夜の帳が落ちるまで◇ ◇ ◇ ◇ ◇
高校生活3年目の夏、あの子はカザマじゃない他のやつと花火大会に行くらしいと言う噂を耳に挟んだ。
俺は塞ぎ込み落ち込んでるように見えたカザマを花火大会が始まる前の海に誘った。
「夏の海は好きじゃない」なんて言いながらもついて来てくれた。
花火大会の会場から離れた、人気の少ない砂浜に着いて、ジャリ……と砂を踏みしめながら潮の満ち干きを二人で無言で眺めていた。
「分かってたんだ……もう……」
海に沈む夕焼けに照らされた泣きそうな顔が、彫刻みたいに綺麗だと思った。涙が零れそうな赤い瞳はルビーみたいで美しかった。俺は反射的にカザマの事を抱きしめていた。
「カザマ……。言わないでいい。大丈夫だから」
「俺……、俺……。三年間何やってたんだろうな」
「俺は少なくとも、三年間カザマと居れて楽しかったよ。カザマだって辛い事ばかりじゃ無かった筈だ」
「でも……俺の恋、終わっちまった」
俺はカザマの事を引き寄せる。俺は意を決して、耳元で囁く。三年間思い続けた気持ちを、秘めていた恋心をカザマにぶつけようとしている。関係性が壊れてしまうかもしれない恐怖心よりも、チャンスが巡ってきたという期待感が勝っていた。
「俺と新しい恋始めてみるっていうのは……?」
「えっ……!?何……、七ツ森と……恋?」
「そうだよ。好きだ。俺、お前の事が好きなんだよカザマ。三年間、ずっとカザマの事だけ見てた」
「マジ……かよ」
カザマは驚きを隠さず目をまん丸くして俺を見つめる。
「いきなりこんな告白して、気持ち悪いよな、ごめん。嫌だったら逃げてもいいよ」
「いや、驚いて……俺……。」
それでもカザマは俺の腕の中から逃げない。これは脈アリと捉えてもいいのか。心臓がバクバク煩い。カザマに緊張が伝わってしまいそうだ。
「嫌じゃ、なかった?」
「嫌だったら、とっくに逃げてる」
「え、それって…………」
カザマが俺の方を振り返って告げる。
「忘れさせてくれるんだろうな……?」
俺はカザマの事をキツく抱きしめた。
「俺がカザマの恋、上書きしてやる。例え何年かかっても」
気がつけば夕日は沈み、あたりに夜の帳が落ちている。遠くで花火の打ち上がる音が聞こえる。
「俺たちも、行こう!」
おれはカザマの手を取り足早に花火大会の会場へと向かい出して行った。
終