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    miyu_hoshiya

    @miyu_hoshiya

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    miyu_hoshiya

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    いつか再録本出すぞ~~ってことで、ぽちぽち加筆修正してみたり。
    支部にも載せてる。

    ##降風

    【降風】なんとなく好き 公安に身を置く立場であるというのに、うっかり口を滑らせてしまうとは。これは今思い出しても、避けるべき、恥ずべきことだったと風見裕也は静かに語った。
     ついうっかりという言い訳はとても褒められたものではないが、突如己の右腕からもたらされた内容は悪くないものだった。そう降谷零はあの日を振り返る。

    「好きです」

     好きなパンですか? 食パンもあんぱんもいいですよね、どれも好きです。という日常生活で交わされる「好きなものについて」の話題のような口調で自らの右腕から発せられた平坦なそれを、ふと思い出して降谷は口角を上げた。
     怖い上司が警察庁からやって来たと部屋を同じくする警視庁の者に思われていることは、向けられる目や声色、雰囲気から察しがついていた。警察庁で事前に引き合わされ、片腕として共に在ることとなった風見にさえそう思われているのだから、無理も無いことだ。
     怖い。結構なことだ。良好な関係を築くことができるのが一番ではあるが、年齢や見た目からなめられるよりはよほど良い。やり方は違えど、見ている方向が同じであればそれでいい。
     日本の国益のため――それさえ信じることができれば、あとは己がどう思われていようと構わないとさえ思っていた。
     だからだろうか、いつものように風見を定期報告及び情報共有のために呼び出し、すべての用事が終わった後、己が姿を消す直前に風見のいる方から聞こえた呟きに、降谷は我が耳を疑った。

    「好きです」

     あんなにも自分を恐れていた男から発された言葉とは到底思えなかった。嫌われてはいないだろうという気持ちは確かにあった。それでも、好かれてもいないだろうという確信も同じようにあった。
     それがまさか「好き」とはな。
     一瞬耳が壊れてしまったのかと思ったが、空耳として処理するには生々しい声に降谷は「ふっ」と息のような笑いを零した。
     己が信頼している者に程度は分からないものの、好かれている。その事実は彼の胸を弾ませた。信頼している者に嫌われて嬉しい者など、好かれて悲しい者など、きっといないだろう。少なくとも降谷はそういう類の者ではない。
     風見が姿を消すまで身を潜ませながら、降谷は何度も頭の中で彼の声を再生した。
     あの言葉がきっかけで二人に何か起きたかといえば、何も起きはしなかった。
     ただ、風見はうっかり口を滑らせた己を恥じ、いっそう口元を引き結ぶようになり、降谷はインカムから耳に届く声が不思議と心地よくなっただけだ。
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