とあるアルファとオメガのあれこれ・しぶの「続 とあるアルファの献身」の番外編その2
・名前も性別もぼかしてますが、二人の子供の存在があります
・それぞれの冒頭の注意書きを必ずお読みください
・一本目はR15程度かもしれません…
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※軽くですが妊娠中の性的描写・搾乳表現を含みます
※作中のマッサージに関しては「参考程度」でお願いします
とあるオメガの体操
安定期に入った悠仁は今日も自宅で静かに過ごしていた。何せ安易に外に出るとそれを察知した過保護な番に「どこ行くの?何するの?僕も行く!」と連絡がきて本当にやって来るのだ。
五条がそれをやると多方面に迷惑がかかる。何度か繰り返して流石に悠仁も「これはまずい」と思い、しばらくは大人しくすることにした。
とはいえ、毎日毎日家にいると暇を持て余す。一通りの家事も終わり、さて今日は何をしようかと考え、ふと先日の妊婦検診で貰った冊子を手に取った。
「これなぁ……やれって言われたけど、ちょっと恥ずいんだよなあ」
しかしやらざるを得ない。これも生まれてくる子のためだ。
部屋の時計を見、まだ昼前であることを確認する。
「……今日は悟さん、夜までずっと任務だっつってたな」
帰ってくるまで時間がたっぷりある。これなら間違っても見られることはない。
今日は体調も良く、腹の張りも殆どなしと条件は揃っている。
「よし」
そうと決まれば。悠仁は釘崎から「妊娠線の予防にもなるらしいから」と差し入れに貰った保湿オイル片手にリビングのソファに座った。
冊子を隣に広げ、悠仁は着ていたTシャツを捲り上げる。顕になった胸は妊娠したせいもあり、男のオメガでありながらも僅かに膨らんでいた。
「マジでここからアレが出るんか」
家入やバース専門の医師には人によると言われたが、果たしてどうか。
「ま、そのためにこれをするんだけど」
毎日やろうおっぱいマッサージ、と書かれたタイトルを眺め、悠仁は「うっし」と気合を入れた。そうでもしないと自分の胸を揉むなんて、冷静に出来る気がしなかった。
「ええと、なになに……オイルを指につけて、人差し指と親指の腹で優しく摘んで乳頭を出す……な、なるほど?」
物は試しにと、キャップを開けてオイルを指に垂らし、自分の乳首に触れようとした時だ。
「なぁにしてんの?」
「っっ!!!」
突然聞こえた声に勢いよく振り返ると、ソファの背にもたれるようにして五条が立っていた。いつの間に、とは五条に対してあまり意味のない言葉だ、けれど。
「え、なんっ、任務は!?」
「相性的に恵の方が適任だったから変更になったよ。で、午後まで時間が空いたから、愛しの悠仁君に間に戻ってきたんだけどぉ〜」
ニヤァと、こればかりは嫌な笑みとしか表現できない顔で五条は悠仁を見下ろした。
「あれれぇ〜?こんな昼間っからおっぱいなんて出して悠仁君は何してたのかなぁ〜?」
「……別に、何も」
「何もないのにおっぱい出して自分で揉んじゃうの?オイルまで使って?何それえっちじゃーん。あ、それとも妊娠してからずっと僕が吸ってないから寂しくなっちゃった?」
「ばっ、だ、誰が!俺はただっ、マッサージしようと、あっ」
五条はテーブルの上に置いていた冊子を手に取ると、ふんふん言いながら頷いた。
「へえ……おっぱいマッサージ、ねえ」
「……」
「悠仁君はぁ、どうしてこのことを僕に内緒にしてたのかなあ?」
「っそういう顔するからに決まってんじゃん!」
口元どころか目まで緩んでいる五条はどうせろくでもないことを企んでいる。絶対そうだ間違いない。と悠仁が予想していることすらおそらく分かっている。分かってなおやるつもりなのだ。
