寿ぎの日【くわぶぜ】俺は今、何を見せられているのだ?
この本丸ができて6年目の正月だ。刀たちの数も増え、宴会の賑わいはそれは華やかなものだ。しかし、昼間から続いている宴は、すでにもうグダグダで、一部の酒に強い仲間たちが積極的に酒を酌み交わしているほかは、ゲームに興じるもの、普通に食事をしだすもの、座布団を枕に寝始めるもの、さっさと部屋に戻るものなどさまざまでもうすでに「お開き」に近い状態であった。
このへし切長谷部は、そんな中にあってもいつ何時どんな事態が起ころうとも対処できるよう、酒はセーブし、主の要望に応えられるように全体を見回している。とはいえ、せっかくの正月だ。カリカリと皆を𠮟りつけるのも空気が悪くなる。よほどのことがない限り、大きな声などは出さず、楽しく談笑するように努めている。
のであったが……。
俺は今、何を見せられているのだ……?
目の前にいるのは、桑名江と豊前江だ。俺とて、この二人が恋仲であることは知っている。畑で口吸いをかわしたり、納屋で盛ったりしているのを何度も注意したことがあるくらいだ。
そんな二人は今、俺の目の前で何をしているのだろう。
豊前江は、胡坐をかいた桑名江の膝の中にすっぽりとおさまるようにして座っている。いわゆるカンガルースタイルだ。
豊前江は手に小さな杯を持ち、時折口に運ぶ。間髪を入れずにその盃は、桑名江によって酒で満たされる。そのルビーのような赤い瞳は、酒のせいかぐしゅりと蕩けるように潤んでいた。
「はい、豊前あーん」
二人羽織のように、桑名江がその口におせちの黒豆を近づける。豊前はまるでひな鳥が親鳥から餌をもらうように口を開け、桑名江はそこに黒豆を入れた。
「甘くてうめーちゃ……」
ふにゃりと豊前江が笑うと、桑名江も嬉しそうにその頬に顔を近づけた。
「美味しいねぇ。はい、次はこれね、あーんして」
桑名江は、今度は紅白なますを豊前の口の前に持っていく。
しかし、豊前江は今度は口を開けなかった。
「いやっちゃ。それ酸っぱい……」
「好き嫌いしないの、ビタミンが足りなくなっちゃうよ。」
「やー。」
まるで子供のように、ぷいっと横を向く豊前江に桑名江は困ったように眉を寄せた。
「しょうがないなぁ……」
言うと桑名江はその紅白なますをひょいと自分の口の中にいれ、そのままおもむろに豊前江の唇に吸い付いた。
「むぐっっ」
驚いたように豊前江は目を見開き、そしてその唇を離そうと、桑名江の胸倉をつかむが、しっかりと頭を押さられてしまっており、唇が離れることはなかった。
そのままゆっくりと唇は開かれ
「んんぁあ……」
かみ砕かれた紅白なますが口内を渡っていく。
そしてすべてを豊前江の口内へ移し終えた桑名江は
「はい、いい子に食べられたからご褒美ね」
「すっぺぇ……」と眉を寄せる豊前江の手から盃を奪い、くっとあおった。
「ン……」
今度は、豊前江は自ら身を乗り出すようにして唇を差し出し、そこに桑名江の口から酒が移されていく。こくこくと飲み下す豊前江の喉がイヤに艶めかしい。
ゆっくりと時間をかけて、酒を飲み下し(最後の方はすでに酒はなくただの口吸いだったのでは……)二人は愛おしそうに、お互いを見つめ合っている。
俺は……空いたお銚子を片付けに来た加州を呼び止める。
「なあ、加州。」
「なぁに、長谷部、どしたの?」
「あれは……注意すべき事案か……?」
「アレって?ああ、桑名と豊前じゃん。いつものことでしょ。まあ、どっちかが服脱がし始めたら、ストップかけてね。隣の部屋にでもほおりこんどけば、しばらくしたら帰ってくるよ。」
しれっと、言い放つとさっさとお銚子を抱えて厨房へと消えていく。
俺は……しばらくその様子を眺め……その役は他のヤツに任せようと、グラスをもって席を立つのだった。