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    四 季

    @fourseasongs

    大神、FF6、FF9、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドが好きな人です。

    boothでブレワイに因んだ柄のブックカバー配布中:https://shiki-mochi.booth.pm/

    今のところほぼブレワイリンゼルしかない支部:https://www.pixiv.net/users/63517830

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    四 季

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    ティアキン2周目をやっているんですけど、ブレワイのあの「リンクにとっての姫様ってどういう存在なんだろう?」「リンクはどこまで思い出しているんだろう?」「『覚えていますか?』に対して、リンクは何て答えたんだろう」みたいな関係も甘酸っぱくてたまらない……と思いながら書きました。

    #リンゼル
    zelink
    #ブレワイ
    brawley

    one heart「私を、覚えていますか?」
     貴方に問いかけた。問いかけずにはいられなかった。
     貴方が生きていてくれて、私のことを知っていて、この世界を救ってくれて、私を助けに来てくれた、それだけで十分だった。そのはずだった。女神の心でそう思った。けれど、百年ぶりに思い出した少女の思いは迸り、その問いかけを口に出した。
     貴方は黙って私を見つめていた。その様子は、何と答えようとしているのか考えあぐねているようでもあったし、回生の眠りから目覚めて初めて出会う私の正体を、見定めようとしているようでもあった。
     問いかけのかたちをしたことばは、けれども本当は答えを求めてはいなかった。ただ、ひたすらに、問いかけずにはいられなかった。
     貴方は誰なのか。ハイラルの勇者なのか、退魔の騎士なのか。勇者が姫巫女を救う、騎士が姫を助ける、その理に従って、ただ運命の導くままにここまで辿り着いたに過ぎないのか。それとも貴方がここまで来たのには、何か別の──他の理由があるのか。貴方をここまで突き動かしたのは、運命ではなく、貴方の心に、貴方と私の記憶とに起因する想いがあるのではないのだろうか。
     喉から手が出るほどに知りたいと思う反面、これっぽっちも知りたくない。
     続く言葉を見つけられずにいる私の前で、貴方の唇が何かの言葉を発するため、静かに開かれた──。

      ※

     ──踊りは得意ではない、というリンクに、私は、「そうだったのですね」と、言葉少なに答えた。
     厄災が封印されてから半年ほど経ち、ハイラルは秋の実りの季節を迎えた。ハイラル各地で復興が進められていたが、豊穣を祝う祭の開催も近づいている。そんな中で、厄災を封印した祝いと、秋の豊穣祭を一緒に行おうという動きが起きていた。
     厄災を封印した祝祭については、厄災封印後に話がなかったわけではない。だが、大厄災の日から百年経ち、勇者リンクの戦いも人知れず行われ、多くの人が厄災封印の瞬間を目の当たりにすることなく終わりを迎えた。私もリンクも、それで良いと思った。
     私たちはお互い、本来百年前に果たされるべきだった役目を終えた。そこに誇りも達成感もない。ハイラルの復興という、残された使命を進めるだけだ。民たちは平和な新しいハイラルの中で祝福を受けるべきだが、私はその必要はない。とはいえ私は、百年にも及ぶ眠りから目覚めた彼をいたわり、ねぎらいたいとは思ったのだが、彼も称賛を固辞した。
     それでも私は依然として亡国の姫であり、彼は私付の剣士だった。
     瓦礫と、完全に機能を停止したガーディアンが片付けられた城下町の広場で催される祝祭には是非参加して欲しいと、シーカー族だけでない、ハイラルの民たちからも望まれては、強く辞退するわけにもいかなかった。たまには娯楽も必要だと、インパやプルアからも半ば宥めるように勧められてしまった。
    「百年前の王国華やかなりし頃の姫君と騎士殿。そのお二人を生きている間に目の当たりにできるとは、感無量です」
    「幼い頃に心躍ったおとぎ話のお二人が、本からそのまま抜け出てきたようです」
     かつてのハイラルの兵士たちの子孫、身分はなくとも名を懸けて愛する人たちの暮らすハイラルを護ってきた人たちは、そう言って嬉しそうに笑っていた。
     そして彼らは続けて、私とリンクにとんでもない提案をした。
    「どうでしょう。
     百年前の宮廷も忘れ去られて久しいですが、ぜひ祝祭の締めくくりには、お二人に踊って頂くというのは?」
     ──姫と騎士が踊るというのは、おとぎ話の中の出来事にすぎないのだけれど。
     私とリンクを見比べて嬉しそうに笑う善良な民の顔を見ては、私も「はい」と頷くより他なかった。

