秘密のデート「シッ……カザマ、静かに」
七ツ森実は恋人の風真玲太を壁に押し付け囁く。雑踏にまみれた、はばたき商店街。入り組んだ道の先の裏路地に2人の人影があった。
「絶対、こっち行ったよねーー」
「Nana、どこに行ったんだろ」
「探そ探そ」
表通りからは複数の女の子の甲高い声と足音が響く。
「七ツ森……」
「カザマ……。ごめん、巻き込んで。せっかくのデートだったのに」
やっぱり無理があったのかもしれない。サングラスとマスク、フードで変装していたとはいえ気づく人は気づく。Nanaのオーラはそう簡単に消せるものではない。
今日は2人で洋服を買おうと思い立ち、ショッピングデートを決行した。カザマに似合う服を見立てるのは七ツ森にとってすごく楽しみな事だった。
ところが商店街を歩いて数分で、Nanaだと気づいた女子グループに囲まれてしまった。やっとのことで逃げ出して路地裏に隠れた。一緒にいるのがはばたき市の若様だって気付かれたら余計に変な噂が立つかもしれないと思い、自分がかけていたサングラスを風真につけて庇うように身を縮める。一体、これからどうしよう……。
「やっぱり、Nanaの格好できたのがマズったのかな。地味な七ツ森実の格好でくれば……」
「あのなぁ」
「え?」
「……バカツ森」
コツン。おでこに小さな衝撃。デコピンされたと気づくまでに数秒かかった。
「気にしすぎなんだよ」
「え……?」
風真が七ツ森の顔を両手で包み込む。その直後、柔らかな感触が七ツ森の唇に触れる。
「カザマ……!!こんなところで……」
「誰も見てないって。それに、仮に見られたとしても俺は気にしない」
風真が七ツ森の手をギュッと握る。
「俺がお前の恋人だって、世界中に知れ渡っても俺は大丈夫。胸を張って言える。俺は七ツ森実の事を愛してますって」
「カザマ……俺……。俺もカザマのこと……愛してるよ」
「ははっ……。じゃあ胸を張れ」
風真がサングラスを七ツ森の胸ポケットに差し込み、七ツ森はフードを外した。
「ほら、出るぞ。洋服、選んでくれるんだろ?」
「うん……!!」
七ツ森の顔にはもう迷いがない。
2人は手を繋いで表通りへと闊歩していった。