七風リレー小説(1)カランカランカラン
商店街に鐘の音が響き、周囲の人の目線を集める。「おめでとうございます!はばたきランドタウンチケット2枚、大当たりです!!」
赤い法被を羽織った恰幅の良いおじさんに「賞品」と書かれた大きめの封筒を手渡され、夕飯の買い出しをしていただけの風真玲太は驚きで固まってしまう。
「あれって……風真家の若様じゃね?」
「福引き、当たったのかな」
風真玲太ははばたき市ではちょっとした有名人なのだ。周囲の注目を集めヒソヒソとした野次馬の声が聞こえる頃には我に返り「あ……りがとうございます」と小声で謝礼を絞り出すと、賞品の封筒を夕飯の材料が入っているトートバッグにねじ込み、足早に帰路に着いた。
(遊園地のチケット??俺はただトイレットペーパーと挽肉とピーマン、他にちょっとした食材を買っただけなのに)
地面の煉瓦道を見つめながら歩いているとやがて冷静になり、1人の男の顔が思い浮かんだ。グラデーションのピンク髪に黒縁メガネで高身長な男、七ツ森実だ。高校を卒業してから早一年。七ツ森実から想いを伝えられて付き合い出してからもちょうど一年が経つ。
今日はちょうど七ツ森が風真家に夕飯を食べにくる日だ。ピーマンの肉詰めと一緒に、このチケットを出したらどんな顔をするだろう。喜んでくれるだろうか。
恋人の喜ぶ姿を思い浮かべると、風真の足取りは次第に浮き足だったものになる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「コンバンハ」
夜の19時をまわった頃、七ツ森実が風真家の玄関口に現れる。大きいサイズのブーツをいそいそと揃えている姿が可愛くて風真はクスリと笑った。
「来たな」
「お邪魔シマス」
「手洗ってこい」
「うん」
七ツ森は手慣れた様子で廊下を進むと洗面所で手洗いうがいをし、台所へと向かう。
エプロン姿の風真が妙にそそる。堪らなくなって思わず正面から抱きしめる。
「あーーー1日ぶりのカザマだーーーー」
風真の髪に顔を埋め、スゥと息を吸うとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「おい、コラ。ちょっと、そんなに強く抱きしめられたら息できないだろ」
風真は照れ隠しに身じろぐと七ツ森の背中をバンバンと叩いた。
「わりぃ」
七ツ森の腕が名残惜しそうに離れてゆく。
「今日のご飯なぁに?」
「今日はピーマンの肉詰め」
「わ!!嬉しい。俺の大好物」
「あと焼くだけだから、座って待ってろよ」
カザマはキッチンに立ちあからじめ用意してある肉詰めを熱したフライパンに並べ始める。
次第に肉の焼ける匂いが充満し七ツ森の食欲を掻き立てる。
「うまそーな匂い」
エプロン姿の風真の後ろ姿も美味そうだと思ったが、怒られそうなので黙っておく。
「できたぞ。冷めないうちに、召し上がれ」
食卓にはピーマンの肉詰めの他にコンソメスープ、コールスローサラダが並べられる。七ツ森は目をキラキラさせてご馳走と風真を交互に見る。
「俺って世界一幸せかも」
「大袈裟だろ」
恋人の幸せそうな笑顔が見れて、料理を頑張ったかいがあるというものだ。風真は照れ隠しに頬を掻いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
デザートの手作りティラミスを食べ終わった頃、カザマはそろそろだと思い賞品のチケットを後ろ手に持ちソファでくつろいでいる七ツ森の前に立った。
「カザマ……?どうしたの?」
「遊園地、好きか?」
「え………?」
バッと目の前に賞品をだす。
「え……?何ソレ」
「当たったんだ。遊園地のチケット」
「えっ……!!!スゴイじゃん!!カザマ!!」
「わ、ちょ、ちょっと…!!」
七ツ森が再び長い腕で風真を抱きしめる。七ツ森の腕の中は温かい。この温かさに何度、助けられたことだろう。卒業後、失恋して項垂れていた風真を救ったのも七ツ森の腕の温かさだった。ゆっくり、ゆっくりと風真の悲しさを癒してくれたのだった。
「行く、よな?」
「モチロン!」
「良かったよ。お互い学校が春休みだしな」
「天気予報チェックしよーぜ」
七ツ森はソファに寝転び、スマホでウェザーニュースを立ち上げる。
「明後日が快晴だ。気温も問題ナシ」
「そうか、それじゃ早速行くか?」
「あ〜〜〜、カザマと遊園地デートなんて嬉しすぎっ」
「何だよ、大袈裟なやつだな」
「たっぷり楽しみマショ」
期待に満ち溢れた2人の夜はゆっくりと更けて行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