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    ドミキタ

    @11_13_26

    御倉、ユテ、ジェヨン

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    ドミキタ

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    2022/10/15-16
    きみはくらやみのひかりSecret WEB Only
    企画展示 お題:アイドルパロ

    #御倉
    cancelling

    on the 32nd beat⚠︎プロ御幸×アイドル倉持 パロディ


    自身を鼓舞するメロディがスタジアム全体に響き渡る。スッと息を吸い、“推し”のキリングパートに合わせて相手ピッチャーと対峙するために打席に立つ。
    初球、楽にスイングした打球はジャストミートしそのまま逆方向、レフトスタンドに吸い込まれて行った。誰かがホームランボールをキャッチしたらしく、喜んでいる様子がバックスクリーンに映る。
    ああ、俺も、倉持が放ったサインボールキャッチしてみてぇな。
    仕事柄、身分柄ライブなんて気軽に行けるわけがなく、そんな経験は一生することは無いだろう、とダイヤモンドを回りながら気落ちする。
    あー、“現場”ってのに行ってみてー!
    平日のど真ん中にもかかわらず、球場に足を運んでくれているファンを羨ましく思い、妬み、ベンチでハイタッチ待ちのチームメイトの手を、普段より少し力を入れて応えた。



    『とにかく、来季の登場曲提出してないのあと御幸さんだけなので、今週中には決めてくださいね!』
    念を押すように言うだけいって一方的に電話を切られる。
    登場曲なんて球団側が勝手に決めてくれればいいのに。音楽に全く興味のない自分にとって登場曲は、ただ何か流れてる程度にしか思っておらず、歌手とタイトルのわかる曲をとりあえず出すことでこれまでは乗り切ってきた。しかし、それももうネタ切れというか自分の中の引き出しの中身も全て出し切ってしまったのではどうしようも無い。誰かに決めてもらってもいいのだが、それでは登場曲への思い入れを聞かれた時に困るのはプロ二年目で既に経験済みである。
    どうしたものか、とソファに深く腰をかけ、とりあえずテレビの電源をつけた。するとちょうど番組が切り替わり、音楽番組が始まった。
    お笑い芸人と女子アナによって今をときめくというゲスト4組が紹介されるが、どのグループも見聞きしたことなく、如何に自分が世間に疎いのかということを痛感する。この番組に出演したグループの曲をいくつか聴いて、登場曲に似合いそうなものを選べば担当の球団職員も満足するだろう。とにかく、この30分は真剣にテレビを観てみよう、そう思って画面に向き直った。

    ♪〜〜♪〜〜
    アラームが鳴り傍らに置いていたスマホを手に取り、停止ボタンをタップしようと画面を見て驚愕する。
    「えっ、6時!?もう朝?」
    バッと窓の方を見れば、カーテンの隙間から朝日が漏れているでは無いか。パソコンの画面を一時停止にし、顔を洗って朝のランニングのために玄関ドアを開ける。
    「うわっ」
    生まれてこの方、オールなんてものとは縁のない生活を送ってきたために、朝日が眩しくて目が開けていられないなど、初めて経験した。“彼”を観たくてミュージックビデオとライブ映像、更にはコンテンツ動画や配信動画の切り抜きなど、ありとあらゆるものを夜通し観続けてしまった。
    23:00に番組が始まり、番組が終わった23:30ごろからパソコンで動画投稿サイトを漁り始める。そのまま6:00までおよそ6時間半ぶっ通しで、彼の姿を追っていた自分が信じられないくらい気持ち悪い。しかし、野球以外にほとんど興味のない自分が、こんなにも夢中になるほど彼、もとい倉持洋一という男には魅力があるのだ。

    高いダンススキルとエネルギッシュなパフォーマンス、優れたビジュアルでファンを魅了する9人組ボーイズグループLPB(Let's Play Ball)のメンバーでメインラッパー兼メインダンサーを担当するのが倉持である。パフォーマンス中の倉持はカッコイイの一言に尽きるが、ひとたびステージを降りればあまりにも可愛くてパフォーマンスとのギャップでさらに好きになる、そんな存在で多くのファンを魅了するのだろう。
    音楽番組では最初メンバーとMCのトークがあり、その後パフォーマンスという流れだったのだが、トーク中は終始楽しそうに独特の笑い方で場を盛り上げており、何となく視聴していたがいつの間にか気になる・惹かれる存在になっていた。そして新曲とデビュー曲の2曲を披露するステージで倉持に注目して観て、先ほどのトークとは違って圧倒的カリスマ性のあるパフォーマンスをする彼にあっさりと堕ちていった。
    普段は少し高めでハスキーな声だが、曲中のラップパートでは尖った低音で矢継ぎ早に言葉を連ね、ダンスパートではキレとスピードを感じるスキルで他のメンバーより頭1つ2つ抜けているように感じた。またブレイクダンスのような振り付けがソロであり、身体能力の高さにも目を見張るものがあった。音楽もダンスも詳しいことは何も知らない自分でも倉持の持つものが如何に優れているのかがよく分かる。
    つい魅入ってしまうパフォーマンスと人柄、その両方に心惹かれ、色んな彼の姿を観たくて動画投稿サイトに入り浸ってしまった。後でCDショップのオンラインサイトで在庫のあるものは注文しようと決め、朝のトレーニングを済ませて帰宅した。





