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    miya_ko_329

    @miya_ko_329
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    miya_ko_329

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    ST前後のどこか。キスク家の椅子のはなし。

    GG/シン誕生日2022 シンが生まれて数ヶ月を過ごし、数年の留守の後再び帰る家となったここには、昔から椅子がある。いくつかのフォトスタンドや小物が並べられたマントルピースの前、冬になれば薪を焚べて炎の明るさと温かさを楽しむ、そういう場所に置かれていた。大人用のものが二脚、それから小さな、子どもの大きさに合わせたものがひとつ。
    「こんなにちっちゃかったかな」
     そこには今、少しだけくたびれたぬいぐるみが鎮座している。幼かったシンが両手でようやく抱えられるくらいの大きさで、毎晩一緒に眠っていたそれは、今はもう家族の生活を眺めるだけの役目に徹している。
    「そうよ。シンがこれにぴったり座っていた頃もあったんだから」
    母親にそう言われ、そうだったかな、と記憶をたどるが、あまりよく覚えていないのが正直なところだった。丁寧に磨かれた木材と、美しい刺繍が施されたクッションを組み合わされたそれは、大人用の椅子とそろいになるよう誂えられたもので、その二脚の大人用の椅子も色違いで同じデザインのものだった。まるで対のように。
    「お父さんがね、贈ってくれたものなの」
    少しだけはにかむような、まるで年頃の少女のような表情で母――ディズィーは笑う。
    「たくさんお話ができるように。お互いに、ゆっくり相手のことを聞いて、自分のことを伝えられるようにって」
    たぶん、シンが生まれる前のことだ。物心ついた頃にはもう、この椅子たちはシンの生活の中に確かな位置を占めていた。
    「それを聞いて、自分と、他の誰かの椅子があるってとても素敵なことだって思ったの。そこに自分の居場所があって、私の話を聴いてくれるひとがいるということだから」
    「……母さんにとって、それが父さんだったの?」
    「そう、そうね……。どこにも行けないと思っていた私に、そうではない世界があるということを教えてくれたのは、あなたのお父さんだった。私をひとりのひととして見て、歩み寄ってくれたのも」
     ディズィーはシンと向き合い、その眼を――父譲りの色のそれを見つめた。
    「もうこんなに大きくなってしまったのね。見上げないと目も合わせられないもの」
    「そりゃ今の俺の方が父さんよりデカいからな」
     その返事にディズィーは笑った。そのわずかな差が、現状でシンが父親に勝る数少ないものだった。だからといってそれに意味があるわけではなく、未だにシンは彼より前に行くことはできない。幼かったシンが見ていた父の背中は、もちろんその頃の自分よりずっと大きかったが、何故だか今見ている父の後ろ姿の方が大きく見えることがある。少なくとも身長はもうシンの方が大きくなったのに。
     小さな椅子の背もたれにディズィーは手を滑らせる。人の手によく馴染むそれを撫でて、ぽつりと落とされるつぶやき。
    「あの頃の小さなシンは、どこに行ってしまったのか不思議に思うことがあるの」
    「ここにいるだろ?」
     それこそ、シンにとっては不思議だった。この家で母の後を追いかけていた自分と、今ここにいる自分は何も分かれてはいないし、同じものなのに。
    「ね。わかってはいるのよ、あの子はあなただって。でもね、この椅子に座って『ママ、おはなしよんで』って絵本を渡してくれたあの子は、もうどこにもいないのよね」
     そういうものだろうか。シンにとっては結局自分であることに変わりはないが、母にとってはまた少し違うものなのかもしれない。
    「でも、あの頃のシンも、今のシンも、そしてこれからのあなたも、とても大切な私の宝物。それだけは変わらないの。何があっても絶対に」
     柔らかな口調なのに、決して揺るがない意志を感じさせる声だった。
    母さんは優しいけれど、それと同じくらい強いひとだから、と言っていたのは父だった。そのどこか誇らしげな声を思い出しながら、シンはその言葉の正しさを悟った。
    「シン」
    「何?」
     もうその両腕に収まりきらない程になってしまったシンを、ディズィーはぎゅっと抱きしめる。
    「ありがとう、シン。こうして元気でいてくれて。シンがたくさんの人と出会って、たくさんの出来事を乗り越えて、楽しそうに毎日を過ごしているのを見ることができて本当に嬉しい」
     幼かったシンが両手を伸ばせば、母はその両腕で守るように抱き上げてくれた。年を経て、それはもうできなくなってしまっても、シンを包むその温かさは何も変わっていなかった。
     手を解き、ディズィーはシンの顔をまっすぐに見つめて笑う。
    「お誕生日おめでとう、シン。……お父さんと私の家族になってくれて、ありがとう」
     その言葉を、言葉どおりの意味として受け取れることを嬉しいと思った。たぶん少し前の自分には、それは届かなかったから。
    「ありがとう。俺も、父さんと母さんに、みんなに会えてよかった」
     いつの間にか、この家に集まる家族は増えていた。子犬を抱えたラムレザルに、エルフェルトが笑いかける。ソル、あるいはフレデリック、シンが一番長い時を共に過ごしたひとも。
     「オヤジはオヤジってかじいちゃんだったの?」と何の気もなく言ったとき、当の本人はひどく複雑そうな表情をしていて、その様子を見ながらジャック・オーは笑っていた。彼女は自分を見て「あなた父親そっくりの顔をしているのに、フレデリックにも似ているところがあるのね」と実に興味深そうな表情をしていたが、次いで「アリアもきっと嬉しいと思うわ」と向けられたものは、それよりもっとずっとやわらかかった。
     いろんな道を歩いて、たくさんのものに触れてきたから、きっとここに帰ってくることができた。それがわかったから、今は十分だった。
     この家の椅子の数は増え、シンもまた新しいそれを持っている。それでも、いつかの自分のために用意された椅子が今もあることが少しだけ照れ臭くて、どこかくすぐったいような気持ちで、それでも決して嫌なものではなかった。
    「この椅子も、もうシンは座ることはできないけれど、まだここに置いておこうかなって」
    「いいんじゃない。こいつもいるし」
     そしてシンはいくつもの夜を一緒に乗り越えた友達を両手で抱き上げた(それはもうシンの片手で十分に持ち上げられるものだったが)。そして空席になった小さな椅子を見ながらシンは笑う。
    「いつか、また誰かがここに座るかもしれないし」
     一瞬、少し驚いたようにディズィーは目を瞬かせたが、
    「……そうね、そうかもしれない」
     小さな椅子の背もたれに触れて、目を伏せる。微笑んでいるようにも、あるいは泣き出しそうにも見えたのはシンの気のせいだったのかもしれないが。
    「そんないつかがあっても素敵ね」
     そう言って、シンに見せる表情は、まるで晴れた朝を思わせる明るいものだった。
     未来のことなんて誰にもわからない。それでも、望む場所へ、足掻いてもがいて手を伸ばしたから、その先に行くことができた。それを証明してみせたひとたちを、誰よりも近くで見てきたから、シンはそれを信じている。
     過去よりも、今よりも、未来はきっと善いものだ。
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    miya_ko_329

