。あと俺は杉山な。スギウチじゃなくて杉山」
    「………………は?」
    「太刀川、俺の名前を覚えてないんだよ」
     杉の字が入っているぶんいままでのヤマダやサトウやタナカよりは成長しているんだろうが。太刀川に礼を言われるよりも正しく名前を呼んでもらう方が先だろう。俺が苦笑いをしながら言うと二宮は虚をつかれたように黙った。けれどすぐに俺の言葉の意味に思い至ったのか、「太刀川の野郎」と感情を隠さずにつぶやく。その言い方が落ち着いた見た目とは反対に子どもっぽくて、太刀川が二宮と仲のいい理由がわかる気がした。
    「じゃあ俺は雨が降る前に洗濯するから。二宮くんも太刀川の部屋の片付けを頑張れよ」
     ゴミ捨ての帰り。郵便受けの中身を回収したあと太刀川の部屋の前で二宮と別れる。太刀川の郵便受けに溜まっていたダイレクトメールやチラシや大学からの書類を抱えた二宮が、俺にうなずいてポケットから真新しい鍵を取り出した。普段太刀川が使っているコロッケの食玩のキーホルダー付いた鍵とは違うもの。それを使って親からはじめて家の鍵を預かった小学生のようにういういしい手つきでドアを開ける。二宮の背中が太刀川の部屋に消えるのを見守りながらいまになって俺は気がついた。

     どうして二宮は太刀川の部屋の合鍵を持っているんだ?
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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