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    hn314

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    hn314

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    付き合っている太刀川慶と二宮匡貴がボーダーに就職して幹部になったもののいまだに5歳児みたいな喧嘩をしているせいで隊員からはまったく恋人同士だとは思われていない話※加古望視点※左右なしです。

    未来捏造ネタ「あなたたち、また噂になってるわよ」
     ひさしぶりに三人で集まったランチだった。私がつけ合わせのサラダを食べ終えてから口にすると、向かいの席に座る太刀川くんと二宮くんが揃って顔をあげた。「また?」と聞き返すタイミングと言葉までまったくおなじだ。けれど声のトーンと浮かべている表情は真逆で、太刀川くんは面白がっているけど二宮くんは不満げに眉を寄せている。その二宮くんから「嘘じゃないだろうな」と疑われて、今度は私がくちびるを尖らせた。
    「先月入隊したばかりのC級隊員の子たちが噂してたのよ。“ほんとに太刀川さんと二宮さんは仲が悪いんですか?”って、私まで聞かれたんだから」
    「またか〜。これで三回目か?」
    「五回目だろ。おまえは足し算もできないのかよ」
    「八回目よ。ふたりとも自分たちの噂に無頓着なんだから」
     私が呆れながら言うと、うどんを啜っていた太刀川くんが「わるいわるい」とまったく悪びれずに謝罪する。そのうどんの汁が飛ぶのを避けるように、二宮くんが椅子をずらして太刀川くんから距離をおいた。もう。そんなことするから余計に噂が広がるのに。あたりを見みわすと席はほとんど埋まっていて、ボーダーの職員だけじゃなくて学生隊員の姿も多い。そういえばいまは冬休み中だったわね、とこのまえ堤くんが作っていた防衛任務のシフトを思い出した。
     ランチタイムの食堂。普段はこの時間帯には見かけない中高生の隊員もいて、昼休みの教室みたいににぎやかだった。一応ひと目を気にして隅の席に座っているけれど、あまり意味がなかったかもしれない。いま太刀川くんと二宮くんが揃うとどこにいても目立っちゃうだろうし。
     そんな注目の的になっているのを知らずに二宮くんが言う。
    「それで、今回はどんな噂なんだ?」
    「あなたたちがスーパーで言い争っているところを見かけた子がいるらしいわよ。二宮くんと太刀川くんがボーダー外でも喧嘩してたって、いま話題になってるんだから。今回も心当たりはあるんでしょ?」
    「喧嘩してるつもりはないんだけどな。スーパーならあれか、こないだ二宮が鍋なのに焼肉用の肉を選んで俺が止めたときか」
    「ちがうだろ。おまえが普段食ってる白米をもち米に代えようとか馬鹿な提案をしたときじゃないか」
    「名案じゃないか? 餅と米を一度に食えるんだからイッセキニチョウってやつだぜ」
    「もち米を炊飯器で炊いたからって餅になるかよ。すこしはものを調べてから言え」
    「それを言うなら二宮だって、一緒に暮らしはじめたばっかのころ食器用の洗剤と間違えて洗濯洗剤を買ってきたことがあったろ」
    「その話はいまは関係ないだろ」
    「関係なくありません〜。そういうところをいつ隊員に見られて噂されるかわからないんだぜ。俺もおまえもいまは立場ってものがあるんだから、下手なことはしないように気をつけないとだめだろ」
     太刀川くんがもっともらしく言い返して、反論できなくなった二宮くんが舌打ちする。私は慣れているけれど、はじめてふたりの会話を聞いた子は喧嘩をしていると誤解するかもしれない。もう二十六歳になった大人がこんな言い合いをするなんて、まだ十代の隊員から見ても信じられないだろうし。実際に太刀川くんは二宮くんをからかうのが好きだし、二宮くんも二宮くんで負けず嫌いたから、よく言い争いにはなっているのだ。とはいっても噂されるような深刻なものじゃなくて、子どもがするようなたわいないものなのだけれど。
    「それより二宮が食べないならこの肉じゃがもらっていいか」
