【ニキマヨ】ランタンと星空の話 よく晴れた少し肌寒い夜だった。
「……マヨちゃん、今日この後って空いてるっすか?」
夕飯を食べながら、ニキがマヨイにそう耳打ちをした。
お泊まりレジャー隊全員で談笑している中での耳打ちは、飛沫の共有のようで特別感がある。
特に予定もないため、マヨイは深く考えずにはいと答えたが、いつもより緊張してみえるニキの様子を少しだけ不思議に思った。
「……どうか……されましたか?」
「別に大したことじゃないっす!
この建物、天体観測ができる部屋があるって書いてあったんで、一緒に見に行けたらいいなって思っただけで」
「わかりました。
楽しみですねぇ」
この場にいる全員ではなく、『一緒に』なんだ。
それがまた特別の共有のようで、胸の隅が少しくすぐったくなる。
こうして全員で和やかな時間を過ごすのも好きだったが、ニキと二人きりだと気心が知れているからリラックスした時間を過ごすことができる。
それを知っているからこそ、マヨイは純粋にこの後の時間についつ楽しみに思った。
お泊まりレジャー隊で本日泊まりに来たのは、山の上にあるコテージだった。
この場所は街の明かりから遠く、星がよく見えると有名で、このコテージにも星空観測のための部屋があった。
一番上の階、星空に一番近い部屋。
屋根の一部がガラスになっていて、室内からでも星がよく見えた。
部屋に常設された光はなく、光源のために用意されていたのはランタンが一つだった。
LEDの照明ではあったが、蝋燭のように光がゆらゆらと揺れ、照らす手元は橙で温かく、幻想的だ。
部屋の中央にひかれた毛足の長い緑色のラグの上に二人で座る。
見上げればすでに降り注ぐような星空が見えたが、その前に少々準備がいった。
お風呂に入った後、部屋着を兼ねたユニットジャージを着ているのは良かったが、靴下も履かずにきたので少し冷えた。
「マヨちゃん、毛布一つだけあったっすよ」
部屋の隅にあった備え付けの毛布を引っ張ってくるとお互いの肩にかける。
そうすると毛布の暖かさと接近した温もりで一気に心地良くなった。
「ありがとうございます。
……なんだから楽しいですねぇ」
「そうっすね♪」
覆われた空間は二人だけの世界のようで、なんだか特別で旅行の醍醐味を噛み締めるには十分だった。
「では、明かりを消しますねぇ」
ランタンのスイッチを消すと部屋の中は急に暗くなり、星の光と月の明かりがより綺麗に見えた。
幾億の光が長い長い時間をかけて、ココに届いて、それをいま一緒に見ている。
名前もしらないような、
普段の生活では見えないような、そんな小さな星の一粒も逃さず見える。
星座や天体に詳しいわけではなかったが、その一つ一つが綺麗なことはよくわかった。
この夜の光だけの青く澄んだ部屋で、隣でたった一人の体温だけを感じている。
この広い宇宙の中でこうして出会えて同じ時を共有できた。
それが本当に特別で。
言葉を無くすには十分だった。
「綺麗、ですねぇ……」
こんなふうに星空にため息をつく日が来るなんて、屋根裏にいた頃には信じられなかった。
そして、この気持ちを共有できる相手ができるなんてことも。
マヨイはいまニキがどんな気持ちでいるのか知りたくて表情を窺い見た。
(……あれ……?)
空を見上げていると思っていたニキと目があった。
じっと穴でもあくのではないかという真摯さでマヨイが不思議に思う頃には目を逸らされた。
「……あの、何か……?」
「な、なんでもないっすよ!」
なんでもないという表情ではなかった。
「……何かお話が?」
もしかしたら、光を消すには早すぎたのか。
マヨイがもう一度ランタンに光を灯すと二人の間を中心に、あたたかない光が満ちる。
「は、話じゃないんすけど……」
ニキにしては歯切れが悪い。
続きを促すようにマヨイがじっと見つめていると、ニキの余裕がどんどんなくなっていく。
「あぁー、もうッ!どうにでもなれ!!
しっかりするっすよ!ここで言うって決めたんじゃないっすか!」
突然、ニキは焦ったようにそう言うとマヨイに向き直った。
「マヨちゃん、驚かないで聞いてほしいっす。
実は……」
この日、寝る時もお互いに同じ部屋だったのだが、どうやって部屋まで戻ったのか分からず、この日、この場所、この星空、毛布の中のことは生涯忘れることができない思い出になった。
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「シーツをかぶってるところが秘密の共有みたいで素敵だな」
「その内側が宇宙みたいで、色が好き☺️」
「マヨイの方は落ち着いた表情で、ニキの方が少し緊張している表情をしている、なんでだろ?」
「中央のランタンの光があたたかくて、綺麗。そんなイメージの暖かい綺麗なお話が書きたいな」
この辺りが発想の中心です☺️
素敵なイラストにお話をつけさせていただき、ありがとうございました!