「痛っ」
小さく漏らした声を聞いて、湯船の中でトウマが顔を上げる。足を開いてみたら、太ももの内側、膝に近いあたりにくっきり歯形がついていた。赤黒い内出血が点々とゆるやかな弧を描いている。犬歯が当たる部分の皮膚が傷ついて、鮮やかな赤が見えている。ソープの泡が流れて、その傷を刺激したらしい。
「うわ、ごめん……」
トウマは顔色を悪くして、手を伸ばして傷を撫でた。さっきそこへ牙を突き立てたときには、巳波の顔を見もしないで、唸りながら息を荒げていたくせに。
「加減間違った……、脱ぐ撮影とかないよな?」
「ええ、当面は」
「えぐいことになってる……、マジごめん……」
人が変わったみたいだ。耳としっぽがしゅんと垂れた、従順な犬。泡を全部流して、湯の中に足を入れる。湯の温度が傷にしみてちょっと痛い。向かい合わせに座ったら、トウマは情けない顔で巳波を見つめてきた。
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