    番組の収録を終え帰宅しシャワーを浴びて、ケータリングを持ち帰った晩御飯のお供にテレビを付ける。何か面白い番組が無いかチャンネルを回していると野球中継を放送しているチャンネルがあった。どこの試合かと注目すると、野球をやっていた頃に憧れた選手が監督を務める球団と現在首位を走っている福岡の球団との試合だった。今シーズン開幕以来、1度も中継を観る時間が無かったことに気づき、明日はオフだし久しぶりに野球を観ながらお酒でも飲もうかと立ち上がったその時だった。

    ♪〜〜♪〜〜
    聴き覚えしかない曲が流れ、再びテレビに視線を戻す。どうやら自分たちのデビュー曲を登場曲に使用している選手が居るようで、一体誰だろうかと中途半端に立ち上がったままテレビを凝視する。
    『六番、キャッチャー、御幸一也!!』
    御幸って確か同い年の高卒入団で、一年目から一軍でキャリアを積んで二年目からスタメン定着したスゲーやつだったよな?野球にしか興味が無いと何かで読んだ記憶があるが、そんな奴が俺らの曲を使ってることに驚きが隠せない。きっと誰かに決めてもらったか、教えてもらったかだろうが、そんなすげー選手の登場曲に使って貰えるのは至極光栄なことだと感じ、次の打席も俺らの曲なら動画に撮ってストーリーにあげようと、打球が右中間に抜けたのを見届けて冷蔵庫へ向かった。





    「えっ」
    普段滅多に使わない写真投稿SNSのメッセージに何か受信した通知があり、何だろうと見に行くと、あの倉持からストーリーにメンションされた旨の通知が来ていた。そのストーリーを見ると、俺の打席の登場曲が流れる一部始終を撮影した動画と共に、「LPBの曲だ!御幸選手ありがとうございます!」とコメントが添えられていた。
    直ぐにメッセージで「こちらこそ気づいて下さりありがとうございます。いつも応援してます。もし倉持さんのご都合がいい日があれば幾らでも試合のチケットお送りしますので、遠慮なく言ってくださいね。球場でお待ちしております」と送った。
    送ってからすぐ、文面を読み直して素っ気なすぎたかと後悔する。でもまあ、お互い面識無いわけだしいいか、とバッグにしまって家路に着く。

    『応援ありがとうございます!えっ、いいんですか??メンバーとマネージャーさんにも確認して、改めてご連絡しますね!』
    『メンバー全員だとちょっと調整難しいんですけど、僕1人だけなら次のホームゲームの3連戦最終日の木曜日が直近で都合つきますが、どうでしょうか??』