     話に飽きた太刀川くんが二宮くんのトレイにのった副菜の小鉢を指す。二宮くんが「勝手に食え」と太刀川くんの前に置いた。きっと最初から太刀川くんに譲るつもりで残しておいたんだろう。二宮くんのこういうところがかわいげがあるのよね。そう私が微笑ましく見守っていると、小鉢を手にした太刀川くんが「じゃあ肉は二宮にやるよ」と、箸でつまんで二宮くんの口もとに差し出した。
     目の前の光景に、二度、まばたきをする。
     それを当たり前のように二宮くんが食べたとき、私は呆れ混じりに口にしていた。
    「……あなたたち、極端すぎるのよ」
    「は?」
     太刀川くんと二宮くんの返事が重なる。ふたりから不思議そうに見つめられる。私がどうしてため息を吐いているのかわかっていない顔だった。ふたりとも自分たちがしていることの自覚がないのかもしれない。というよりは、太刀川くんと二宮くんにとって、子どもみたいに言い争うのも恋人らしくいちゃつくのもおなじなのだ。
     昔からこうだったかしら──と、ふたりがつきあいはじめたころを思い出す。まだ私たちがボーダーに就職する前の大学生のときで、太刀川くんには髭が生えていたし二宮くんはいまよりずっと仏頂面だった。当時から二宮くんは太刀川くんに過保護だったし、太刀川くんも二宮くんを寂しがらせないようによくかまっていたけれど、ここまでわかりやすくはなかったはずだ。変わったのは大学を卒業して、ボーダーでの役職が隊長職から管理職へ変わって、警戒区域沿いのマンションにふたりで暮らしはじめたあたり。本人たちは人前でいちゃついてるつもりはないんだろうけれど、ふとした瞬間に普段の生活の姿が滲み出るようになったのだ。たとえばいまみたいに。
     それにしても太刀川くんと二宮くんがふたりでいると、喧嘩みたいな会話をするか、反対にとびきり甘くなるかのどちらかしかないのよね。ふたりの仲が悪いと噂されるのも困るけれど、でも隊員たちの前で恋人の空気を出しすぎたら本部長が困るだろうし。難しい問題だわ。どうすればふたりの関係が誤解されずに済むのかしら。
     私が悩みながら口もとに左手を当てると、ふとネイルを変えたばかりの指が目にはいった。
    「…………あ。いいこと閃いたわ」
    「どうした加古」
    「またチャーハンにろくでもない具材を入れようとしてるんじゃないだろうな」
    「失礼ね。あなたたちの仲が誤解されない方法がわかったのよ」
     ボーダーは職場恋愛禁止じゃないし、実際に職場恋愛から発展して結婚した職員もいる。太刀川くんと二宮くんも付き合っていることを隠してはいないし、知られたところでボーダーとしても不都合はないはずだ。しいていうならこの方法だと換装体を設定し直さないといけないけど、冬島さんや寺島さんに頼めばすぐにできるだろう。
    「まじか。そんな方法があるのか」
    「信じていいんだろうな」
    「ええ。誰が見てもひと目でわかるはずよ。今度の休みに一緒に買いに行きましょ」
     なんだかんだ自分たちの噂を気にしているふたりから、期待のこもったまなざしを向けられる。
     たしか今週の日曜日は、太刀川くんと二宮くんは揃って休みを取っていたはずだ。私は入隊訓練の指導役に呼ばれていたけれど、事情を話したら堤くんと来馬くんが代わってくれるかもしれない。ふたりも噂が流れるたびに心配していたし。
     小鉢を持っている太刀川くんの左手と、茶碗を持っている二宮くんの左手を眺めながら、頭の中で三門市のジュエリーショップをリストアップする。
     定番のシンプルなものも似合うだろうけど、ペアだとわかりやすい方がいいかもしれない。いまは男性向けのブランドも多いから、凝ったデザインのものも見つかるはずだ。
     太刀川くんと二宮くんがお揃いでつけるならどんな指輪がいいかしら。
     楽しい想像をめぐらせる前に、私はまずは今週末の予定を立てるためにモバイルを取り出した。
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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