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    k i r i

    練習練習。

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    POIPOI 31

    k i r i

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    傍から見たらどうみてもホとできてるし体の関係もあるのに無自覚すぎて告白されて浮かれてメイドちゃんと付き合っちゃうグの話。修行明けの15歳くらいの話だと思って下さい。

    ORANGE「へ?」、と間の抜けた声がした。
    大きく見開かれたその金色の瞳には、間抜けな顔をした自分が映っていた。





    「ホメロス、ホメロス!」
    あちこち探してやっと見つけた友人は、こちらの姿を認めると嘆息した。
    「なんだ、グレイグ。図書室では静かにしろ」
    「ごめん、でも、聞いてくれよ!俺、彼女が出来たんだ!」
    「へぇ…へ?」
    目の前の男は先程の彼女と同じような反応をした。
    「…お前今なんて言った?」
    「だから、俺、彼女が」
    「彼女?」
    「ああ、あの、最近入ったメイドの子。ほら、この間メイド長に紹介されただろ、小柄な」
    「赤毛の?」
    「そうそう、その子にさっき、付き合って下さいって言われて。
     俺、そんなの初めて言われたから」
    「承諾したと?」
    「ああ。」
    「彼女を知りもしないのに?」
    「それは、まあ…」
    正直に答えると、信じられないといった顔をされた。
    「あの子も確かに驚いた顔してたけど、
    …それはこれから知っていけばいいことじゃないか?
    だからさ、今度、ホメロスも一緒にあの子に会ってくれないか?」
    「は?」
    ホメロスの細い目が見たことないくらい大きく見開かれた。
    「お前と彼女の逢瀬に同席しろと?」
    「そういうことに…なるのかな」
    逢瀬、という使い慣れない言葉に動揺していると、チッと鋭い舌打ちが聞こえた。
    「冗談じゃない。オレはそこまで暇じゃない。
    くだらない報告は以上か?だったらオレはもう行くぞ。忙しいんだ」
    くだらない、はないんじゃないか、と言い返すより先にホメロスは手にした本を抱え直して自分の横をすり抜けて行ってしまった。





    城の廊下を歩きながら、頭の中で先程グレイグの言った言葉を何度も反芻していた。
    目の前がぐらぐらと揺れている。
    頭の中が真っ白になって足元が砂のように崩れていくような感覚に襲われた。
    何を言っているんだあいつは。
    なんて言ったんだあいつは。
    彼女ってなんだ。付き合って下さいって言われたと。それを承諾したと?
    分かってるのか。その意味を?
    からかわれたのか?いや、そんな冗談を言うやつじゃないだろう。そんな冗談を、
    「……」
    もしも冗談だったなら、慌てて走って追いかけて、謝りに来るんじゃないか。
    そう思って立ち止まって振り向いたが、今自分が歩いてきた長い廊下の先にその姿はなかった。
    (…彼女が出来たって、)
    じゃあ、オレはお前のなんだ、とは言えなかった。
    返ってくる返事は想像がつく。
    そうだ、『友達』だ。
    いつもいつもオレにまとわりついて。ホメロスホメロスって。うるさくて。
    オレがいないと何もできなくて。夜も眠れなくて。
    コミュニケーション過多で。すぐにオレに触れたがって。
    お前、つい数日前もオレに触れただろう。オレを抱いただろう。
    あれは、どんなつもりで。

    (分かっている。)

    あいつは何も考えていない。
    幼い頃のじゃれあいの延長で、そこに自分でも正体のよく分からない熱が産まれて。
    持て余したその熱をどうしたらいいのかと悩んでいたら、そこにオレがいた。
    それだけのことだった。
    それをオレだけが特別だと勘違いしていた。
    思い返せば夜の闇の中でも、好きだなんて言われた覚えがない。
    ただひたすら、名前を呼ばれていた。ホメロス、ホメロス、と。
    誰よりも、きっと母よりもその名を呼ばれた。
    その眼が自分を見て愛おしげに細められて、その手が大切なものに触れるように自分の髪に触れたから、愛されているのだと勝手に思っていた。
    自分だけが特別なのだと。
    幼い頃はもっと素直に大好きだと言われたことがあるような気もするけれど。

