we used to be 5「食堂にて」
いつもの時間に目を覚まし、着替えを済ませ、いつものように食堂に向かったが、その日はいつもと様子が違った。
いつもならテーブルの上には朝食が並び、僕より先に起きてきたのであろうおじさんがお茶を片手に新聞を読んでいるのだ。
それが、今日はテーブルの上に何も載っていないどころか、誰もいない。
「起きてきたのか?」
不意に、厨房の方から声がした。
「おじさん?」
厨房に入ると、おじさんが振り向いた。
いつもそこにいるはずの、メイドの姿はない。
「お前が起きてくるまでには朝食を作っておこうと思ったのだが…
いやはや、久しく料理などしていなかったからどうにも勝手が分からん」
「おじさんが作るの?おばさんは?」
「いや実はさっき息子さんがいらしてな、昨日の夜、家で転んで腰を痛めてしまったらしい」
フライパンの中の卵と悪戦苦闘しながら、おじさんは続けた。
「腰が治るまで暫くこられなくなるそうだ」
ふと焦げ臭さが鼻について、テーブルの上を見てみれば、黒く焦げた失敗作が乗せられたお皿がいくつも並んでいた。
これはさすがに食べられないな、と思っていると、新しい皿を取ってくれ、と声をかけられた。
事前に用意しておいたお皿は使い果たしてしまったらしい。
棚から新しいお皿を出して渡すと、おじさんはふう、と息を吐いてそこにフライパンの上のものを乗せた。
そうしてお皿にのせられた卵料理は、見事に端が焦げていた。
多分だけど、目玉焼き。
「むぅ…これも少し焦げてしまったな。これは俺が食べよう。
もう一つ作るから、お前はもう少し待っていなさい」
「僕これでいいよ。これとパンでいい」
この調子では、いつ朝食にありつけるのかわからない。
お皿を持ったまま首を捻っているおじさんを見上げると、おじさんはすまない、と苦笑いした。
「これでも昔は多少料理が出来たんだがなぁ」
できあがった目玉焼きとパンを食堂に運びながら、おじさんが肩を落とした。
「将軍様でも、料理することあったの?」
「若い頃は野営地での食事は当番制だったからな。旅をしていた頃も、仲間と交代で食事の準備をしていたものだ」
ふうん、と返して席に座る。
なんだか想像がつかないな。ジャガイモの皮むきをするおじさん。
「とは言っても、やらないわけにはいかないからな。あとで食料の買い出しに行ってくる」
「町に行くの?それなら僕も行きたい」
僕の言葉に、おじさんが驚いた顔をしてこっちを見た。
「…何か欲しいものでもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど。しばらく行ってないから」
おじさんはああ、そうか、と呟いて、少し考えこんだ。
「今日は他にも寄らなければいけないところがあるんだ。また、別の日に一緒に行こう」