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    もえ(BPB)

    @moet124715

    ブ主と主ブと。ポイピクのアカウントの切り替えがよく分からないので、一緒にしてます。すみません。

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    もえ(BPB)

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    この前上げたのの続き。これで女の子ピアスの話を行こうと思ったけど、1年半分を書くのか!?長過ぎね!?と思ったのでやめた。供養。ブ主。
    ※冒頭は先日上げたのと一緒です。

    #版権
    copyright
    #ブ主
    #女体化
    feminization
    #先天的女体
    theInnateFemaleBody

    俺様を好きすぎる彼女の顛末「桜澤愛です」
     高校一年の入学式の日、彼女が自己紹介したときのことを俺は一生忘れない。
     緩いくせ毛でめちゃくちゃ可愛くて、その顔に似つかわしい高めの声。そして名は体を表すって感じの、似合いすぎる名前。さっきもエリーと呼んでくださいって綺麗な女の子いたけど、俺はこの子派かな〜なんて思った。そんなにおっきくなくて、でも出てるところは出てるのも好みだなーって。
     自分の自己紹介が上手くできた後だったし、俺は明るい明日に向けて色々考えていた訳。3月まではできなかったこと、地元から遠いここでしていく為のあれこれ。そう、明るい俺としてはこんな子にもどんどん声をかけるんだ。よっ、元気〜?なんつって。俺様上杉秀彦。アイちゃんって呼んでいい?って。
     初めてのホームルームが終わったら、そうやって話しかけてみよう。俺様の輝かしい高校生活はここから始まるんだ!

     キンコーンカンコーン…
     チャイムが鳴って、ホームルームが終わって。三々五々帰り支度を始めたり、近くの席のやつとお近づきになる為の会話を始めたり。俺はアイちゃん──そう呼ぶことに決めた──の席まで行って、ドキドキしてるのを悟られないように努めながら声をかけた。
    「こんちわっス〜」
     え、とこちらを見上げてくる目が激かわ。
    「えっと…」
    「俺、上杉秀彦。よろしくね〜」
     言いながら腰を落として、下から見上げるようにする。しゃがむ俺に合わせてアイちゃんの顔も動いて、どの角度でも可愛いんだなと思った。
    「あ、上杉、くん?」
    「そう、上杉クンでーす。桜澤サンは」
     どこ中出身か訊きそうになって、この流れは俺に良くないと話題を変えた。
    「何か部活とか入るの?」
    「まだ決めてない。中学では陸上部だったけど、あんまりタイム良くなかったから僕」
     あ、一人称『僕』なのか、この子。でもま、人それぞれ事情があるんだろうから指摘しない。似合ってるっちゃ似合ってるし。
    「へー。短距離、長距離?」
    「短距離。上杉…くんは?」
    「俺様帰宅部だったから、また帰宅部かも。遊びに行く方が楽しいかなーなんて」
    「ふうん?」
     左の方の髪をいじるアイちゃん。耳元が見えて、…へえ、ピアスしてるんだ。俺も髪染めただけじゃなくて、何かアクセサリーつけてこよ。エルミンの校則って緩いんで有名で、改造制服のセンパイがたもフツーにいるしな。そう言えば、もう堂々と『1』って書いてあるマフラー?スカーフ?してるやつも同じクラスだ。
    「桜澤サンもどこか遊び行くとき誘ってよ。お供します!」
     ビシッと敬礼すると、アイちゃんは笑ってくれた。…激まぶ。最初に声かけたのがこの子で正解だったのかも。フツーならさ、いきなりお供しますなんて言ったら警戒するだろうけど、これは本心から笑ってる顔だから。そしたら俺はこれ以上繋げずに他のやつにも声かけて、明るい上杉クンを演出しなきゃ。
    「そんじゃね。あんまりお邪魔しても悪いからさ」
    「うん。またね」
     今度は手を振りながらにっこりしてくれた。またね、だって。…いい子だな〜。
     アイちゃんのところを離れて。まだ残ってるやつに当たり障りなく声かけて。アイちゃん程には手応えなかったけど、何だこいつって顔するやつもいたけど、布石はバッチリ打てたから、これからの学校生活、きっと上手く行くに違いない。

