おうさま猫の帰還「せな、せな~」
「んん…?」
懐かしい声がした。かつてこの町の公園の一番高い遊具のてっぺんを共に陣取っていたあいつの声が。
あぁ。これは夢か。だって俺は知っている。あいつがすっかり変わり果てて、この地を去ってしまったことを。
「相変わらず綺麗な毛並みだな!ふわふわだ~♪」
昔もよくそうやってじゃれついてきたっけ。夢にしてはやけに感覚がリアルで、だから余計に、苦しい。
ずぶ濡れで、傷だらけのボロボロで、やせっぽっちな姿で、暗闇の中に閉じこもるあいつを知っているから。
あいつはもう、戦えない。どこに行ってしまったのかもわからない。気付いたら見かけなくなって、いったいどれだけの月日がたっただろう。
「なぁおい、あれ、まずいんじゃないか、まこと…」
「う、うん…いさらくん…いずみさんが起きたら絶対怒るよ…」
「あらあら、可愛いお客さんたちね。にゃいつの縄張りになんの御用かしら?」
「あっ、あらしくん!にゃいつの空き地に知らない猫が入っていったから様子を伺ってたんだよ~、そしたら、お昼寝中のいずみさんにちょっかいかけはじめて…っ」
「それは困ったわね…」
「おや、皆様。こんな入り口で、いったい何をしておられるのです?」
「あらつかさちゃん。それがね…かくかくしかじかなんですって」
「なんと!しかし…それにしては、なんだか仲睦まじいご様子ですが…?」
なんだかうるさいなぁ。俺はいまお昼寝をしてるんだから、邪魔しないでよねぇ…。
夢でくらい、あいつに会わせてよ。
「わは、せな、甘えん坊だな。なんか嬉しいな、昔はおれの方が甘える側だったし。うん、珍しいからもっと甘えていいぞ~!」
あんたも、うるさいよぉ。でも、心地いい。…あったかい。
「…れおくん」
「…っ」
夢の中のぬくもりにすり寄る。
行かないでよ。俺はあんたの隣にいるのが、結構好きだったのに。
「…そういや、そうだな…?」
「いい夢でも見てるのかなぁ…?」
「ところで、その知らない猫さんってあの子のこと?」
「そうだよ。あのオレンジ色のちょっと小柄な猫」
「あれって、もしかして…?」
ゴロゴロ…グルル……あぁ、久しぶりに喉が鳴るくらい気分がいい。
夢だとわかっていても。せめて目が覚めるまでは俺の傍にいてよぉ…
「あれは…起きたらいずみちゃん、恥ずかしがるわよぉ…?」
「あっ、もみもみしてる~♪……ちょっ、いてててて!せな、爪、爪!ひっこめて!」
「んん……もう、うるさいってばぁ!せっかくいい気分で眠ってたのに………?」
『あ』
誰だか知らないけどにゃーにゃーやかましいから文句を言ってやろうとして、起きて真っ先に目に入ったのは、夕方でもないのにオレンジ色に染まった毛並み。え、あれ?
「んん…うるさいのはせっちゃんだよ…なぁに、急に大声出して……あれ、王様じゃん。久しぶり~」
「おう、りっつ!相変わらず寝てばっかりだな!」
「なっ…は、おう、さま?」
「おっはよう、せな!おれ、戻って来ちゃったよ」
「………」
戻って。きた。れおくんが。…本当に?
「……馬ッッッッッッ鹿じゃないのぉぉ!?」
「ぎゃああ!せなが怒った!」
「あたりまえでしょぉ!?今までどこほっつき歩いてたわけ!?」
「ごめんなさいっ!さっきの素直なせなに戻って~!!」
「ふっ…ふざけないでよねぇ!?寝てる間にちょっかいかけて~~~!!」
「やばいっせなが本気だっ!おおい、りっつ、なる!あとそこのなんか知らんやつらも!助けてくれ~!」
「…あの、王様、とはまさか」
「えぇそうよぉ。にゃいつの王様、この空き地の元リーダーのれおさん」
「そうそう、セッちゃんの旦那」
「旦那じゃない!」
どいつもこいつも好き勝手言ってくれちゃって!ああもう、チョ~うざぁい!
でも、れおくんが戻ってきてくれてちょっと嬉しいかもなんて思ったのは、こいつらには内緒。