    「…そうか。」

    何かを納得させるように、小さく言葉が漏れた。







    *****


    最近、ホメロスが冷たい。
    元々鬱陶しいだのあまりくっつくなだの言われていたが、こんなにそっけなくはなかった。朝も早く出るようになったのか会わなくなったし、食事の時も見かけなくなったし、最近は夜に部屋に行っても鍵がかかっているし、声をかけても眠っているのか返事もない。
    日中は話しかけても忙しいとにべもなくかわされる。


    「ホメロス!」
    部屋の前で座り込んでいた自分を見つけて、ホメロスは心底めんどくさそうな顔をした。
    「まさか、今日の鍛練が終わってからずっとそこで待っていたのか?」
    「だって、こうでもしないと会えないだろ。最近、忙しそうだから」
    立ち上がって思わずその肩を掴むと、ホメロスは鬱陶しそうにその手を払った。
    「それで?人の部屋の前で待ち伏せするほどなにか火急の用か?」
    「…そういうわけじゃないけど、」
    「用がないなら、あまり、オレにべたべたと触るな。話しかけるな。誤解されるだろう」
    「誤解?」
    払われた手は宙に浮いたままで、俺はその言葉を馬鹿みたいに反芻した。
    「…誤解、って?」
    「誤解は誤解だ」
    「誰が何を誤解するって言うんだ」
    純粋な疑問を口にすると、頭一つ分低い位置から金色の瞳に睨みつけられた。
    「そんなことまで言われないと分からないのか?お前の『彼女』に決まっているだろう」
    「彼女が何を」
    「疲れているんだ。お前もさっさと自分の部屋に戻れ」
    俺の言葉を最後まで待たず、ホメロスはさっさと部屋に入ってしまった。
    立ち竦む自分の耳に、扉の鍵をかける音がすべてを拒絶するように響いた。

    ホメロスの最後の言葉が頭を回る。


    誤解って、なんだ?







    *****


    「…私といるのはつまらない?」
    隣に座る彼女が、小さな声でつぶやいた。
    そんなことは、と言いかけてその言葉を飲み込んだ。
    ただ、本当に申し訳ないのだが、できることなら重苦しい沈黙の支配するこの場からすぐに帰りたかった。

    告白されてから一週間ほどたって、ようやく『付き合っている』人間はどんなことをするのかと先輩方と蔵書の知恵を借りて調べた。
    いつもなら博識な友に助言を求めるところだが、今回それは使えない。
    取り敢えず休息日を合わせて、デートしてみることにした。
    そうしてふたりで街に出てきたものの会話らしい会話はほとんどなく、先程から無言で噴水に並んで座っている。
    彼女が悪いわけではない。
    ただ、彼女と話したいことが浮かばない。
    なにか食べるにしても、今ここにいない友が好きそうなものを探してしまうし、先輩に教えて貰った女性が好きそうなアクセサリーの店を覗いて見ても、友の髪に映える髪留めだとかピアスだとかを探してしまう。
    そうして、どうして今ここに彼がいないのだろうと考えてしまう。
    ホメロスと休息日が一緒になったら、ひとりでは行きにくいという女性ばかりの甘いものの店に付き合ったり、天気が悪ければどちらかの部屋でごろごろと本を読んだり、姫様の遊びに付き合わされたり、手合わせをしたり。
    あっという間に時間が過ぎた。

    その時間を思い出すと、帰りたい衝動はますます高まっていった。
    ホメロスに会いたい。ホメロスと話したい。ホメロスの声が聴きたい。
    彼女といることでそのすべてを諦めなければいけないのか。

    …彼女と付き合っているから?

    浮かれていてよく考えていなかったが、そもそも付き合うってなんだ。
    今日みたいにデートして、一緒にいることか。話をすることか。手を繋ぐことか。

    『彼女に誤解されるだろう』

    ホメロスの言葉が脳裏をよぎる。
    誤解、と彼は言ったが、あれはどういう意味だったのだろう。
    彼女がホメロスのことを誤解する?
    彼女とは会話も続かないのに、ホメロスとばかり話したがる。
    彼女といるのにホメロスのことばかり考える。

    (彼女が、自分よりホメロスのことが大事なんじゃないかと誤解する?)

