クイズ大会っ!「んぁ……?は?」
目が覚めて、そこに広がる光景にオレの脳は理解が追いつかなかった。なんだここ。
「お?やっと起きた?」
最初に声を掛けて来たのは三ツ谷。
三ツ谷はオレンジ色のスパンコールがギラギラと光るヘンテコなスーツを着ていて、右手にはマイクを持っていた。
「起きた……って、いや何これ」
「何って、クイズ大会じゃん?」
「クイズ大会???」
ただのクイズ大会というよりは日曜日の午後にやってる某クイズ番組みたいなセットだった。
用意された赤、緑、白、青色の4つ席のうちの一つに俺は何故か座っていた。俺は白色の席。
「じゃあ蘭も起きたことだし、始めっか!」
いやいやいや。なんの説明も無しにクイズ大会ってどういうことだよ。俺だけ置いてけぼりなんだけど??
今の状況が全く理解できない。マジでなんなんだこれ。
なんでどいつもこいつも平然とした顔なんだ。
俺が可笑しいのか?
まるで、熱が出た時の奇妙な夢を見ているようだ。
「ルール説明をします!まず、4色の解答席に座った
四人の解答者が早押しクイズで争います!正解すると25枚のパネルのうち1枚を選び、自分の色に変えます。「オセロゲーム」の要領で他の色をはさんで色を変えます!」
いやそのルール設定完全にア○ック25じゃん。もろパクリじゃん。さすがにダメでしょ。
「それでは早速行ってみよー!第1問!」
「ハァ……」
デデンッ!と陽気な効果音と共に液晶に問題が映し出さられる。そして三ツ谷がその問題を読み上げる。
「YSLとはなんの略でしょう?」
は?何この問題。楽勝過ぎるだろ。つーかナメすぎだろ。周りはなんで考え込むポーズしたり首傾げてんだ?
なんかこのヘンテコなクイズ大会に参加するのは癪だけど、誰も答えねーし、答えなきゃ終わらなそーだし、仕方ない。
俺は手元にあったボタンを押した。
するとポーンと音がなり、俺の席が点滅する。
「はい、灰谷蘭さん答えをどーぞっ」
「何その呼び方」
「いいから早く答えろって」
「イヴ・サンローラン」
俺が答えるとピンポーン!と軽快な音が鳴り周りが拍手をする。
「チッ……正解」
「司会者が舌打ちすんなよ」
三ツ谷は俺が正解したことにとても不満そうだった。
「灰谷オマエすげーな!」
赤色の席に座っていたマイキーが身を乗り出し目をキラキラと輝かせていた。オマエもなんでこんなふざけたモンに参加してんだよ……
他にも青色の席には柴八戒、緑の席には花垣武道が座っていた。
……はぁ、もうなんでもいいや。全問正解してとっとと終わらせようこんなくだらねーこと。
パネルの真ん中、13という数字が書かれたパネルが白色に染まる。
「ッ、気を取り直して第2問!」
デデン!と再び効果音が流れる。
「シャネルのデザイナーの名前は……」
イヤだから簡単過ぎだろ。俺は即座にボタンを押した。
「ココ・○ャネル」
すると先程の正解音とは違うなんとも残念な効果音が流れた。
「ブブー!違います!はい残念っ」
「は?合ってんだろ」
「問題を最後までよく聞きましょー。間違えたから次の問題まで立っといて」
三ツ谷はそう言って問題の続きを読み始める。
俺は渋々席の横に立った。なんで俺がこんなこと。
「シャ○ルのデザイナーの名前はココ・○ャネルなのは有名ですが、黒龍に所属しているココの本名は何でしょうか!フルネームでお答えくださいっ!」
ひっかけかよっ‼クソッ‼︎
青色の席が光り、柴八戒が答える。
「九ノ井一!」
それと同時に正解音が鳴り響き、拍手が起こる。
「正解です!お好きなパネルをどーぞ!」
「それじゃー第三問っデデンッ」
♢
クイズは順調に進んでいき、当たり前だがパネルの獲得数は俺が一番多いという結果になった。
「パネルの獲得数が一番多かった灰谷蘭さんには旅行をかけて最後のクイズに挑戦していただきます!」
別に旅行とかいつでも行けるし要らねーけど……
「トップ賞旅行はこちら!沖縄リゾートのペアチケットで〜す!」
沖縄とか行き過ぎて飽きてんだけどなあ。
「それじゃー蘭が取ったパネルの部分だけ消えてそこに何枚かヒント画像が流れるからよく見とけよ〜」
三ツ谷がそういうとオレが取ったパネルの部分から画像が見えた。
ンン?なんかどれも見覚えがあるような…
流れてくる画像にはなぜかどれも既視感があった。
あのチャペルとか特に……あの指輪も……あ……
「……それでは答えをどうぞ?」
三ツ谷は満面の笑顔をこちらに向ける。
さっきとは違った、含みを持った笑顔。
背中がゾッとした。
「……○○ホテル」
それは予約が困難な高級5つ星ホテルの名前。
「ちなみに、蘭は忘れてるかもしんねぇけど、オマエは今から丁度二年前にこのホテルの予約を取ってる」
まさか。
「お、その表情はやっと思い出した感じか?」
まさか、まさかまさか。
いや、そんな……でも……
ゴクリ。
オレは息を呑んだ。
「今日がなんの日か、もう答えられるよな?」
三ツ谷の冷たい視線が全身に突き刺さる。
はくはくと浅く呼吸しかできない。
今日、今日は………
「オレと三ツ谷が……付き合った日……」
そう。今日は記念日。3年目の。
思い出した、全て。
オレは今日、三ツ谷にプロポーズを計画していた。
2年前に三ツ谷に言ったんだ。「2年後だけど、あのホテルの予約取れたぜ、だから楽しみにしとけよ」って。
すっかり忘れてた。
さっきパネルに映っていた指輪も俺が用意していたもの。
「ご、ゴメンナサイ……」
三ツ谷はオレの目の前に立つと、胸ぐらを掴み、こう言った。
「沖縄旅行、行くよな?」
三ツ谷のその目が全て語っていた。この埋め合わせ、してくれるよな?と。
俺はゆっくりと頷いた。
♢
「三ツ谷、本当に容赦ねぇのな。兄ちゃんがあんなビビり散らかしてんの初めて見た」
「まぁー、アイツの事だからどうせ忘れてんだろうなぁとは思ってたけど、たまにはあーいうお灸の据え方も良いかなって」