「期待に沿うのは旦那の務めじゃない?」
「期待してねえし!」
「まあまあそう言わずに、これも共同作業だって。それに悠仁のおっぱいに関しては僕の方が詳しいよ?」
「何それ嬉しくねえんだけど」
「はぁいそこまで。時間も惜しいからさ、優しい旦那様が奥さんのおっぱい、懇切丁寧にマッサージしてあげるね」
「っ……」
こうなるとテコでも動かないことを経験している悠仁は、こんなことなら五条の出張中にやればよかったと天を仰いだ。
「はーいじゃあ僕がソファに座るから、悠仁は僕の脚の間に座ってね」
「……」
言われるがまま、悠仁は五条に背を預ける形で脚の間に収まる。
「ほら、ちゃんと自分でシャツ持って?」
「っ……」
耳元で囁かれ、悠仁はのろのろとTシャツの裾を捲る。顕になった胸元を見下ろし、この後何をされるかを想像して唇を引き結んだ。
「意識してる?…かぁわいい」
「っ悟さん!」
キッと睨んでも五条はどこ吹く風で自身の指先にオイルを垂らす。
「ええっとなになに…『まずは指で乳頭を出してあげましょう』。ふむふむ、確かに悠仁の乳首は恥ずかしがり屋さんだから結構隠れてるよね」
「っ何言って、んっ」
五条の人差し指と親指がそっと乳首に添えられる。人肌に温められたオイルの感触に思わず声が漏れてしまい、悠仁は慌てて口を閉じた。
「『優しく摘んだり、ほぐすように指を動かしましょう』。…こんな感じかな」
五条の指が乳頭をやわやわと摘むようにして動く。行為中のそれとはまた違う触り方だ。
「悠仁、痛くない?」
「っ……」
五条の問いかけに悠仁は頷く。口を開くと「もどかしい」と言ってしまいそうだった。
冊子の指示通り、五条は乳頭を出すと今度は乳首と乳輪部を指で挟み、圧迫した。
「っ……」
「痛い?」
「ん……痛くない」
ただ五条に触られるとどうしてもあれこれ思い出してしまうのだ。
下を向くと自分が何をされているか見えてしまうため、悠仁は視線を泳がせる。早く終わってほしいが、五条の手つきはやけに優しくゆっくりだ。
「……悟さん、わざとやってない?」
「なにが?」
「……」
やけに機嫌のいい声に「やっぱりわざとじゃん!」と思いつつ、それを指摘するのも憚られた。言えば最後。「えっ悠仁、もしかしてエッチな気分になっちゃった?」とか何とか言うに違いない。そうなればあとはなし崩しになるのが見えているため、それだけは避けたかった。
「何でもない……」
「そう?なら続けるよ」
五条は止めていた指を円を描くように動かし始めた。ぐりぐりと痛くない程度に圧迫されたかと思うと、その指先が乳頭をピンッと弾いた。
「んぁっ」
突然きた強い刺激に思わず声が漏れた。慌てて手で覆ったが、今更だった。
「ごめんね、滑っちゃった。……でも悠仁、いま声出してたよね」
「ッ知らん!てかやるならちゃんとやっ、ひぁっ」
また乳頭を撫でられた。今度はすりすりと指の腹で擦られ、背筋に電気が走る。この感覚はセックス中のそれと酷似していた。
「ちょっ、なっ、なに、して…!」
「んー……ねえ悠仁。これもしかしてさ、母乳じゃない?」
「ッ…え?」
ほら、と五条が指先を眼前に持ってくる。そこには黄みがかった液体が付いていた。
「あ、それ母乳じゃなくて乳汁ってやつかも」
「そうなの?」
「うん。マッサージしたら出てくることもあるよって病院で言われた」
「ふぅん…」
しげしげと五条はそれを見つめる。そうじっくりと見られると居た堪れず、悠仁は早く拭いてとティッシュを示す。しかし、五条はその指を躊躇なく自身の口元へと運び。
「ちょ、」
「……あ、うっすら甘いね」
舐めた。この人今、人の分泌液を舐めた!と目を見開いた悠仁をよそに、五条は悠仁を膝の上で横に抱え直す。