    「倉持さん!お待たせしました!」
    「あ、御幸さん!お疲れ様です!ナイスホームランでした!」
    「ありがとうございます。倉持さん招待した手前、恥ずかしいプレーは出来ねえって気合い入っちゃいました」
    直ぐの日取りで招待することが決まり、その試合が終わったあと、そのまま飯に行くことになっており、よく行く半個室の串焼きの美味い居酒屋へとタクシーで向かった。
    「チケットありがとうございました。久しぶりにプロ野球生で観戦できてほんと嬉しかったです」
    「いえいえ、こちらこそツアー前でお忙しいのにありがとうございます」
    お待たせ致しました、とビールが運ばれてコツンとジョッキを鳴らし口をつける。
    「御幸さんて、いつから僕らのことご存知なんですか?」
    「今年になってからですよ。深夜帯の音楽番組に出演されてるのを観て知りました。それ以来一気にハマりました」
    ひと口喉を潤して、料理が運ばれてくるのを待つ間、登場曲にした経緯を話していく。
    「倉持さんはなんで俺が登場曲にLPBさんの曲使ってるって知ったんですか?事務所から何かそういった伝達あるんですか?」
    「いやホントたまたまです!テレビ付けたら中継やってて流れてきて〜みたいな」
    「そういえば野球やられてたんですよね?どこ守ってたんですか?」
    いつか雑誌で読んだ内容だがこれ以外に話題が出てこないのは、普段から必要以上に他人とコミュニケーションを取らないせいかと反省しつつ、なんとか場を繋げようと問いかけた。
    「ショート一筋でリードオフマンの座もずっと守ってましたね。俺足が1番の武器だったんで」
    「へー、俺と競ったらどっちが速いですかね?」
    「いやいや、さすがにプロ野球選手には負けますって」
    「でもアイドルだってアスリート並みの体力と身体能力じゃないですか」
    「そうかもしれないですけど、全力疾走なんて滅多にしないですよ。まあでも盗塁阻止率ナンバーワンの御幸選手から塁盗めたらサイコーに気持ちいいでしょうね」
    「そうはさせないっすよ」
    あーあ、対戦できる場があればいいのに、なんてボヤきながら串焼きに齧り付く。
    「ねえ、御幸さん」
    目線だけ持ち上げて倉持の方を見ると、ビールジョッキ半分程で既に顔がうっすら赤くなっていた。
    「俺たち同い年ですし、敬語やめません?俺のことも倉持って呼び捨てで」
    ほろ酔いの倉持が可愛くて、内容を理解し切る前に頷いていた。
    「ひゃはっ、この歳になっておともだち〜ってなんかむず痒い」
    「確かに」
    必死に平静を装って相槌をうつが、口角が上がるのまでは抑えられず、頬杖をつく振りをして口元を隠す。
    「ねえねえ、おともだちの御幸くん」
    「なんだね倉持くん」
    「このあとバッセン行って目の前で打ってるところが見たいなぁ」
    「今日球場で見たんじゃないの?」
    「もっと間近で見てぇの」
    「軟球は潰れるから飛ばねえと思うぞ」
    「いいのいいの。野次飛ばすから」
    「なんだよそれー」
    「俺も打つからぁ、おねがぁい」
    ファンが喜ぶような愛嬌を、俺ただ一人に向けてやってくれるだなんて、オンラインサイン会なら隠し撮りで録画できたのに!という見当違いの感情を押し殺して、渋々といった態度を前面に出して承諾する。
    「やったー!軟球なら俺の方が打てたりしてー」
    「うるせー、言っとけ。ほら、早く飲んで。俺この辺片すから」
    「もう飲めないからやるー」
    「はぁ?」
    はい、とジョッキごと渡され、目で飲んでと訴えられる。可愛すぎかよ、と叫びたいのをビールで押し戻し、卓上に残っていたツマミも全て平らげ、店員に会計をお願いする。
    「おごりー?ゴチー!その間にトイレ行ってくんねー」
    「おー」
    半個室の卓から倉持が出ていくのを見送って、一人になった瞬間、机にデコを付けるように突っ伏する。
    倉持って酒弱いの?酔うとあんなんなるの?てかジョッキの四分の三しか飲んでないけど?てさか!間接キスじゃね?
    お、推しと間接だけどキスしちまった……。他のファン、特に過激ファンに知られたら刺されるじゃねぇか。
    起き上がって火照った顔を冷まそうと、手を付けずにすっかり汗のかいたお冷を頬に押し付ける。
    「たっだいま〜。よっしゃ行こうぜ」
    すっかりご機嫌な酔っ払いに仕上がった倉持に、半ば引っ張られるようにして店を後にした。

    「ところでさ、ここから1番近いバッセンってどこ?」
    「え、知るかよ」
    「え、言い出しっぺ倉持だろ?」
    「知らねーもんは知らねーもーん」
    どこだろー、とマップを開き調べ始めたのを覗き混むと突然画面が変わって着信を告げる。
    「げ、マネージャーだ」
    気にせず出なよと告げれば、至極嫌そうな顔をされる。仕方ないから俺の方で調べるかとスマホを取り出す。
    「るっせーーよ!電話口で叫ぶなって」
    いや君も叫んでるよね?と思わずツッコミたくなったが部外者だし黙って手元に意識を戻そうとするが、倉持がスピーカーに変えたせいで、ついそちらに意識を持っていかれる。
    『明日ダンスレッスンあるからあれだけ飲むなって言っただろ!』
    「1杯しか飲んでないから大丈夫だって!」
    君一杯も飲んでないよね。
    『この間翌日レッスンあるのにその前の晩に飲んでターンしたら真っ青になったの誰だっけねえ』
    「うっ」
    『いい?今日はもう早く帰って大量の水飲んで寝ろ?御幸選手にずっと会うの楽しみにしてたのは分かるけど、もう会えない訳じゃな』
    「わーーーーっ!」
    通話を切った倉持がキッとこちらを向き、目が合う。
    「今の聞いて」
    「ねえ倉持くん、どういう事かな?プロ意識が足りないんじゃないの?」
    「ちがっ」
    「飲んじゃダメな日だったなら言ってくれればよかったのに」
    「いや、そうじゃなくて、その、今日御幸に誘われて野球見たあとサシでご飯とか、楽しみだったのはあるけど、スゲー緊張してて……」
    「それで飲んじゃったと」
    「飲まなきゃ耐えられる気しなくて……」
    でも倉持酒弱いよね?飲んだら飲んだでダメじゃない?と問えば、
    「悪かったってぇ、もういいだろぉ」
    「ほら、またすぐ会えるからさ、今日はお開きにしてツアーに向けて頑張れよ」
    「おー」
    しょぼくれてる倉持があまりにも可愛くて、心の中で合掌する。
    タクシーを手配し、待ってる間に次の予定を立て、またな、と見送った。