     そうして練習のために訪れたハイラル城の広間で向かい合ったリンクは、「踊りは得意ではない」と私に告げた。
     対する私は、「そうだったのですね」と言葉少なに答えた。
     かつてゾーラの姫君が、彼が槍を扱う姿を「踊っているようだ」と喩えたが、舞踊と戦いのそれは通じるものがあっても異なるものだと、百年前のリンク──私の騎士が教えてくれた。
    「槍は武器、道具です。もちろん、武器によっては、それを扱う者にとってただの道具以上の存在であるものもあります」
     騎士リンクはそう言って、背中の退魔の剣──マスターソードに視線を送った。
     月の清かな夜のことだった。
    「ですが、それは自分の身体の一部のようだという意味です。踊りは二人の人間が、心を一つにして、息を合わせて行うもの。それも男性がリードして、女性を美しく見せるためのものでしょう。
     洗練されていけば動きに無駄がなくなる、そういう意味では相通じるものがあるかもしれませんが、両者は本質的には異なるものだと、自分は思います」
     普段の寡黙さはどこへいったのか、彼がやけに饒舌だったのは、その得意ではない踊りに付き合わされていたためだろう。多くの武人が──私が知っている中でも、ウルボザやリーバル、おとなしそうに見えてもミファーやダルケルがそうであるように、彼はかなりの負けず嫌いなのだ。私は少し不貞腐れているように見える彼の年相応の顔を見つめて、彼に知られないようこっそり微笑んだ。
     月明かりが世界を淡く照らし出す、美しい夜のことだった。私が禊に赴いた勇気の泉からの帰り道。私の力は目覚めないが、否応なしに時は過ぎ、私が成人を迎える日が近くなっていた。成人の日を過ぎれば、私の伴侶を決める催しが開かれるようになり、遺跡の調査に行く時間や、ハイラルを自由に駆け巡る時間は、ますます減るだろう。そのことは私の気持ちを暗澹にした。
     これからはダンスを学ぶ時間が増えるのですよと、その理由が「伴侶を決めるため」であるという気分の落ち込みを振り払うように言った私の言葉に対するリンクの答えが、「踊りは得意ではない」というものだった。せっかくなので踊ってみませんかと、いたずら心に私が言えば、リンクは一瞬動きと呼吸を止めたのち、「はい」と言葉短く答えたのだった。
     ホールの天井の輝く豪華なシャンデリアは、今は淡い月明かり。楽団の華やかな演奏ではなく、虫の音とフクロウの鳴き声が踊りの曲。だけれども、城の広間でどんなきらびやかな衣装を身に纏った男性と踊る時より胸が弾み心が踊るのはなぜなのだろう?
     とはいえ、踊りが得意ではないというリンクの言葉は、本当のことだった。ダンスホールで踊るのは王族と貴族たちで、騎士は壁際で護衛をするのが本来なのだから当然だ。とはいえこの時のリンクのように、ここまで相手の身体に触れるのにぎこちなく、慎重なようでは、ダンスにならない。
    「貴方が先ほど言ったように、ダンスは心を一つにし、息を合わせて行うものです。
     そんなに私に触れることに慎重になる必要はないのですよ」
     もう少し慣れないといけませんね。
     呟くように言った私の言葉に、リンクは目を丸くして、とても驚いている様子だった。私は何かおかしなことを言っただろうか? 首を傾げているうちに、リンクは私のほうから顔を逸らした。ダンスはお互いを見つめ合うものだ。だからそれでは──と言いかけたが、ぴたりとリンクの動きが止まり、慌てて私もステップを止めた。
    「自分は、踊りは得意ではありません。誰かとこうして踊ったのも初めてです。
     ですが、いや、なので、また──俺に踊りを教えてくれませんか」
     いつか、こうして月明かりの下で、二人きりで踊るのではなく、太陽の下で、たくさんの人の輪の中で踊る時のために。
    「……はい」
     その言葉の意味を理解する前に、何かを考えるより前に、私は頷いていた。
     いつか訪れる平和な日が、貴方と手を取り合うことができる日が、訪れる日がくると信じているわけではない。ましてや訪れないかもしれないなんて、そんなことは考えもせず。
     貴方の耳の先を赤く染めた熱と、私の頬を赤く染めた熱。そのひとときの火照りだけが確かな日の記憶だった。

