人か鬼か仕事から帰って風呂に入って、血液パックで食事をとった
布団に入るとカンタロウが寝ていた
寝顔を見て、今日あったことを思い出して心が冷えたり詰まったり苦しくなって背を向ける
まるで当たり前のように、突然後ろから抱きしめられた
「ナギリさん、おかえりなさい。」
「…ただいま」
「お悩み相談室しましょうか?」
「は?」
「何かあったのかなって思いまして」
こいつは俺の事何でも見通してくる気がして怖くなる時がある
辻バレ前に何度逃げても、何処に逃げても捕まったのが良い例だ
「…今日、ガキを助けたんだ」
「はい」
「助けたガキを家まで送ろうと思って声を掛けたら」
『嫌ッ!怖い!斬らないでぇ!』
「そんな事言われたの久々だったから、」
「ナギリさ「一瞬嬉しくなって気持ちよくなったんだ」
「…」
「それが、おれは、嫌、で」
カンタロウが抱く力を強くした
「お前と暮らし始めて、人間の頃より人間らしい暮らしをして」
毎日飯があって、体を綺麗にする風呂があって、暖かい寝床があって
飯作って掃除して仕事して
そんな人間らしい生活をして
「俺は人になった気になってたんだ」
自分は吸血鬼だってわかってたのに
「俺はまたいつか、人を斬るんじゃないかって怖くなっ「ナギリさんはもう人を斬りません!貴方の力はもう傷つける力じゃなくて!誰かを護るための力なんです!」
「でも俺は!怖がられて!それが心地良かったんだ!吸血鬼だから!」
カンタロウが俺を無理矢理ひっくり返して顔を掴まれ、目を逸らさせない
「確かにもう人には戻れません。吸血鬼なんですから畏怖され気持ちよくなって良いんであります。悪い事じゃありません。」
「…ッ、人にとっては悪い事だろう!」
「でも貴方は傷つけたりしないでしょう?悪くないであります。」
「…」
「それに、貴方の目を見るとわかります」
「め?」
「はい。貴方の目は夜、赤く光りますが、よく見ると黒く、とても綺麗であります…」
カンタロウが俺の目尻を撫でて言う
俺のちっさい目が赤だろうが黒だろうがどうでもいいだろう
それがこの話に何の関係がある?
「きっとこれは貴方が人間だった頃と同じ色です。貴方の中に、ちゃんと人間のナギリさんもいるんでありますよ」
人間の…俺?
「人間でも吸血鬼でもナギリさんはナギリさんであります。人間の心も吸血鬼の心も持っているナギリさんが、吸血鬼だから人を傷つけるなんて事はないです。ナギリさんだから人を護れるんですよ。」
「俺はそんな貴方が好きです。大好きです。」
「お前、そればっかだな…」
「はい!!本当に大好きなので!!」
俺の中にまだ人間の俺がいるなら、
この馬鹿が一緒にいるなら、
俺が人を斬るバケモノになる事はもうないのかもしれない。
こいつが正しい場所に俺を引っ張ってくれる。
「カンタロウ」
「はい!」
「ありがとう」
「!!!!…はい!!」
その後は不安なんて吹き飛んで、こいつに抱きしめられながら眠った