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    hozumiya

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    hozumiya

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    妖パロ

    ##降風

    【降風・ワンドロ】静かな山よ、カムバック【困った】 風見裕也は本当に本当に弱い幽霊である。ぬらりひょんや天狗といった名のある妖とは違い、いつ生まれたのかいつからここにいるのかさえも分からないようなそんな存在だった。
     山の中にある小屋を寝床に暮らす風見は、小屋の前に畑を作って暮らしていた。今は大根とサツマイモを一緒に育てている。もうすぐ大根は収穫できるなと観察していると、村へと続く道の方から近頃よく耳にするようになった少年少女の声が聞こえてきた。

    「飛田さん、こんにちは! わ~、大根、大きくなってる!」
    「ほんとですね、これなら収穫できる日も遠くなさそうですよ!」
    「まだ食えねえのかよ~」

     本来であれば力の弱い風見の姿は人間に見えないはずなのだが、どうにも小さい子供には見えてしまうらしい。理屈はよく分からないが、子供という存在はこちら側に近いのだろう。風見は人のふりをして子供たちの方へと歩み寄る。

    「君たち、いつも言っているが……」
    「こんな山奥に子供だけで来るんじゃない……ですよね。分かってます!」
    「だからね、今日は安室のお兄さんにも着いてきてもらったの」

     ほらと少女に紹介されて初めてそこに子供以外の何かがいたことに気が付いた風見は、全身をビクリと震わせた。健康的な肌に、小麦のような髪を靡かせた得体の知れない男はにこりと風見へ微笑む。

    「こんにちは」

     足元からじりじりと焼かれるような感覚や、首を絞められていると錯覚するほどの息苦しい空気に、風見の脳は目の前に立つ男をただの人間ではないと判断する。できることなら塵となってこの場から消え去ってしまいたい。
     それでも、この場は風見のモノであり、荒らされるわけにはいかないという矜持で風見も「こんにちは」と男へ笑ってみせた。
     一刻も早く男から離れたかった風見は、子供たちへ台所へ行くことを告げて畑を離れる。しかし、風見の思いなど知らない男は風見のあとをひょうひょうと追いかけてきた。

    「こちらには一人で?」
    「ええ」

     風見は鋏で枝豆を枝から切り離しながら頷く。気が付いたらここにいた風見には、家族のような存在はない。それこそ子供たちがここに来るまでは動物以外の生き物を見かけたことすらなかった。

    「いい山ですよね。心が洗われるようだ」

     いい山というのは本当のところで、風見がこうして実体を持つことができているのも、この山の力によるところが大きい。山を離れてしまえば風見はたちまち空へと溶けてしまうだろう。
     鍋に火をいれ、切り終わった枝豆を水にさらして汚れを落とすと、風見は塩を枝豆へもみこんだ。

    「最初は子供たちを食べる鬼でもいるのかと思っていたのですが、どうやら違ったようだ。そんなものが内にいるのをこの山は許さないだろう」
    「貴方の言うような鬼は人も娯楽もないようなところよりも、人里の方へよく現れると聞きますよ」

     かつて京の都は幾度も鬼に襲われ、その度に場所を移したとこ聞く。この山は静かなもので、時折天狗が通り過ぎるくらいのものだ。
     沸いた湯へ枝豆をいれながら、風見はわざとらしく視界でゆらゆらとゆれるものを無視する。ふさふさと存在を主張するそれは、次第に本数を増やしていく。
     鍋の中で踊る枝豆と、隣で踊る九の尻尾。

    「もう君も長いことここにいるのであれば、いくら幽霊とはいえ個として確立していてもおかしくはない。近くの村へ遊びに行くくらいなら平気だろうに」

     今にも九尾の力に押しつぶされてしまいそうだというのに、とんだ戯言だと風見は安室へ半眼を向け、ゆであがった枝豆をザルへとうつした。

    「そんなことより、さっさとその尻尾を引っ込めてこれ子供たちに持っていってください」

     風見はこれ以上構うと大変なことになると、さっさと安室を追い出した。まだ熱の残る枝豆を安室に押し付けて畑の方へと追いやった風見は、一人台所へうずくまると頭を抱えた。

    「いや、勘弁してくれ!」
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    recommended works

    KaraageMitsu

    MOURNING #ルクヴィル版ワンドロワンライ60分1本勝負


    【秘密】


    時間内に書けなかったので。




    *****************
    『願いが叶う赤いリンゴ』

    それは、伝統あるポムフィオーレの寮長が、代々受け継ぐものの一つ。

    「ヴィル、少し話があるんだけどいいかな?」

    外の仕事から戻ってきて、そろそろ一時間ほど経っただろうか。
    恐らくこれぐらいの時間であれば、ヴィルの白く美しい肌を保つための入浴を済ませ、柔らかな表現を可能にするためのストレッチも終えた頃合い。

    留守の間にあったことを報告するために、彼の自室を尋ねるが一向に出てくる気配がない。

    「ヴィル?」

    私の隣にあるヴィルの部屋の扉が開く音がしたのは、一時間前の一度きり。
    つまり、再び出かけたとは考えにくい。

    …となれば、残された場所は一つ。

    鏡台の一番高いところに成る艶やかで美味しそうな赤い禁断の果実。
    その果実に手を伸ばし、優しく撫でるとゆっくりと沈み込みカチっと何かにはまる音がする。

    「やはりここにいたんだね、ヴィル」
    「…ルーク」

    姿見の後ろの壁に隠された小さな小部屋。
    そこにヴィルはいた。

    願いを叶えるリンゴがもたらしてくれるのは、大釜や珍しい薬品など。
    願いを叶えるために最終的には自らの努力が必要という辺りが我が寮に相応しい部屋だ 1286

    KaraageMitsu

    DONE『名前を呼ぶ声』
    #ルクヴィル版ワンドロワンライ60分1本勝負





    ****************
    「で、今日はどこで油を売ってたわけ?」
    「オーララ。そんな険しい顔をしていては、せっかくの美貌に翳りが出てしまうよ?」
    「…誰のせいよ」

    明日の寮長会議に提出するために、今日中に仕上げなくちゃいけない書類があってルークを呼んでいたのに……。

    「私のせいかい?」

    きょとんと大きく目を見開き小首を傾げてみせるルークに、思わず口から漏れるため息で肯定をしてしまう。

    「つい、珍しいものがいたから、学園の外の森まで追いかけてしまってね」
    「外で暴れたなら、アタシの部屋に来る前に、きちんと身をきれいにしてから来てるわよね?」
    「もちろんシャワーは済ませてきたよ。キミと約束していたから、これでも急いで駆けつけたのだけどね…」

    約束をしていた時間は3時間前のことで、ルークは来ないと判断して仕方なく一人で山積みの資料を纏めて一枚の企画書を作り終え、いつもより遅くなったストレッチとスキンケアを手は抜かずに、けれどなるべく急いで済ませ、後はベッドの中で身体を休ませるだけといったところだったのに…。

    「…アタシは、もう寝るから」

    部屋から出て行ってと少し睨みつけるような視線を投げかけていたけれど 1344