七夕小話けんちゅ賢治先生は織姫と彦星をそれぞれ、アルタイル、ベガと呼ぶ。たったそれだけ、それだけなのに、先生のことをどこか遠い存在に感じてしまって悲しくなる。
今日は七夕だ。よく晴れた夜空に満天の星が眩い日だった。賢治先生は去年の誕生日にもらった望遠鏡を持ち出し、星を観察しようと言ってきた。今回はオレだけを連れ出して、他の文豪たちが集まっている大きな笹からは離れたところで望遠鏡を組み立てる。
「短冊に書くお願い事は決まった?」
「いや、まだ決めてねえな」
先生はなんて書くんだ? と訊くと内緒、とはぐらかされてしまった。
「はいよ、組み立て終わったぜ」
ありがとう、と賢治先生はオレに真っ先に、先生の見ている世界を見せてくれた。
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