そして「もう一回」とまた乳を摘むと、じわりと先端から黄色い液体が滲み出た。五条は今度はそれを直接口に含んだ。
「ばっ、何やってんの…!?」
「んー」
「うぁっ…!ちょっ、す、吸わな、んんっ…!」
じゅ、と音を立てて五条がそこを吸い上げる。見知った快楽に悠仁はビクビクと身体を揺らし、甘い声をあげる。
「ゆーじ、久しぶりだから敏感じゃん」
「っ…そこで、喋ん、ぁっ」
甘噛みに近いくらいの強さで乳首をはむはむと齧られる。こんなの絶対やり方が違う!と叫びたいところだが、悠仁の口からは甘ったるい吐息しか出てこない。なにせこんな刺激は妊娠発覚以来なのだ。
自然とその妊娠のためにした行為を思い出し、下腹部がずくんと疼く。いや、これは疼くというより。
「待っ…い、痛っ…!」
「……悠仁?」
腹の奥をぎゅっと握り潰されたような痛みが広がる。思わず前屈みになると、それを支えるように五条の膝の上に抱えられた。
「痛かった?やりすぎた?」
「ぅ……そう、じゃない……けど、もうおしまい…」
うぅ、と唸りながら腹を摩る。おそらくマッサージにより子宮が収縮したのだろう。そういえば冊子に書いてあったと悠仁は思い出す。
身を縮めて痛みに耐えていると、こちらを見下ろす五条の顔に焦りと不安が見てとれた。
「大丈夫だよ。じっとしてればそのうち痛みは引くし」
「ごめんね、途中から吸うの楽しくなっちゃって……」
五条はしょんぼり、という言葉がぴったりな様子で、それを見た悠仁は小さく笑った。
「なんそれ、でっけぇ赤ちゃんかよ」
「……悠仁のおっぱいを吸えるなら僕は赤ちゃんでも、」
「それは俺がイヤ。無理。キツい」
「そっ…そこまで……!?」
ショックを受ける五条には悪いが、流石にセックス中でもないのにちゅうちゅう胸を吸われて喜ぶ趣味はない。それに。
「……悟さんは俺の赤ちゃんじゃなくて、俺の旦那様じゃん」
消え入りそうな悠仁の言葉に、「はいっ悠仁の旦那様です!!」と一際大きな五条の声が重なった。
END
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※タイトル通りですが、悠仁の浮気疑惑が少しだけ有り
とあるアルファの勘違い
その日、五条は苛々としていた。否、遡れば約一週間ほど前に長期任務を言い渡された時からずっと苛々していた。
「ったく……こっちは可愛い番と子供がいるってのにあんな任務押し付けやがって……あー腹立つ。全部更地にしてやればよかった」
ブチブチと文句を垂れつつ、五条はそれもようやく終わったと気持ちを切り替える。
足を向けたのは久しぶりの我が家、ではなく高専内にある隠し部屋だ。昨日、五条の愛しい番である悠仁から「ヒートがきそう」と連絡をもらっており、ヒート前後はここに籠るのが妊娠前からの約束事だったのだ。
子供は同じ高専内で関係者に預かってもらっており、五条も先程少しだが会ってきた。可愛い我が子を一週間相手にできないのは子供に申し訳ないが、今は悠仁だ。
悠仁が出産してからこれが初めてのヒートとなる。絶対に一人で迎えさせてなるものかと、五条はかなり強引に任務を終わらせた。結果、予定よりも一日早く帰れることになった。
「悠仁、びっくりするかなあ」
しばらく電話でしか話せていない悠仁の顔を思い浮かべながら、五条は早く会いたいと足を早めた。
「ゆーうーじー!」
「うわっ…えっ、悟さん!?」
部屋に入り、その姿を見つけるや否や五条は飛びついた。いつもなら難なく受け止める悠仁が少しふらつき、おまけに甘く漂う匂いにやはりヒートが近いのだと実感した。
「ただいま!」
「おかえり!てか帰ってくるの明日じゃなかったん?」
「悠仁に会いたくて急いで帰ってきた。チビにもさっき会ってきたよ」
