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    家庭菜園

    we used to be 3「庭」

    おじさんは、登城しない天気のいい日は裏庭にある畑の手入れをする。
    別に何か言われたわけでもないのだけれど、その時には僕も手伝うようにしている。
    だってあの人は虫が触れないから。
    それに自分が育てた植物が花や実をつけるのを見るのは、楽しいことでもあった。

    「おや、随分大きくなりましたね。そろそろ食べごろかも知れません」

    通いでやって来ていた年老いた庭師が赤く色づいた実を触りながら言った。

    「今年は天候に恵まれたからな。どれも去年より出来がいい」

    その分虫も多かったけどね、と僕が言うと、おじさんは大きな手で僕の頭を撫でた。

    「その点では、お前には世話になったな」
    「まったく、天下の英雄が虫が苦手だなんて、子供や孫には言えませんよ」

    庭師が冗談めかして言うと、おじさんは恥ずかしそうに頭を掻いて笑った。
    どうやらおじさんが虫が苦手だという話は、外でしてはいけない話らしい。
    …したところで、信じて貰えないと思うけど。
    むしろ僕は、小さな虫相手に腰を抜かしている目の前の人が世界を救った英雄だという方が信じられない。

    「おじさんは、子供の頃から虫が苦手なの?」

    その質問には、おじさんより早く庭師が口を開いた。

    「旦那様の虫嫌いは子供の頃からの筋金入りさ。
    お城にいた頃もこんな小さな虫が背中に付いたって言っては大騒ぎして」

    こんな、と言うところで庭師は指で小さな輪を作ってみせた。
    それを見ておじさんも笑った。

    「あの頃はいつも友に取ってもらっていたな。騎士たるものが情けないとよく怒られたものだ」
    「へぇ…」

    『友』
    おじさんの口からたまに出てくるその言葉。
    会話の端々でその存在を主張してくるが、

    どんな人だったのか
    なんと言う名前だったのか

    何故か詳しくは語られない。
    ただその言葉が出る時、おじさんは僕を見て、少し寂しそうに笑うのだ。

    「………、」

    不意に、視界の端で何か動いた気がした。
    被っていた麦わら帽子をとり、屋敷を見上げる。
    二階の角の部屋。
    いつもカーテンが閉められている、あの部屋。

    「ねぇ、あの部屋」

    僕が声をかけると、おじさんと庭師は談笑をやめてこちらに顔を向けた。

    「どうしました?ぼっちゃん」
    「あの二階の角の部屋。今、誰かいたような気がする」

    その言葉に、二人の顔から笑みが消えた。
    しかしそれは一瞬のことで、二人はすぐに笑顔に戻った。

    「ぼっちゃん、なにか見間違えたんでしょう」
    「あの部屋は物置で誰もいないが、もしかしたらネズミでも入り込んだのかも知れないな。
    後で見ておこう」

    反論しようとしたが、その話は食事に呼びに来たメイドによって強制的に終わらされてしまった。








    ネズミ?
    そんなものじゃない、あれは、



    あれは確かに、人の姿だった






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