愛は食卓にある 悠仁は肉をおかずに白米を口いっぱいに頬張っている。
この焼肉屋はチェーン店ではなく言わば知る人ぞ知る、近隣住民に評判の店だ。席はすべて埋まり、客の熱気と肉の焼ける音が店内を賑わせていた。
目の前の焼き網の上には一度返され裏面を火で炙られている肉が数枚。
肉を咀嚼する悠仁は旨味を口いっぱいに感じてその瞳を輝かせている。
一方で脹相は真剣な面持ちで肉を見つめ、その焼け具合を見極めていた。
──もうそろそろか。
網の脇に置いていたトングを取ろうとしたが、脹相が手を伸ばすより早く悠仁がそれを手にした。
いつの間にか咀嚼を終え、悠仁のリスのように膨らんでいた頬もすっかり平常時のそれに戻っていた。
──さっきのは焼き過ぎだったか。
焼き加減が好みではなかったのかと心中で反省点を述べる。
そして悠仁はトングで肉をつまむと、肉が焼けていることを確認し──
「ちゃんと食べな」
そう言ってその肉を脹相のタレの小皿に漬け、ご飯の上にのせた。
悠仁に肉を食べさせるのに夢中で、未だ白いままだったご飯にタレが染みる。
「兄ちゃん全然食べてないじゃん」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
にっこりと笑いながら、焼けた肉を追加で脹相の小皿に載せた。
──弟に世話を焼かれてしまった。
弟に自分を気遣わせてしまったことを恥じつつ、悠仁の優しさと肉の旨味を──噛みしめるように味わった。
「美味しい?」
「……美味しい」