戯れ「悪いジジイじゃのう」
「悪い?」
アズマの言ってる意味がわからないのだろう、紫西は首をこてっと右に傾けた。あざとい。本人はあざといつもりなど毛頭ないのだろうが。
「若いもんを誑かして悪いジジイじゃ」
「誑かしたことなんてないよ」
祠でいつも通りうたた寝をしていた紫西に声をかけたのはアズマだった。アズマは夕餉の食材を探していたがちょうど休憩場所として紫西の祠に立ち寄ったのだ。
「北斗も紗南もお前さんに熱を上げてる」
アズマは煙管をふかした。煙を口から吐き出す。
「あんまり若いもんの道を踏み外させたら可哀想じゃ」
「よくわからないけれど、私のことを好きになったらよくないのかな?」
紫西は自分の唇をアズマの頬に寄せて口付けた。予想外の紫西の行動にアズマは目を瞠った。
「だったらアズマが私の面倒を見てくれないかい?」
紫西はふわりと微笑んだ。おっとりとした態度はとてもかつて邪神などと恐れられたものとは思えない。
「アズマが一番、私と歳が近いから」
「……お前さんと比べればワシもまだまだ若輩者のつもりなんじゃが」
紫西がアズマの持っていた煙管を奪う。それからアズマの肩に腕を回し、もたれかかった。
「甘えてもいいかい?」
「しょうがない奴じゃ」
アズマは一つため息をつくと紫西の背中に手を回す。それに気を良くしたのか紫西は機嫌良く微笑んだ。
「言っとくがワシは若いもんたちと違ってお前に甘くないぞ」
「あら、アズマだって親切にしてくれるじゃないか」
紫西が目を細めて舌先をちろりと出した。それにアズマが自身の舌で絡めとる。
「蛇の獣つきなだけあって舌が長いな」
お互いに貪りあっていたが、息継ぎのタイミングでアズマがそう言葉を溢す。
「気に入ってもらえたかな?」
紫西の生白い肌がほんのりと朱に染まる。
「そうじゃな、興が乗ってきた」
アズマはぎらりと瞳を光らせて紫西を見下ろすと、その犬歯を色づき始めた紫西の肌に突き立てた。