    実際自分は、今隣にいる彼女より、ホメロスに会いたい。
    『付き合ってるふたり』がするそのどれも、ホメロス以外の誰ともしたくない。想像もできない。
    そこに思い至ったところで、更にひとつの結論にたどり着いた。

    (それは誤解では、ないんじゃないか?)

    自分がどうしようもない馬鹿だと気が付いて、思わず両手で顔を覆った。
    どうしたの、と声がして、彼女が横から覗き込む気配がした。

    「…ごめん、俺、なんにも分かってなかったみたいだ」







    話がしたくて探していた背中は、夕日に染まるバルコニーで見つけた。
    ホメロス、と声をかけたがその背中は振り向かなかったので、隣に並んだ。
    端正な横顔はオレンジ色に染まる街並みをじっと見ている。
    「デートにしては随分帰りが早いじゃないか」
    さすが耳が早い。自分の今日の予定などとっくに把握されていた。
    「ああ、実は、…あの子と、別れてきたんだ」
    隣に立つ男はこちらを見ることもなく、そうか、と言った。
    「俺、付き合うってことを、よく、考えてなかった」
    「最低だな」
    「なんとなく、女の子と仲良くなる、くらいの認識だったんだ。
     具体的なこと、全然想像もしてなくて」
    「具体的なことって?」
    「例えば、手を繋ぐとか、休みの日を一緒に過ごすとか、…キスするとか」
    「………」
    「あの子とそういうことをする自分が全く想像できなくて」
    そしてそれはあの子に限ったことでなく、
    「…なんていうか、そういうこと、ホメロスとしかしたくないなって」
    そこでホメロスはやっとこちらを向いて、自分の顔を見て細い目を丸くした。
    「派手にやられたな」
    「姫様もそうだが、女性はあんなに小さな体のどこにこんな力があるんだろうな」
    熱を持った左頬を摩る。ここにはきっと、見事な手形がついていることだろう。
    「いまの話を彼女にも正直に話したら、この有様だ」
    自分が彼女にしたことを考えたら、全然大したことではないんだけれど。
    「古来から言われている通り、女性を怒らせるなということだ」
    小さく笑って、ホメロスの右手が自分の左頬に伸びてきた。
    それを、自分の手で緩く握りしめる。
    「…それで、あの、ホメロス。頼みがあるんだが」
    こちらを見上げるホメロスの髪と瞳が、夕日に照らされてその色に染まっている。

    …とても、きれいだと思う。
    出会った時から今まで、そしておそらくこれからだって、生涯誰かをこんな美しいと思うことはないだろう。
    心臓が経験したことないくらいの速度で鼓動を打ち、言おうとした言葉が、喉につかえる。
    あの時彼女もこんな思いだったのだろうか。

    …本当に、悪いことをした。

    ひとつ深呼吸をして、言葉を吐き出す。
    「…俺と、付き合ってもらえないだろうか」
    情けないくらい震えたその言葉に、金色の瞳が少し細められた。
    「勝手な奴だ」
    「まったくもってその通りだ」
    「明日にはお前は城中の女性の敵だ」
    「むぅ、…しかしそれは、…当然だな。甘んじて受け入れよう」
    自分の言葉にホメロスは小さく笑うと、俺につかまれていた手をそっとほどいた。
    「考えておこう」
    一言そう言って、ホメロスは俺に背を向けた。
    その背中で、金色のしっぽが跳ねた。



    どこかうれしそうに。






    *****


    「おかしいと思ったんですよね。あのふたりは付き合ってるって聞いてたし、実際付き合ってるように見えたのに。ダメもとで告白して、OKもらった時は本当に驚きました。もちろん嬉しかったですけど、同時にあれ、この人、本当に分かってるのかな???って。別れ話を切り出された時も、あーやっぱりなー自覚なかったんだーって思いましたよ。先輩たちが『グレイグはいい子だけど本当に鈍いところがあるからやめておきな』って言ってた意味がわかりました。あれに付き合える人はひとりしかいないと思います、本当に。」

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