    「どうぞ」
     差し伸べられたリンクの手を見て、私ははっと我に返った。ずいぶん長い時間、あの月明かりが美しい日に、私の騎士と躍った日のことを思い出して感慨に耽っていたようだ。
    「……はい」
     私はあの日、恐る恐る差し出されたリンクの手を、おずおずと取った。だが今、リンクはためらうことなく私に手を差し伸べ、真っ直ぐに私を見つめている。たとえ一瞬でも目を逸らしたら、私が目の前から姿を消してしまうのではないかとでもいうような熱心な視線に、かえって私のほうがたじろいでしまう。
     リンクが片手で私の手を取り、もう片方の手を私の腰に添える。つないだ手は指の一本一本まで絡めて、離すまいとしているようだ。リンクの視線も真っ直ぐに私をとらえたまま離さない。彼の睫毛の一本一本まで数えられそうな至近距離に、私の鼓動は否応なしに高まった。
     再会してからというもの、ここまで彼の体温を感じられるほど近くにいるのは初めてかもしれない。お互いの吐息さえ感じられそうなほど深く見つめ合いながら、私はそんなことに思い至る。復興に忙しいふりをして、私は彼に問いたださないようにしていた。貴方は私の騎士なのか。それとも姿が同じだけで、別の心を持った人なのか。
     あの月明かりの日に二人きりで躍ったのとは違う、そしてあの夜に夢に描いた、誰もが祝福する中で踊るのとも違う。かつての栄華がそこかしこに散らばった朽ちた広間で、あの日過ぎた望みを抱いてしまった姫君と、それに付き合わされた騎士の残滓を、私は貴方の中に見つけ出そうとしている。
     あの時──厄災を封印し、ハイラル平原で出会った貴方に、結局聞くことができなかった答え。覚えていると言われても、忘れ去られたと告げられても、どちらでも、きっと凪いだ心ではいられなかったろう。
     答えを求めて発したわけではない問いかけを、貴方はどう思っただろう。
     自分からは何も言えないくせに、ただひたすらに、貴方からの答えを待っている。ただじっと貴方の顔を見つめていると、貴方は静かに口を開いた。
    「ダンスは心を一つにし、息を合わせて行うものです」
     その言葉に、一瞬私は息を止める。それはかつて、私の騎士が私に言い、私が私の騎士に返した言葉だ。私が目を見開いていると、彼はそっと、秘密を告げるときのように、「──そう、聞きました」と付け加えた。
     戸惑って彼を見つめる私を、リンクがじっと見つめ返す。かつて逸らされてしまったその瞳に宿る熱の名を知りたくて、私は懸命に頭の中の辞書を引く。そうしているうちに、リンクが言葉を探しているかのように、ぽつりぽつりと言葉を続ける。
    「踊るのは得意ではありません。
     でも……だから、教えてもらえますか」
     その言葉に、思わず滲む涙をそのままに、私は頷く。
    「貴方がまた、私と踊ってくれるなら」
     そう告げると、リンクは年相応の、少年らしい幼さに頬を緩ませて、はにかみながら微笑んだ。
     そしてそっとその指先で、私の目尻に浮かぶ涙を拭い、耳元でそっと囁いた。
    「何度でも」
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    四 季

    DONEリンクが姫様に自分の家を譲ったことに対する自分なりの考えを二次創作にしようという試み。(改題前:『ホームカミング』)
    帰郷「本当に、良いのですか?」
     ゼルダの問いかけに、リンクははっきり頷き、「はい」と言葉少なに肯定の意を示した。
     リンクのその、言葉少ないながらもゼルダの拒絶を認めない、よく言えば毅然とした、悪く言えば頑ななその態度が、百年と少し前の、まだゼルダの騎士だった頃の彼の姿を思い起こさせるので、ゼルダは小さくため息を吐いた。

     ハイラルを救った姫巫女と勇者である二人がそうして真面目な表情で顔を突き合わせているのは、往時の面影もないほど崩れ、朽ち果ててしまったハイラルの城でも、王家ゆかりの地でもなく、ハイラルの東の果てのハイリア人の村・ハテノ村にある、ごくありふれた民家の中だった。
     家の裏手にあるエボニ山の頂で、いつからか育った桜の樹の花の蕾がほころび始め、吹き下ろす風に混じる匂いや、ラネール山を白く染め上げる万年雪の積もり具合から春の兆しを感じたハテノ村の人びとが、芽吹の季節に向けて農作業を始める、ちょうどそんな頃のことだった。ゼルダの知らないうちに旅支度を整えたリンクが、突然、ゼルダにハテノ村の家を譲り、しばらく旅に出かける──そう告げたのは。
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