声 以前戯れに、一度だけ彼女を抱いた事があった。この場合の戯れとはなにも自分の事だけではなく、彼女の方もそうだったとはっきりと言わせてほしい。
いつもの調子で「今夜遊びませんか?」と誘った自分に彼女は少し考えてから「いいよ」と、そう返したのだ。憎らしく、妬ましく、いっそ殺してしまいたいとまで思った相手を抱く事になり正直な所面食らった。さりとて冗談ですよと言葉を翻すのは悔しくて、いっそ弱みにでもなればいいと無理に笑ってその肩を抱いた。
彼女はどうやら男女の営みに興味があるようで──君の好きな事が知りたいだとか、そんな愚かな事を言っていたが──だったらわからせてやろうとそんな気持ちだった。
さすがに学内はまずかろうと何故か自分が気を利かせ、こっそりと連れ立って出かけて行き街の安宿に辿り着く頃には多少楽しくなっていた。
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