Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    hozumiya

    @yoru_h_i

    書いたものを投げるところ

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 28

    hozumiya

    ☆quiet follow

    結構です! 降谷さん! に収録していたものとリンクしている作品を同時に掲載してみる。

    某文庫小説アンソロへおよばれした際の作品へ加筆修正したもの。
    なので、読んだことある方もいるかも

    ##降風

    【降風】麦酒の夜に/コンビニエンスストアと麦酒【麦酒の夜に】

    「あ」

     その現象は、降谷が窓辺に寄り、人と連絡をしている時に起きた。目に映る光景に、思わず驚きの声をあげ、回線先の存在も忘れて魅入ってしまう。そんな降谷に、何か起きたのかと、通話の相手――風見が戸惑いを口にした。

    『何か?』

     緊張と疑問に彩られた声に、意識が耳へと戻される。もう一度だけ空を見上げ、降谷はそれに背を向けた。

    「いや、梅雨の月が見えた」

     突然の話題に、降谷が何を伝えようとしているのかを探っているのが、沈黙から伝わってくる。そんな風見の様子に、降谷は口角を上げた。

    「ふっ……いや。こっちは、一日曇り空だったんだ」
    『あっ、なるほど。えー……こちらは五月晴れでした。今は麦星アルクトゥルスが見えますよ』

     伝えられた天気の違いに、風見が今近くにいないことを思い出す。聞いていたはずだが、記憶の片隅に置いていたうえ、連絡をすればすぐ返事がくるものだから、距離をそんなに意識していなかった自分に降谷は呆れる。

    『ビールが飲みたくなる季節になりました』
    「おい、風呂上がりにぐっとやりたくなるようなことを言うな」

     ビールが喉を通り抜ける感覚を思い出し、冷蔵庫を開ける。中にはスポーツドリンクが入っているだけで、目当ての品はない。

    『あれ? 禁酒中でしたか?』
    「そういうわけじゃないが、買い置きしてなかった」

     バタンと冷蔵庫の扉を閉め、その前に座り込む。視界にだらけた裸足が映り込み、拗ねた気分になった降谷は、意味も無く指先をぴこぴこと動かした。

    『それは残念でしたね』

     全くそう思っていない声が聞こえ、降谷は握りしめた携帯端末を横目で睨み付ける。もちろん、見えない相手が堪えるわけもなく、ははという笑い声さえ聞こえてくる始末だ。

    「帰ってきたら覚えていろよ。…………そういえば、お前はクラフトビールを知ってるか?」
    『クラフトビールですか? 聞いたことはありますが、飲んだことはありません。それが何か?』
    「今日、最近人気が上がっていると教えられてな」

     フルーツが入っている物が特に。ビールを苦手に思っていた人にも、飲みやすいと話題らしいと付け加える。降谷は、熱心に身振り手振りまで付けて説明してきた、アルバイト先の女性の姿を思い浮かべた。

    『それでは、それも二人で飲むものに加えておきましょう』
    「そうしてくれ」

     一段落ついたらアルコールの入った酒を飲み交わそうという、二人の約束の厚みはこうして増していく。いったい実現する頃には、どれだけの酒を食卓に並べることになるのだろうかと想像して、降谷は一人未来を夢見るように目を細めた。

    「明日にはこっちに戻ってくるんだったか?」
    『はい。降谷さんは暫くあちらでしたか』

     ようやく立ち上がる気力の出た降谷は、食卓の上へ投げていた財布を手に取ると、尻のポケットへねじ込む。

    「あぁ。僕が留守する間、頼んだぞ」

     降谷はそう告げると、返事も聞かずに回線をぶつりと切る。玄関で靴を履き、傘を手に取るか一瞬悩み、結局愛車の鍵が入ったキーケースだけを手に取ると、外へと脚を踏み出した。