     僕、って言っちゃった。
     高校生になったら直しなさいよって親から散々言われてたのに、上杉君が屈託のない顔をしてたから、つい出てしまった。けど、驚いた素振りもなく突っ込んでくるでもなく、そのまま流してくれたから、こちらの緊張もほぐれて。いきなり遊びに行くなら声かけてとか軽薄なのかと思ったけど、何となく、それだけじゃない感じがした。しゃがんで話しかけてきた男子なんて今までいなかったし。気遣いができるタイプ?
     でも、ホームルーム終わってすぐだったからちょっと驚いたのは確か。僕、何でか男子に敬遠されるっていうのかな、あんまり向こうから声をかけてくれるってなくて。嬉しかったしホッとした感じ? 仲良くなれるといいな。エルミンは3年間クラス替えがないっていうから。僕と言ってしまう僕が素のままでいても大丈夫なクラスでありますように。まあ、ずっと『僕』なんだけどね、僕は。…いつか『私』っていうときが来るのかな。違和感がありすぎて想像もできないけど。
     別に男になりたい訳じゃない。男勝りな訳でもない。何となくだけど『僕』が一番しっくり来るから。それを認めてくれるような人と恋人になれたらいいな。…そういう人、エルミンにいるかな?

    「おはよーっス、アイちゃん」
     何日か後の朝。校門をくぐったところでアイちゃんを見つけ、ポンと肩を叩いて挨拶。前日まで名字で呼んでいたからなれなれしいかなとドキドキしたけど、ちょっと驚いた顔で振り返ったアイちゃんはいつもの笑顔を向けてくれた。
    「おはよう、上杉」
     お、「クン」が取れた。そして俺の格好を見て、目を丸くして言った。
    「あ、制服改造したんだ? かっこいいね」
     そう、襟をガッと開けて、下に色物のTシャツ着てきたんスよ。イヤーカフとか指輪とかもしてきた。ピッカピカの一年生も一週間しない内に自分なりの着こなしするようになってて、俺も『俺のキャラ』にそぐうファッションで身を固めてきた訳。
    「ありがっちゅう! アイちゃんはピアスだけ? それも左だけだよね?」
    「うん、僕は敢えてこれだけでいいかなって。まだ開けて間がないからサージカルピアス外せないんだけど…」
    「今度似合いそうなのプレゼントしたげよっか? あんまり安っぽくないのがいいよね」
    「えー、嬉しいけどいいよう」
    「ままま、そう言わずに」
    「だって上杉バイトとかしてないんでしょ? 悪いよ」
    「ピアスをプレゼントするくらいはお金ありますうー」
    「ありそうに見えないもん」
    「あ、ひっでー」
     なんてことを話しながら校舎内に入る。当たり障りがない会話が続くっていいなあ。針のむしろだった頃は話す相手ったら家族くらいだったもんな。しかもこんな可愛い子と。だけどクラスメートとはまだまだなじめそうになく。お調子者の上杉クンを浸透させるには時間がかかりそうだ。人間関係って難しいな。
     入学式からこっち、一番話してるのがアイちゃんだけど、それも俺が男子から距離を置かれている要因らしい。なんつーの、アイちゃんが可愛いから互いに牽制し合ってて、なのに俺がガンガン話しに行くから「何だあいつ、抜け駆けしやがって」というような感情で穏やかではない男子多数、みたいな。話しゃいいのに。別にアイちゃんは俺の彼女でも何でもないんだから。呼び捨てになったけど。
    「あのね、上杉?」
    「うん?」
    「僕、親しくなると上の名前を呼び捨てにしちゃうんだけど、嫌だったら言ってね?」
    「アイちゃんも、アイちゃんって呼ばれるの嫌だったら言ってね〜」
     お互いに目を見て、にぃーっと笑って。嫌じゃないです。仲良くできてる証みたいなもんじゃん。ただいるだけのクラスメートじゃなくて、ってさ。
     もし、と考えた。
     アイちゃんが同じ中学だったら、『あのこと』があった後でも俺を見限らないでいてくれたかも。
     ──と思うのは期待しすぎなんだろうか。
     でもそう考えずにはいられない。ここ数日で、アイちゃんが誰にでも平等に接してるのを見た。明るくて気さくで、偏見とかなさそうで。数日分の情報しかないけれど、誰からも好かれるタイプのアイちゃんは、人によって態度を変えることがないのも分かってる。いるだけで集団の中心になるような、でもそれを笠に着ることもないような。そういう友達ができたんだから、エルミンを選んで本当に良かったよ。
     アイちゃんの前では素でいられるようになれたらな。性別を超えた友情ってのもありじゃない? 彼女作りたいより、俺には先ず人の中に入っていくこと、友達を作ることのが先決だと思うから。ちょっとやそっとじゃ崩れない友情ってやつがほしい。その為に、俺はエルミンに来たんだから。けど…。
     この方法論でいいのかっていうのはある。身についてないだけかもしれないけど、路線、あってるのかな? 一回崩れた諸々を立て直すのに、『この俺』でいいのかな?
    「上杉」
    「ん?」
    「前見ないとぶつか…」
     ゴッ
     …思いっ切り柱にぶつかった…。
    「あーあ…」
    「痛いっス〜」
    「ちゃんと前向こうね。何か考え事でもしてた?」
    「いやいや、そんなことはないっスよ〜? あるでしょ、何もなくてもぶつかること」
    「ないよ」
    「即答っスか」
    「あははは…」
     他愛ない会話。ありがたいな。好きになっちゃいそう。
     なんて。
     入学式からまだ一週間も経ってない。そういうのはすごくよく知り合ってからでいいよ。俺、彼女作れる程『自分』を固めてないもんな。
     …『自分』、か。今の『俺』が自分ですって言えるようになるまで、何年くらいかかるんだろう。なあ、お調子者の上杉クン?

