【ワンドロ】オレの大切な人たち【放っておけない】 とある組織へ潜入していた諸伏景光の幼馴染は、組織壊滅作戦の折に負ったケガが原因で警察官という職を辞している。今ではほぼ元の体調に戻ったようだが、どうにも雨の日には動きが鈍くなっているように感じる。
組織が壊滅するまで潜入捜査官としてバリバリ働いていた幼馴染も、今では探偵兼カフェのオーナーだ。三つの顔を使い分けていた頃よりは落ち着いているのだろうが、万全とは言い難い体になった幼馴染に、兼業はやめた方がいいと再三言ったが、幼馴染に景光の助言が聞き入れられることはなかった。
幼馴染と共に壊滅作戦へ参加していた景光は、現在警視庁捜査一課に配属されている。上層部は当初景光を公安部から異動させる気はなかったが、退職し探偵となった元警察庁警備局警備企画課 (ゼロ)との接点を持たせるために異例の異動が決定された。
こういった経緯もあり、景光は休日おきに幼馴染のもとを訪れ、手伝い(監視)をしているのだ。
「零(ゼロ)、やっぱり一人じゃ無理があるよ」
モーニング終了後、テーブルの上を拭きながら景光はキッチンでランチに向けての準備をする安室を見た。安室は手元から目を離さないまま口を開く。
「……いや、こうして景光(ヒロ)がたまに手伝ってくれるだけで充分助かってるよ」
「でも……」
「まぁ、もう一人自分が居たらと思うことはあるけど」
「零(ゼロ)がもう一人かぁ」
己の懐へ誰とも知れない人間を入れる事への躊躇はよくわかるが、本当にこれで良いのだろうか。旧知の人間との連絡が絶たれた今、本来の幼馴染の姿を知っているのは景光だけだ。
どうにか偶然接点ができないかと幼馴染を現場へ定期的に呼び出しているが、警備部機動隊の二人と同じ現場になることはほぼないうえ、景光と同じ警視庁刑事部捜査一課に所属する伊達とも何故か再会させることを果たせないままでいる。
おそらく、安室が故意に会わないよう動いているのだろう。
景光がどうしたものかと頭を悩ませていると、スラックスのポケットへ入れていた携帯端末が着信を告げた。液晶画面にはブラック企業で忙しくしている先輩の名前が表示されている。
「あ、零(ゼロ)ごめん」
「構わないよ」
景光は店舗から出ながら着信のボタンをタップした。
「風見先輩、お久しぶりです!」
『あぁ、久しぶり』
久々に聞いた先輩の声は覇気が無く、沈んでいるように感じた。これは何かあったのだと思い、景光は携帯端末を耳へ強く押し当てる。
『……諸伏、今日時間あるか?』
「すっごく暇してたところですよ」
『そうか、急で申し訳ないんだが今から会えたりしないか』
「今すぐ行きます。先輩、今どこにいます?」
景光は先輩の居場所を聞き出すと、急いで安室の待つカフェへと戻る。
「ごめん、零(ゼロ)! ちょっと大学の先輩のとこ行ってくる!」
「何かあったのか?」
荷物を置いているバックヤードへ駆け込みながら景光は「何かあったみたい」と叫ぶ。景光との交流が続いている大学の先輩といえば、彼が慕っている風見という人間だろうと安室はあたりをつけ、荷物を抱えて出ていく景光の背中へ声をかけた。
「僕にできることがあったら何でも言ってくれ」
「ありがとう、いってきます!」