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    練習練習。

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    ホ6日目。
    終わりが見えてきた。

    AWAY,AWAY,AWAY from HOME ホメロス6日目6日目

    午後の日差しが明るく差し込むリビングでいつものように食後の紅茶に砂糖を入れていると、ふと視線を感じた。
    振り向くと、微妙な顔をしたグレイグが背後に立っていた。

    「なんだその顔は。文句でもあるのか」

    不機嫌さを隠さずそう告げると、グレイグは微妙な顔のままシュガーポットを指さして何か言った。『太る』、という単語が聞き取れた。
    甘いものを摂りすぎると太ると言いたいのか。

    「脳の疲れをとるのに甘いものは必要なんだ。幸い、太りにくい体質でな」

    頭を使うことのないお前には分からんかもしれんが、と付け加えて視線をテーブルに戻す。
    紅茶を一口飲んでから、ペンを手に取り赤い表紙の日記帳を開いて文字を綴る。
    グレイグはソファーに座るオレの隣までやってきて、手元を覗き込んでまた何か言った。
    日記、か、と言ったな。

    「そうだ。幸か不幸かここに来てからは貴様のせいで書くネタには事欠かん」

    いつもは夜に書くのだが、さっきこいつが窓から入ってきた小さな虫に驚き恐れ戦いて腰を抜かしたのが面白かったので、記憶が鮮明なうちに書き留めておこうと思った次第だ。
    横に突っ立ったままのグレイグを無視してさっきの出来事を綴る。

    「……」

    グレイグはまだ突っ立ってこちらの手元を見ている。
    どうせ読めないだろうと思ってはいてもあまり気分のいいものではない。
    マナーのなっていない奴だ。

    「なんだ。まだ何かあるのか」

    隣に立つ大男に声をかけると、奴は慌ててポケットからメモを出してオレに見せた。
    『今日』、『夕食』、『レストラン』、そしておそらく店の名前。

    「外食をするのか?」

    極力外に出ずに家で過ごしたいのはもちろんだが、いい加減こいつのキノコ料理にも飽きた。
    よくもまぁこんなにキノコ料理ばかり作れるものだとある意味関心はするが。
    こちらの言葉で了解した旨を伝えると、グレイグはほっとしたような笑顔を見せた。
    ただ、

    「言っておくが代金はお前が払えよ」







    グレイグの案内で着いた店は一応ちゃんとした、というかレストラン然とした店構えだった。
    そんなに格式高い感じはないが、てっきり地元の大衆食堂のようなところだろうと思っていたので意外だった。
    案内された席は何故かムード満点の窓際の席で、ご丁寧にキャンドルまで飾られている。
    グレイグお前、プロポーズでもするつもりなのか。
    おそらくは「大人2人」で予約したのを店の方で気を利かせてくれたのだろうが。
    まぁそこはどうでもいい。
    席に着いてからも店内をきょろきょろと観察していると、向かいに座るグレイグにメニューを渡された。
    一瞬だけ目を通して、直ぐに返す。

    「見たところで分からん。適当に注文しろ」

    グレイグが少し困ったような顔で何か言った。
    自分の、おすすめ、と言ったな。

    「それで構わん」

    頷いて見せると、グレイグはさっそく店員を呼んで注文を始めた。
    料理名は聞いても分からないが、店員が飲み物、と言ったのが聞こえた。
    おいグレイグ、お前今『水』って答えなかったか。
    グレイグの注文が終わったタイミングでその手からメニューをひったくる。
    店員をこちら側に手招きすると、メニューにあるワインの銘柄を指さす。
    ついでに『ボトル』の文字も。
    愛想よく頷いた店員にメニューを渡して、下がらせる。

    不思議そうな顔をしたグレイグが何か言っていたが、無視して窓の外を眺める。
    日は沈んでいるが、まだ真っ暗と言うほどではない。
    それでも、濃紺の空にはいくつか星が見えた。
    昨日、グレイグを駅まで送った後に見上げた空は正に満天の星空だった。
    あんな星空、プラネタリウムでしか見たことがなかった。
    実在するんだな。

    そんなことを考えていると、店員がワインを持ってやってきた。
    グレイグが何か喚いて立ち上がった。騒がしい奴だ。
    店員も怯えているぞ。
    隣の席のメニューを手に取り何かを確認している。おそらく値段を確認しているんだろう。
    喜べグレイグ、手頃な値段のものにしてやった。
    値段を確認したのか、ほっとした顔をしたグレイグだったが、すぐにまた何か喚きだした。
    運転、と言ったか。
    そんなの決まっているだろう。
    ポケットから車の鍵を出して、グレイグに放る。

    「お前が運転しろ」

    立ったまま唖然としているグレイグは無視して、怯える店員にグラスをひとつ持ち帰らせる。
    今日までお前のキノコ料理しか食べていないんだ。
    このくらい楽しんだっていいだろう。







    そうしてワインを半分ほど空けたあたりから、記憶がない。



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