     まただ、と思った。上杉はほんの一瞬だけど遠い目をすることがある。楽しそうに面白おかしく話をしていても、不意に──一秒にもならないけど──目に暗い色が走る。どういう理由でかは分からないけど、誰と話していても真顔になってる瞬間があって。瞬いた次にはもう話し好きで笑わせてくる上杉に戻るから、僕はどうしてなのかと訊くタイミングを逃してた。
     まあ、カウンセラーでもない僕が聞いても仕方のない問題かもしれないし、深く突っ込める程親しくない。僕ら思春期であれこれ悩みは尽きないから、今はそっとしておこうかなと思う。余計なお世話と言われるのも嫌で(上杉はそんな言い方しないだろうけど)、この件はもっとよく上杉を知ってからにすることにした。僕ら、単なるクラスメートからランクアップしたけど、友達レベル1でしかないもの。うん、レベル上げ、頑張ろう! 男子との関係ってどうレベルを上げていいのか分からないけど…。
     他の男子とはいまだにあまり喋れてない。どこかよそよそしくされるっていうか、話しかけても目をそらされる。どこか挙動不審になる男子もいる。そんなことないのは上杉と、他には南条くんと稲葉くんくらい。女子とは仲良くできそうなのに。割と人間関係を構築するのは得意な方だけど、高校に入ると今まで通りにはいかないのかな。難しいね。
     そんなことを思いながら教室に入り、自分の席に着く。前に座ってるエリーが振り返って独特の笑みを浮かべた。
    「Good morning, Ai」
    「おはよう、エリー。あ、麻希ちゃんもおはよう」
    「おはよう、愛」
    「おはよー。桜澤さぁー、今朝も上杉と一緒だったのー?」
     近くにいた綾瀬も会話に加わる。
    「そうだよ」
    「あいつさぁー、桜澤のこと狙ってるって噂になってるよ。やめときなよ、あんな頭の悪そうな軽い男。マジ、チョベリバー」
    「優香、そういうこと言うもんじゃないよ」
     更に黛も入ってきた。
    「上杉と優香だったらどっこいどっこいだとあたしゃ思うけどね」
    「ひっどーい、黛。アヤセのどこがー?」
    「自覚しな」
     麻希ちゃんと綾瀬は中学が一緒だったから何となく話すようになってた。社交的なエリーと姉御肌の黛は誰とでも話すけど、5人で集まることがほんの少し多い。ああ、でも「一緒にトイレ行こう?」っていうのはしないよ。べったりじゃなく、適当に距離感あるのが心地いい相手。
    「上杉って軽いのかなー? 僕はそうでもないと思うけど…」
     鞄の中身を机に移しながら言うと、綾瀬がヒソヒソ声で、
    「中学んとき、ブラウンって呼ばせてたらしいよ? 茶パツだからブラウン。あったま悪そうなあだ名じゃん!」
    「どこから仕入れてきたんだい、その情報は」
    「アヤセをナンパしてきた軽高の男ー。エルミンに上杉ってやついるだろ、ブラウンって呼んでやると泣いて喜ぶぜーって」
    「…ふうん?」
     他の男子と喋ってる上杉に目を遣ったら、僕が見てるのに気づいて手をグッパーした。笑ってる。
    「でも彼はCall me Brownとは言いませんでしたわね?」
     泣いて喜ぶあだ名なら初日に言っても良さそうだとエリーが指摘した。
    「Cuteなnicknameですけれど…」
    「理由があるのかな。でも上杉はブラウンより上杉って感じがするから僕は上杉で呼ぶけどね」
    「愛的には上杉君は上杉って感じなの?」
    「おかしいかな? そんなチャラっとしたあだ名よりらしいと思うけど」
    「えー、アヤセ全然思わなーい!」
    「あんまり騒ぐんじゃないよ。本人に聞こえるだろ」
     ──なんて会話があった日から半月くらい経った放課後、僕はプリクラを撮りたいという綾瀬につき合ってジョイ通にいた。麻希ちゃんとエリーも一緒に。黛はバイトがあるからって来なかった。ピーダイでポテトとか軽く食べて、それじゃ撮りにいこっかって店を出たら、上杉が向こうの方で他の学校の制服着た男子数人と立ち話していた。…ように見えた。
     でも。
