新しい年「ベレスさん……もう一回だけ……」
「っ……シルヴァン、も……それ、なんかいめ……」
「んー……? や、わかんないですねちょっと」
「うそつき……ぁっ……っ……!」
ぐちゅり、と音を立ててまた中に分け入って布団の中で汗ばむ身体を寄せ合う。身体を触ってキスをして痕を残して──というのはもうとっくのとうにやり切って、今はただひたすらに繋がっていたい。
年の瀬の忙しさはお互い様で近頃は全然触れ合えていなかったから、その飢えを満たそうと本能が働くのは至極当然の事で。
繋がりながら後ろから抱きしめて、手を取り指先を絡め形を確かめたり話したり。一番近いところでこの人を独り占めできる幸福。
「んん……いま、何時?」
「えっと、どうでしょう? 俺の向きだと、時計がみえなくて……」
壁にかけた時計は自分と彼女の背の方向だ。首を捻って見てもいいがそんな事で少しでも離れたくない。
「このままぐるんって向き変えましょうか?」
身体を抱えて反転するような動作を軽くやってみせると、ベレスがぎゅっと身をかためた。
「……いやだ」
「心配しなくてもうまくやりますよ? ちゃぁんと気持ちよくっ、ぁ……ほら、ベレスさんも悪い気してない」
「もう。いいよこっちで見るから」
顔だけをこちらに向けながらベレスがなんとか時計を視界に入れようとする。もぞもぞするのが可愛いなぁと頬にキスをしていると「えっ」とベレスが声を上げた。
「どうしました? はー……かわいい」
「シルヴァン、年越してる」
「え?」
「もう、とっくに、年を越してる……!」
むぅっと顔を顰めながら彼女がそう語気を強めたので、慌てて自分も時計を見る。
今日は今年の最後の日で、二人で美味しいものを食べてゆっくりして、年越しのカウンドダウンをして──とみかんを食べながら、ベレスが子供のように楽しみに話していたのを知っている。そりゃもちろん同意の上でいちゃいちゃいちゃいちゃとしていたのだが、気をつけていたはずなのに。
「す……すみません、でした……!」
夢中になりすぎたと焦り、今からでもせめて初詣くらいは、と準備すべく動こうとするとぎゅうっとベレスに阻まれる。
「んんっ……!?」
「とりあえず新年の挨拶をしよう」
「あいさつってこの状態で? あっ、それほんと……ね? だめですよそんなことしちゃ」
もしかしてとんでもなく怒ってるのだろうかとはらはらしながらも、抗えない心地よさに脳がとけて馬鹿になってしまう。簡単に屈して脱力しながら抱きつくと、よしよしと伸ばされた手で撫でられた。
「シルヴァン、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます……っ」
「っふふ……」
動くのを必死に我慢しながら絞り出した挨拶にベレスが堪えきれない、というように笑い出す。この感じは怒ってないなとほっとしたら、なんだか釣られて笑ってしまった。
「っくく……すみませんカウンドダウンさせてあげられなくて」
「いいよ。君と一緒に年越して……一緒に過ごしたかっただけだから」
くすくすと笑い合いながら、嬉しいことを言われて幸せな気持ちになった。
「でも初詣はちゃんと行きましょう。これからでもいいですけど、どうします?」
我慢しなくてもよさそうだ、と腰を押し付けるとベレスがふるりと身体を揺らした。
「っん……おきてからにしよう」
繋いだ手を弄りながら、甘く囁く声に頷く。
「はい。今年もよろしくお願いします」
「うん……よろしく」
新しい年の幕開けは予定と少し違ったけれど、なんだかとても素敵な年になりそうだ。