「そっか。お疲れ様…って、ちょ、擽ったいって…!」
「あー悠仁から超いい匂いするぅ」
悠仁を抱きしめたまま、五条はスンスンと頸の匂いを嗅ぐ。甘くて美味しそうな悠仁のフェロモンを感じ、五条は目隠しの下でうっとりと目を細める。
「本番は明日からかな?」
「多分。熱は少しずつ上がってきてるけど」
「そっか。じゃあ色々と準備して……」
言いながら、五条は悠仁の鎖骨の下辺りに鬱血痕を見つけた。紫色に変色しているそれはよく見知ったものだが、五条がつけた覚えはなかった。
「……悠仁」
自然と声が硬くなる。五条の様子が変わったことに悠仁も気付き、「悟さん?」と無垢な瞳が返ってきた。
何も知りませんという様子だった。こんな痕を、どこの誰かにつけさせたくせに。悠仁は僕のもののくせに。
そう思ったら、もう我慢はできなかった。
「楽しかった?」
「え?」
「いや寂しかったのかな?でもさ、だからってダメだよね。悠仁は僕のなのに」
「なに……悟さん?どうしたんだよ」
「それはこっちの台詞。あーほんっと、ただでさえ任務でストレスたまってんのに、これ以上イラつかせんなよ」
「っ痛…!」
五条は悠仁を乱暴に抱え上げ、寝室のベッドへと放り投げる。「何すんだ!」と反抗する悠仁の上に乗り上げて拘束し、トドメとばかりに威嚇フェロモンを出す。
「っさ、さとるさっ…それ、ヤダ…!」
ふるふると悠仁は首を振る。その顔は青ざめ、五条が掴む手も震えていた。それでも五条の怒りは収まらず、更にフェロモンでプレッシャーをかける。
「ひ、ぁ……ぁあっ…!」
「はは……圧かけられて反応してんの?エッチだなあ。あぁ、だから僕が帰ってくるの待てなかった?」
「っ…ぅ、ぁ…ッ」
五条の身体の下で悠仁はカタカタと震え出す。恐怖と快楽がないまぜになったような表情に、五条は薄暗い笑みを返した。
「どこの男を誑し込んだのか知らないけど、悠仁が誰のものか、ちゃあんと教えてあげるね」
幸い時間はある。ヒートが終わったら相手の男を殺しに行こうと決めて、五条は何かを言おうとした悠仁の唇を塞いだ。
オメガのヒートは一週間続く。だが一週間丸々発情しっぱなし、というわけではない。悠仁の場合、ピークは三日目までで、そこからは熱も下がってフェロモンの分泌も徐々に緩やかになっていく。五日目ともなると微熱や気怠さ以外は平時とそう変わらず、理性はすっかり戻る。
今日はその五日目であり、快楽の海から戻った悠仁が「何でこんなことしたか説明しろ」と五条に迫った日でもあった。
最初こそ「は?説明?それは悠仁がすべきことじゃない?まあ説明されても絶対納得なんかしないし、謝っても許さないけど」と強気だった五条だが、悠仁があまりにも怒っているため「おや?」と思いだした。
「で?何でこんなことしたの」
「何でって……」
悠仁はベッドに力なく横たわり、五条がその上に覆い被さるという図だが、精神的には既に逆転しつつあった。
「何で?」
「ゆ……悠仁が、う、浮気したと思って…」
「は?毎日あの子と一緒にいていつ浮気すんの?」
「……だって、キスマーク」
「キスマークぅ?」
怪訝そうな悠仁のために、五条は最初に見つけた痕の辺りを指差す。
「ここにあった」
「……だからずーっとガブガブ噛んでたわけね」
今はもう痕などない。あるのは五条の執拗な噛み跡と、上から付けられたキスマークだ。それは他の場所にもいえることで、おそらく初めて番った時よりもその数はずっと多い。独占欲の現れというやつだ。
しかしそもそもはキスマークなど付けていた悠仁が悪いのであって、咎める権利はこちらにある。そう強気でいた五条に、悠仁は溜め息混じりに話し出した。
「最近さ、あの子があんまりおっぱい吸わなくなったって話、覚えてる?」