    【コンビニエンスストアと麦酒】

     キーケース片手に外へ飛び出した降谷は、最寄りからは離れたコンビニエンスストアへと車を走らせていた。真夜中とも言える時刻に差し掛かっているにも関わらず、道の上には赤い洋灯が列を作っている。ちらりと上へ目を向ければ、風見から電話越しに伝えられた「麦星アルクトゥルス」が見えた。
     闇の中で輝くそれを打ち消すように、コンビニエンスストアが掲げる看板の強い光が目に入る。降谷はカツンとウィンカーを表示させ、駐車場へと車を滑り込ませた。
     入店時に流れる独特の音楽を耳に入れつつ、降谷は一番奥へ配置されたビールのコーナーへと一直線に向かう。
     なんとなく青いラベルの物を飲みたい気分で、棚の中からそれを選び出しレジへと向かった。未成年か否かの確認ボタンをタッチし、小銭で支払いをした降谷はビニールに包まれたビールを受け取る。
     再び車を走らせ帰宅した降谷は手を洗ってから、コップと共に卓袱台へ缶を置き、その上でプルタブをプシリと開けた。コップへと中身を注げば、明るい黄色が泡と共に弾け、上部へ白い泡の布団を作る。
     ぐいっと一気に煽ると、腹の底へ溜まっていた見えない疲れがはじけ飛ぶ感覚がした。

    「はー……彼奴の言うとおり、本当にビールのいい季節になったな」

     降谷はそのまま後ろへバタリと倒れると、一人ハハと笑った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    KaraageMitsu

    MOURNING #ルクヴィル版ワンドロワンライ60分1本勝負


    【秘密】


    時間内に書けなかったので。




    *****************
    『願いが叶う赤いリンゴ』

    それは、伝統あるポムフィオーレの寮長が、代々受け継ぐものの一つ。

    「ヴィル、少し話があるんだけどいいかな?」

    外の仕事から戻ってきて、そろそろ一時間ほど経っただろうか。
    恐らくこれぐらいの時間であれば、ヴィルの白く美しい肌を保つための入浴を済ませ、柔らかな表現を可能にするためのストレッチも終えた頃合い。

    留守の間にあったことを報告するために、彼の自室を尋ねるが一向に出てくる気配がない。

    「ヴィル?」

    私の隣にあるヴィルの部屋の扉が開く音がしたのは、一時間前の一度きり。
    つまり、再び出かけたとは考えにくい。

    …となれば、残された場所は一つ。

    鏡台の一番高いところに成る艶やかで美味しそうな赤い禁断の果実。
    その果実に手を伸ばし、優しく撫でるとゆっくりと沈み込みカチっと何かにはまる音がする。

    「やはりここにいたんだね、ヴィル」
    「…ルーク」

    姿見の後ろの壁に隠された小さな小部屋。
    そこにヴィルはいた。

    願いを叶えるリンゴがもたらしてくれるのは、大釜や珍しい薬品など。
    願いを叶えるために最終的には自らの努力が必要という辺りが我が寮に相応しい部屋だ 1286

    KaraageMitsu

    DONE『名前を呼ぶ声』
    #ルクヴィル版ワンドロワンライ60分1本勝負





    ****************
    「で、今日はどこで油を売ってたわけ?」
    「オーララ。そんな険しい顔をしていては、せっかくの美貌に翳りが出てしまうよ?」
    「…誰のせいよ」

    明日の寮長会議に提出するために、今日中に仕上げなくちゃいけない書類があってルークを呼んでいたのに……。

    「私のせいかい?」

    きょとんと大きく目を見開き小首を傾げてみせるルークに、思わず口から漏れるため息で肯定をしてしまう。

    「つい、珍しいものがいたから、学園の外の森まで追いかけてしまってね」
    「外で暴れたなら、アタシの部屋に来る前に、きちんと身をきれいにしてから来てるわよね?」
    「もちろんシャワーは済ませてきたよ。キミと約束していたから、これでも急いで駆けつけたのだけどね…」

    約束をしていた時間は3時間前のことで、ルークは来ないと判断して仕方なく一人で山積みの資料を纏めて一枚の企画書を作り終え、いつもより遅くなったストレッチとスキンケアを手は抜かずに、けれどなるべく急いで済ませ、後はベッドの中で身体を休ませるだけといったところだったのに…。

    「…アタシは、もう寝るから」

    部屋から出て行ってと少し睨みつけるような視線を投げかけていたけれど 1344