     何か変だった。上杉、後ろ向きだけど腰が引けてる。こっちから見える男子達、すごく意地悪そうにニヤニヤしてる感じで…。
     良くないことが起きてる。カツアゲとか、そんなことが。
     そう思ったら体が動いてた。鞄を麻希ちゃんに押しつけて駆け出してた。
    「上杉!」
     叫ぶと上杉がギョッとして振り向いた。制止するように腕を伸ばしたけど、僕、普通の人よりは足速いから。すぐに上杉達の側に着いた。
    「誰だよ?」
    「あ…、同じクラスの子…」
     上杉の声にいつもの元気がない。男の一人がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
    「すっげー可愛いじゃん。ブラウンのくせにもう彼女作ったんだ?」
    「過去の話は隠してかあ?」
    「話せるわきゃねーだろ! だってアレだぜアレ‼」
    「ギャハハハハ!」
     物言いがすごく不愉快だった。脇の上杉を見上げたら、すごく──ものすごく辛そうな?耐えてるような?そんな表情で。
     ムカムカしてきて、考えるより先に口が動いてた。
    「うるさい、黙れ」
    「あ? 気のつえー女だな」
    「どうせ知らねえんだろ、教えてやるよ。こいつはなあ、」
    「うるさい、黙れと言った!」
     一喝すると上杉がビックリしてるのが分かったし、無礼な奴らも驚いてた。
    「上杉に何があったか知らないけど、上杉は上杉だから! お前らに馬鹿にされるような人じゃないから! これ以上悪く言うようだったら…お前らの股についてるもの、スパイクで踏み潰すぞ」
     思いっ切りにらんで声も精一杯ドスを利かせると、奴らは居心地悪そうな顔で互いを見た。
    「い、行こうぜ…白けちまった」
    「お、おう」
     そう言ってムカつく奴らは去っていったけど…。
    「サンキュな、アイちゃん」
     小さな声で上杉が言ってきて。
    「カッコ悪かったね、俺」
    「そんなことどうでもいい! 行こ!」
     って振り返ったら、丸い目の3人が。上杉は文字通り飛び上がって、
    「わあッ 何でアイちゃんだけじゃなく皆さんいるんスか」
    「プリクラ撮りに来たのお。そしたら桜澤いきなり走り出すしィ。てゆうか、あんたやっぱブラウンって呼ばれてたんだ」
     …中学のときから囁かれてた綾瀬のトラブルメーカーっぷり、健在。上杉は隣で多分顔面蒼白になってる。なのに。
    「──そ、そうっスよ? 自慢の茶パツにちなんでみんなが俺様のことブラウンブラウンって。似合ってるでしょー?」
     それを聞いて、僕は上杉のブツも踏み潰したくなった。
     嘘つき。全然そんな風じゃなかったのに。
     でも。
     ブラウンの由来の真偽とか聞きたいことはあったけど、今言わなきゃいけないことは違うと思った。
    「上杉」
    「ハッハイ!」
    「僕にとっては上杉は上杉だから。それは覚えていて」
    「あ…うん。ありがと」
    「…お二人の間でだけ話が通っているようですけれど…Brownとお呼びしてはダメかしら? Oh, Ai, 怖い顔をなさらないで。どうもHidehikoとは言いにくくて…。わたくしはいいnicknameだと思いましてよ。綺麗に手入れされているbrown hairですもの、由来は存じませんけれど似合っていると思いますわ」
     目だけで上杉を見上げたらあの真顔になってて、でも瞬き一つで僕らが知ってる上杉の顔に戻った。
    「いいっスよ〜エリーちゃん! ついでに褒めてくれてありがとね〜!」
    「でもぉ〜、アヤセ的にはブラウンなんて呼ばないしぃ〜。てゆうか、プリクラ撮らないのがMK5なんですけどー」
    「空気読もうよ、優香…」
    「いや、いやいやいや、プリクラだったら俺様も撮りたいっていうか。一緒していい?」
    「ええ〜、上杉と撮るのぉー?」
    「いいじゃありませんか、Yuka。行きましょう?」
     正直僕はそんな気分じゃなかったけど、行こうぜって肩に掛かった上杉の手が何かを言いたがってるようで、断ることはできなかった。

