赤いブーゲンビリア「いい加減その花持ってくるの止めてくれないか」
奴は今日もやって来て、いつも通り花を飾り出す。
窓が無い真っ白な部屋にたくさん飾られている赤い、赤いブーゲンビリア。
毎日毎日飽きもせず奴が持ってくるせいで俺はこの花が嫌いになってしまった。
「それは無理だ。これは俺の気持ちだから」
確か赤いブーゲンビリアの花言葉は………
「なぁ、まだ気持ちは変わらないのか?」
ヒヤリとした指先に触れられ鳥肌が立つ。
「変わるわけがないだろう…っ」
強制的に与えられる快楽も、愛の言葉も、増えていく赤いブーゲンビリアも、何もかもゾッとする。
「…用が済んだのなら早く帰れ」
「そうつれない事を言うな。ずっと…こうしていたい」
熱を孕み弛緩した身体を這う奴の手が、俺をゆっくりと眠りに誘う。
いっそこのまま…目覚めなければいいのに……
「おやすみ…杏寿郎。また、明日」
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何時だ…?夜か…?
やけに喉が渇いて目が覚めた。
外側から鍵が掛かった頑丈なドアとたくさん飾られている気が狂いそうなほど赤い、赤いブーゲンビリア。いつもと同じ光景。
でも今日は、あの赤い色を見ていると更に喉の渇きが酷くなるような気がして気分が悪い。
駄目だ…もうすぐ時間なのに。
奴が来る前に治めないと…っ
願いも虚しくガチャリ、と重いドアが開かれた。
薄紅色の髪と月の様な瞳を持つ男。
「あぁ、起きていたのか杏寿郎。具合はどうだ?」
手には、血のように赤いブーゲンビリア。
「ほら…見てくれ今日は一段と赤くて美しいだろ?杏寿郎の瞳みたいだ」
嬉しそうに俺の顔を覗き込んでくる。
早くこの男を何とかして追い払わなければ。
「顔色が悪いなぁ。辛いのだろう?」
男は微笑み「我慢なんてしなくていい」と杏寿郎の耳元で甘く囁いた。
「うる…さい…っ黙れっ」
駄目だ。
今日は本当に駄目なんだ。
一向に喉の渇きが収まらない。
「俺は嬉しいぞ杏寿郎。ずっとこの時を待っていた」
やたら甘い声が頭に響いて気分が悪い。
本当に気が狂いそうだ。
頼む。止めろ…止めてくれ…っ
「俺をお前と『同じ』にしてくれ…ほら、早く」
男の晒された首筋に浮かぶ血管。
甘やかな香り。杏寿郎は本能のまま、その首筋に唇を寄せてしまう。
あぁ、もう啜ってしまおうか?
牙を突き立てて思うまま。
そうすれば俺はこの渇きから開放される。
だって喉が…
喉が酷く渇いて…
仕方ないのだから……………
「さぁ俺の血を吸え杏寿郎」
幸せそうに目を細め、男は己の首元に顔を埋める杏寿郎の髪を優しく撫でた。
「これでやっと永遠に杏寿郎を愛すことができる」
「えい…えん…?」
『永遠』その言葉で我に返り杏寿郎は力の入らない腕で男を拒絶し、睨みつける。
「君の血なんて要らないっ」
「誰が同族になどするものか!絶対に嫌だっ君と永遠を生きる…なん…て……っ」
目の前が歪む。
クラクラする。
駄目…だ………
意識が…遠のい…………て…い……
遂に力尽き杏寿郎は気を失った。
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「まったく…頑固だな」
猗窩座は力が抜けた杏寿郎の身体を抱きしめ、愛おしそうに頬を撫でる。
「でも、今日は惜しかった。そろそろ限界は近いなぁ」
お前と一目会った時からもう駄目で。
その瞳に、髪に、杏寿郎を形作る全てに一瞬で心を持っていかれた。
だが、杏寿郎が選んだのは俺では無くて………
嫌だ。何故?どうして?
俺じゃない奴が杏寿郎の側にいるんだ?
嫌だ。絶対に嫌だ。
俺以外を見るな。
俺以外と話すな。
許さない。
許さない。
許さない。
俺以外と永遠を生きようとするなんて絶対に許さない。
「杏寿郎…続きはまた、明日」
猗窩座は明日も杏寿郎の元へやって来る。
プレゼントは血のように赤い、赤い、ブーゲンビリア。
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(人間の座くん×吸血鬼の煉さん)