「……うん。哺乳瓶の方がよく飲むって」
「そう。まあ、元々俺はあんまりおっぱいが出なかったし、あの子の歯が生えてから噛まれて痛かったしさ、先生にも聞いてみたんだよ。そしたら、離乳食も進んでるし発育も問題ないから、このままミルクに移行して後々はミルクも卒業したら?って言われた。でも、あの子もやっぱりおっぱい吸いたい時があるみたいで」
ここまで聞いてまさかと思った五条に悠仁は左腕の内側を見せてきた。
「抱っこしてる時とか、あやしてる時にたまに吸い付いてくんの。これもそう……いやもう分かんねえけど」
そこにもまた、五条が付け直したキスマークがあった。こんなところにまで、と思ったが、それを付けたのは知らない男などではなく。
「キスマークをつけたのはあの子だし、勿論浮気はしてない。というかする暇とかないし、する気もない」
「…………」
「何か言うことは?」
五条は悠仁の上から退くと、ベッドから降りてそのまま床に膝をついた。下着以外身につけていないがこの際関係ない。以前綺麗だと悠仁にも褒められた正座をし、それから。
「大変申し訳ございませんでした」
深々と、それはもう額が地面につくほど頭を下げた五条に、悠仁もまた深く息を吐いた。
「俺、信用ない?」
「そんなことない!!」
「じゃあ何でこんなことしたの?」
「……悠仁、ヒート前でいい匂いしてて、このフェロモンが分かるのは僕だけなのにって、僕のなのにって、頭に血が上って……」
「で?気がついたら威嚇フェロモン出して俺を押さえつけてヤッてたって?」
「…………」
「なんだっけ、『悠仁は僕のじゃないと満足できないくせに』だっけ?『中出しされないと寂しいんでしょ』って言って本当に中出しする奴、いる?あ、いたわ俺の目の前に。『孕ませてっておねだりしなよ』じゃねえのよな。まあヒート中でバカになってたから俺も言ったけど」
「…………」
「避妊薬飲んどいてよかったよ。家入先生にも久々のヒートだから気をつけろって言われてたんだ。『あいつ絶対中出しするぞ。賭けてもいい』って。ほんと、流石だわ」
「…………」
「悟さん。もう一回聞くね。俺、信用ない?浮気してるような奴に思われてる?」
「ごめん。本当に悠仁が浮気するなんて思ってないし、悠仁のことは信じてる。今回もちゃんと悠仁に話を聞けばよかっただけで、全部僕が悪い」
ごめんなさいともう一度頭を下げようとしたが、それは悠仁に止められた。「もういいよ」と笑う顔は「仕方ないなあ」と言っているようにも見えた。
「こっちきて」
「……うん」
五条は立ち上がり、悠仁の隣に寝そべる。伸びてきた手に応えるようにその身体を抱くと、悠仁は大人しく腕の中に収まった。
「あの子にも付けられた時にさ、これ見られたら悟さんは誤解しそうだなって思ったんだよ。その後色々と忙しくて忘れちゃってたけど、あん時に写真撮って連絡しとけばよかったね」
「ううん……ごめんね」
「誤解させたところもあるから、もういいよ。それに……何か、久しぶりに悟さんのそういうところ見られたし」
「そういう?」
「『悠仁は僕の!』って独占欲丸出しなとこ。あとちょっと乱暴っていうか、強引なとこも」
それは嬉しかったということかと五条の瞳が輝いたのも一瞬だった。
「まあ身体中痛ぇし、散々『淫乱』とか『メスガキ』とか言われて腹は立ってるけどな」
「あ、はい」
「……だからさ」
するりと悠仁が五条の首筋に腕を回す。力強く引っ張られたかと思うと、鎖骨の下の、ちょうど五条が最初に痕を見つけたのと同じ位置に悠仁が吸い付いた。
「ゆう、」
「お、付いた」
悠仁が唇を離すと、確かに五条の肌にはうっすらと赤い痕が付いていた。おそらくこれが初めての悠仁からのキスマークだった。