     …いやー…アイちゃんは怒ると怖いんだな…。背が高くはないアイちゃんがあいつらを威嚇してるところは毛を逆立てた猫みたいだった。つか、スパイクで踏み潰すのか…すごいな。
     しかし、今後をどう立て直そう。こんな学校に近いところであいつらに会うなんて思いもしなかったし、「やっぱり」と綾瀬が言ってたのからして、忌まわしいあだ名は俺の知らないところで既に広まってる可能性がなきにしもあらずで。
     守りから攻めに出るべきだと、エリーちゃんにブラウン呼びしてもいいかって言われたときに思って、咄嗟に方向転換したけど…。できれば誰にも知られたくなかったあだ名。綾瀬辺りが言いふらしてくれそうで、うーん、これはもう腹をくくるしかないのかな!
     けど、アイちゃんは俺は俺だと言ってくれた。
     それがものすごく、嬉しかった。
     そういう風に見てくれる彼女の為にも、俺は強くならなきゃいけない。
     でも、どうやって?
     考えろ、考えろ、考えろ。誰かに見限られるなんてもう嫌なんだ。それがアイちゃんなら尚更。逃げてるだけじゃダメなんだって分かってるなら考えろ。引けちゃってる自分のケツ叩いて前に出ろ。
     でも、言うは易し、行うは難し。失敗するのが怖くて体が動かない。
     こんなやつ、アイちゃんにはふさわしくないのに。
     って考える程には、アイちゃんのポジションは俺にとって特別なものになってた。好きか嫌いかと言われれば迷わず好きと答えるけれど、それが友情なのか男女間のそれなのかは正直分からないでいる。ただ、大切だなと。うろ覚えだけど、Stand by meのあのフレーズみたいな感じ。アイちゃんが側にいると勇気をもらえる。友達としてずっと側にいてほしい。 
     友達として? それだけ?
     きちんと考えておかないと。エルミンに来てアイちゃんと仲良くなってから、どんな人間関係であれ逃げたくはないと思うようになったんだから。
     大丈夫。俺は成長してる。………多分。
     あの後アイちゃんにはコソッとだけど、いつかちゃんと話すねって言った。その日がいつ来るか分からないけど、小声でも宣言してないと俺は一生この問題に向き合えない気がしたから。そしたらアイちゃんは怒ってる顔をやめてくれた。そして、分かった、待つねとだけ言って、いつもの笑顔に戻ってくれた。
     俺、この笑顔に恥じないようにならなきゃいけないんだ。『あのこと』が自分の中で笑い話になる日が来るなんて到底思えないし、その日が来る前にアイちゃんがはっきりしない俺に愛想を尽かして離れていくかもしれないけど。
     …やだな、せっかくできた友達なのに。入学式からそんなに時間は経ってなくても、男じゃなくても、アイちゃんはサイコーの友達なんだ。
     俺様のこと嫌わないでね、アイちゃん。
     そんなこと言ったら、その理由がないって即座に返してくれそうだけど。今は。
     見せかけの『俺』。同じ中学の奴らに見つかっただけでほころびかけてる『俺』。どう繕おうか全力で考えて嘘ついた。『俺』になろうとついた大きな嘘に、これからも小さな嘘を重ねてくんだろうな。でなきゃ素の自分を保てない。アイちゃんにだけホントのことを打ち明けるなんて器用な真似、まだできそうにないし。嘘もつき通せば本当になるって言うけどさ。俺が俺を保つ為に、自分を守る為についた嘘もそうなんだろうか。演じ続ければ俺が『俺』になれるなら、つき続ける意味はあるのかもしれなくて。
     さあどうする、上杉秀彦。虚構を現実にする覚悟はあるのか? 俺が『俺』になれる日まで嘘をつき通す覚悟はあるのか?
     やってやるぜ。
     俺は、新しい『自分』を生きるんだ。