    CAN’T MAKE2ED後。いろんなひとのはなしを経て約束の場所にたどり着く2主が書きたかった。
    幻水/2主人公 僕らはいつも背中合わせの関係だった。
     小さい頃からずっとそばにいたから見るもの聞くものは同じものだった。けれど彼は僕みたいに前ばかり見ていないで、後ろのことも時々振り返って見ているような子だったので、「ヤマト、ほら落としてたよ」とポケットか何かに入れておいた僕の大事なものを拾い上げてくれるのなんてしょっちゅうだった。ナナミも「あー! またヤマト落し物して!」なんて言っていたけれど、自分だって彼に落し物を拾ってもらったことは一度や二度ではないはずだ。
     ともかく、僕と一緒に歩いていたはずの幼馴染は、前しか見えていない僕が見落としていたものもきっと多く知っていたはずなのだ。


     ハイランド皇都ルルノイエ陥落から数日が過ぎ、デュナン城の人の出入りは一層激しくなる。傭兵としての契約を終え出立する者、戦争終結に伴う事務処理のため招聘された文官、物資を搬出入する業者……コボルトやウイングボートも含むありとあらゆる人間がこの古城を旅立ち、あるいはたどり着く。とにかく人の往来が激しいので、そのどさくさに紛れてしまえば出るのはそれほど難しいことではなかった。城内の中枢はさすがに警備が厳しいが、商店が軒を連ねるエリアはほぼ誰でも出入りが可能だ。
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    miya_ko_329

    CAN’T MAKE書きたいところだけ(ガエリオとヤマジンの辺り)。CPメインじゃないはなしだったが、結局ガエジュリになったった。
    鉄血/ガエリオとジュリエッタ 永遠ではなく、けれど不変の。

     寒さは嫌いではない。互いの身を寄せ合うための格好の口実になるから。
     別に訳もなく引っ付いても許されるだろうけれど。

     温かさを保証する柔らかな寝具に包まれながら窓の外を見遣る。ほとんど白に近いような薄い青の空と、鈍い色の常緑樹や裸木の木立に目を遣る。温暖な海域を漂うことが多いヴィーンゴールヴにある自宅から見える景色と、色も空気も何もかもが違う。すべての景色の彩度は低く、太陽光は薄い雲の向こうから射していてどこか遠く感じる。慣れ親しんだ潮の匂いを多く含んだ大気はここにはなく、湿った土や木々を感じさせるものが取り巻いている。馴染みのないはずのそれらは、けれど決して不快ではなかった。たとえ自立が叶わない身ではあっても、大地に足を下ろしているのだと実感するからだろうか。宇宙空間とは明らかに違う圧倒的な安定感。それでいて絶えず変化する景色。薄い雲が流れて太陽がさっきよりもやや強い光を地上に落とす。一瞬たりとも同じ風景は無い。移ろう時間を感じられるのは大地の上で生きているからこそだ。あれほどに長く星の海に身を置いていても、結局自分が帰る場所はこの惑星の大地だった。
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