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    ポテトアンバサダー

    @BEHOOLE_ANA

    うおお

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    POIPOI 5

    自創作の文章作品でた
    視点はガイヤ

    さんさんと「風が止んだ」
    静かな部屋で先生は背を向けたまま云った。
    顔を上げて振り返ってみても生徒の答案を採点する音は止むことはなく、窓枠はガタガタ揺れている。
    「もう寝ます」
    立ち上がって部屋を出ると先生が「今日のは深いぞ」と“独り言“を云ったのが聞こえた。
    「分かってます」
    口の中で返事をして廊下を通り過ぎ、子供たちの寝ている部屋をちらと覗いてから、自分の部屋に引っ込んだ。
    寝室の窓は暗く、灯りをつけない部屋はどんな光も吸い込むように思えた。
    布団に入っても眠らず、子供たちの名前を1人づつ思い出していくと、1人足りない。それではいけないから、また最初から思い出しなおす。すると1人多い。少しあたりがぼんやりしてきて、そのうちにうとうとしたのかもしれない。
    まとまりのないことに頭が鋭くなって澄んでくる様子で、静かな寝室の、もっと静かな所へ沈み込んでいく気配すらあるようで、それでいて瞼は重い。
    部屋の前の廊下から固い何かを引き摺る音がした。床に傷はつかないだろうと思った。重すぎず軽すぎない足取りで、緩慢にも次第に近づいてきて、部屋の前を通り過ぎたと思うと、ふっつりと消えた。それからどれくらい布団の上で身を固くしていたか分からないが、ドアの前に人の気配を感じた瞬間、ハッとして身震いがした。ノブが動いてその音を聞くか聞かないかに総身の毛が一本立ちになる様な気がした。弾かれたように起き上がると気配は消えたが未だ、ノブは今にも動くかと思われた。

    物凄い雨の音に驚いて気づいて見るとドアは開いていた。そのほかには何もなかった。
     
    思い出せない子供を思い出すべきだと思った。
    廊下は冷えていたが先生のいる部屋はまだ灯りがついている。

    自分の席には白い髪の痩せた女が座っていて、空洞のような目をこちらに向けた。
    「今何時だかお分かりですか?」
    窓に雨粒が打ち付ける音は篭っているのに女の声はやけにはっきりと耳に届く。
    「ここにいるものかと思ったが」
    「彼は来ますよ、ただいま」
    「そのはずだ。いつもここにいるんだから」
    先生を見ると依然背を向けたまま、何かぶつぶつ呟いていたが激しい雨音に邪魔されてよく聞こえない。でも何だか「あの道は花が咲いている間しか開かないはずだが、まだ境界が残っていたらしい。なに、誰のせいでもない。」と云ったように思われた。
    ともすると又あの引き摺る音がしていきなり柱の影から黒い子供が現れた。
    1人足りなかったのも多かったのもこの子供だ。名前は何といったか。
    「君、名前は」
    全部で30人もいないここの子供の中で名前を知らぬ者などいないはずだった。
    「―」
    口だけでつぶやくその声に聞き覚えがあったが、その声の持ち主の顔を思い浮かべることはできなかった。
    「まさか、違うだろう」
    少しいやな顔をしたように思う。
    「違わない」
    ―は冷たい目をして、いつまでも動かなかった。不気味な胸騒ぎがして左手で腰の辺りを探ったが、自分の腰の得物は―が引き摺っているのだと気づいた時、急に恐ろしくなって動こうとしたけれども、頭を殴られたように動けなかった。
    ―がひとつ瞬きすると棚の物が動いて辺りが混雑し容易ならぬ気配が迫ってくるのを感じた。何処かで雨の漏る音がしだしたのを皮切りに―は刀を抜いて構えた。

    子供の鋭く短い叫び声が聞こえて、それからしきりに自分の名前を呼んでいるように思われたが、それが自分の名前とは思えなかった。
    ドアが破れるくらいに叩いている音を聞きながら、どうしても目を覚ますことが出来ない。とうとうドアを壊して這入ってきた。
    思っていた通り、得物を引き摺ってきて脇に立ち尽くす。青白い顔をした女も黙って立っていた。どうしたものかと迷っていると「刀は好き」と聞こえたけれど、およそ子供の声ではなかった。
    「子供は増えていない。さっき聞いたよね」
    「知らない」
    「先生もそう云ってた。お前はなにもないところを見てる。癖なんでしょう。」
    「それがどうした」
    「刀も女もさ、花が咲いていないといけない。それじゃ待ちぼうけだし、擦れ違う度に無くした物が帰ってくるまで、いつまでもいつまでも」
    「違う」
    「馬鹿だな」
    「じゃあなぜ」
    「馬鹿だよ。いい加減にしたらどうなの」
    今更初めて自分と同じ声をしているのに気がついた。

    ガチャンと床が鳴って、―がひとつ手を叩いた。
    「そうでしょ、やっぱりさ。あははは」
    赤黒い歯を見せて人の顔を覗き込んだ。耳の奥ががんとして、耳鳴りがする。
    「およしなさい、およしなさいよ。同じことです」
    女の細い指に肩を掴まれて引き離された―の背後に窓はなく、さんさんと風の音がしている。
    「俺はお前で
    お前は俺で
    1人じゃない
    だってそうだよ、ねぇ?」
    ―の暗い髪と肌が、角が、境界がなくなった。
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    ポテトアンバサダー

    DONEBEHOOLEほんへ完結後の話のつもり。存在しないほんへの後の話などという😂

    <主な登場人物>
    ガイヤ・フウゲツ…竜人 小児科医
    アデライン…魔法使い 看護師
    ノィリ…蟲人 技術研究者
    ルッツ・リックマン…魔法使い 世界間貿易商社兼人材派遣会社「BEHOOLE」の社長
    セシリア・セルベリア…悪魔
    ギルウッド・シルバ…大学教授 魔法生命体学専門
    運転手…犬獣人
    レナ…魔法使い 夢閉病患者
    おやすみ先生また明日プロローグ

    わたしは誰?
    霧の大地を抜けて、私は逃れる。
    ここはどこ?
    追っ手が近づいてくる。
    見覚えのある柱を右に折れて、わたしは大きなドアを押し開ける。
    痺れる足を持ち上げて、もういくつも階段を登ったはずなのに、いくつもの屋上へ続くはずの扉を開いたはずなのに、一向に地上にたどり着けない。
    わたしはここでなにをしているの?
    ウィラの町の眼鏡橋が見えたらすぐに左の路地へ、二つ目の扉を開けたら通りを南へ進み、階段を一気に駆け登る。
    アラタス教徒が祈りを捧げる尖塔を目指して、声を張り上げて商品の宣伝をする者たちで溢れるデッカード広場を突っ切ると、腰くらいの高さのある鉄柵を飛び越えて、その先にある鉄扉に体当たりするようにして外に転がり出るも、やはり空は見えない。
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