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    もえ(BPB)

    DONEブ主で前に上げたものの再掲ですが。
    拙宅受けピアスは基本的に輪王寺咲也で統一してますが、書いたものによって微妙に世界線がズレてますね。今回はあんまり自分から仕掛けていかないピアスのようです。
    二人の休みと満月と ザーン…ザザーン…
     パチパチパチ…
     潮騒と薪のはぜる音が響く静かな海岸。暗い雲間から覗く仄かな月明かりと焚き火が咲也と秀彦を照らしていた。
    「みんな寝ちゃったっスね−」
     長い枝で薪をつつく秀彦がのんびりと言う。咲也はステンレス製のマグカップを両手で包みながら答えた。
    「そりゃもう夜中だしな」
     日のある内はぽつりぽつりといたキャンパーは、今はもうテントの中だ。日暮れ近くなって海岸にやってきた二人をさして気にするでもなく、それぞれバーベキューにいそしんでいたが、朧な満月が天頂に差しかかる頃には寝るか引き上げるかのどちらかだった。
     今日は秀彦のたまの休みで。前々から満月の日に浜辺で焚き火をしたいと言っていたのだが、奇跡的に咲也の休日とも重なって、このチャンスを逃すまじと出かけてきた。何しろ二人とも忙しい。秀彦は中堅のタレントとして活躍中、咲也は心理学の准教授をしているがやりたいことが多すぎて大学から戻らない日が多々あった。一緒に暮らしているのに互いの顔を見ない日が続くこともままあって、だから何というかこの時間は天からの贈り物のようだった。
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