「しゃ、写真に収めて額に入れて飾る…!てかこのまま一生消えないようにしたい…!!」
「いやそれはやめてな。……てかさ、そんなこといいから」
「なに…、っ!」
すり、と悠仁が五条の太ももに自分の脚を絡める。
「あと二日、俺的には散々だったヒートのやり直し、してくんない?」
蠱惑的に微笑む悠仁に五条は内心「はい喜んで!」と返し、即座にその身体を今度は優しくベッドに縫い付けた。
数日後。腕を見せながら「僕も付けられた!これなんとか保存できないかな!?」と嬉しそうにする五条とそれを嗜める悠仁の姿があった。
END
※ちなみに痕の件は実話です
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とあるアルファの宝物
どんぐり、小石、葉っぱ、小枝、花びら、よく分からないプラスチックのカケラ。
一つ一つが丁寧に収まっている箱に、五条は新たに貝殻を加えた。
心なしか宝石のようにキラキラと輝いて見えるそれを五条はニマニマと見つめた。
「はあ……一生眺めていられる」
うっとりとそう言った五条の背に声が掛かった。悠仁だ。
「あ、悠仁〜お疲れ様。ちびは寝た?」
「うん寝たよ。…じゃなくて、それ!」
ビシィッと指差したのはたった今貝殻を入れた箱だった。
「もしかしなくてもあの子が拾ってきたもの全部保管してんの!?」
「勿論」
ドヤ顔を決め込む五条に悠仁は天を見上げた。
子供が自分で歩けるようになってから、散歩のたびに何かしらを拾っては五条や悠仁に渡すようになった。大抵小枝や石ころのため、悠仁は見ていない時にその場でポイッとするが、五条はそれを後生大事に取っているのだ。
「そのうち展示会とか開きたいよね。いっそ国宝にしちゃう?」
「いやしないし。プラスチックのそれとかもう見るからにゴミじゃん」
「ゴミじゃないし!『どじょ(どうぞ)』って僕にくれたものだし!!」
「まあそうなんだけどさ、とりあえずどんぐりは勘弁して。この前虫湧いてて大変だったから」
「ええ〜庭に植えてみんなで『大きくなぁれ』ってやろうよ〜」
「悟さんがととろ役?」
「そうなっちゃうね。悠仁は……お母さん役だけは嫌だ。絶対やだ!死なないで悠仁!」
「いやあのシーンにお母さんいねえし、別に死なねえし。ってそうじゃなくて!キリがないから全部残すのはやめて!」
あと木の実とか花とか植物も禁止!とキッパリ宣言した悠仁に、五条は「えぇ〜」と言いながら唇を突き出した。
「大事な思い出じゃん」
「物として残さなくても記憶としてちゃんと覚えてればいいの」
「……正論言っちゃったよ」
「そりゃそうだよ。ただでさえ悟さん、色んなもんを残そうとするんだから」
たとえば写真。生まれてまだ一年ほどにも関わらず、アルバムは既に三桁に入ろうとしている。他にも服は着られなくなったものを含めてそれこそ店を開けるほどある。おかげで五条がいつの間にか作ったコレクションルームなる部屋は、そういった子供の物で溢れかえっていた。
「けど意外だな。悟さん、あんまり物とか思い出に執着しないのに」
「そりゃ呪物って大抵そういうものが元だからね、呪術師としては下手に執着しないようにしてきたんだよ。でも……」
五条は言葉を切ると悠仁をぎゅっと抱きしめた。
「悠仁と、その悠仁が産んでくれたあの子は別。全部取っておきたいの。そのくらい、大好きだから」
僕がこんなに執着するなんてねえ、と語る五条に悠仁はそれ以上何も言えなくなった。その執着を嬉しいと思ってしまう自分がいるのだ。
ただ一つだけ。
「悟さん。特級呪物は生み出さんでよ」
「気をつけまーす」
その後、今度は歪な丸が多数描かれた画用紙を金の額縁に入れて飾ろうとする五条と、その隣で半ば諦めたように笑う悠仁の姿があったとか。
END