    宿舎に帰って軽くシャワーを浴びてから、ベッドに倒れ込む。
    「あー、初対面なのにめちゃくちゃ失態晒した……最悪……」
    御幸が俺たちの曲を登場曲に使ってることを知ってから、御幸の情報を追うようになった。ニュースで報道される程度のことを何となく知っている程度だったが、経歴や過去のデータを知れば知るほど如何に優秀な選手なのかが分かる。高校時代の動画などもネットに出回っており、ずっと野球を知ったばかりの少年のような目の輝きと、窮地でも心底野球を楽しんでいる、そんなプレースタイルが過去形だが一野球人として尊敬するし、好きだと思った。
    だからそんなスゲーやつに曲を使って貰えるのが本当に嬉しくて、今日試合を生で見れるのが本当に楽しみで、さらにその後サシで会ってくれるだなんて、舞い上がるなという方が無理だと言いたい。しかし、そんな人物と知り合えて友人という関係なら今後も気兼ねなく会えると思うと、そっちの方が無理だと主張したい。
    「俺らに会いに来てくれるファンもサイン会とかヨントンとかで覚えてると、喜んでくれるけどしんどそうなのって、こういう感じなのか?」
    「何と比べてるのかわかんないけど、多分違うと思うよ?」
    「うわっナベちゃん、いつの間に」
    「いまさっき戻ってきたとこだよ。おかえり。今日念願叶って御幸さんとご飯だったんでしょ?何をそんなに凹んでるの?」
    「ぜーったい面倒臭いやつって思われた……」
    「倉持ってさぁ」
    「ん?」
    「結構いや、かなり御幸さんのこと好きだよね」
    「え?は?」
    「さ、明日地味に早いしもう休もうね。電気消すよ?」
    おやすみー、とマイペースに電気を消して就寝したナベちゃんが先ほど放った衝撃発言が上手く呑み込めず、グルグルと考えながら朝を迎えてしまった。
    当然ダンスの先生とマネージャーには怒られる結果となった。





    「御幸さーん」
    今日の練習を終えてロッカールームに引き上げようとすると、球団職員に呼ばれた。リーグ優勝や日本シリーズ進出を逃し、一足先にシーズンオフを迎えて明後日からは秋季キャンプが始まろうとしている。恐らく取材関係やテレビ出演の打診か何かだろう。
    そう検討をつけて職員の元へ駆けつけると、
    「手紙?」
    「はい。LPBさんとその事務所からです」
    何だろうとその場で封を開け始める。
    「え、ここで開くんですか?」
    「え、いや、何か仕事関係ならこの場で共有すべきかと思って」
    あぁなるほど、と納得した様でしていない職員を放って中身を取り出す。
    封筒の中には手紙と
    「チケット?」
    手紙の中身に目を通して、その場にしゃがみこむ。
    「み、御幸さん?」
    「やばい。超嬉しい」
    そこには十二月始めにアリーナツアー最後の公演が2日間埼玉であり、それの1日目への招待状だった。スケジュールが読めない関係でチケットの抽選申し込みすら出来なかったライブに球団を通して招待された。これはつまり他に予定を入れられませんと主張しても許される、重要スケジュールだ。
    「この日LPBのライブ招待されたので他に仕事受けませんから」
    倉持、会いに行くから待ってろよ。別に今日じゃないのに足早に球場を後にし、車のオーディオをいつもの如くLPBにして、音量はいつもより大きめにして帰った。




    『Here we are Diamond こんにちは〜LPBでーす!』
    オープニング映像、登場、そして1曲目のパフォーマンス最初から会場の盛り上がりは最高潮で、これがずっと行きたいと思い続けていた“現場”の空気か、と思うと感動で涙が出そうになる。
    招待席はステージ正面ではあるが、少し距離があるためこの日のために買ったオペラグラスで、倉持を見続ける。MVや音楽番組でのパフォーマンスとは違い、会場いっぱいのファンを目の前にしてのパフォーマンスはいつもよりずっと気合いの入った、輝いたもので一瞬たりとも倉持から目が離せない。

    『みんなー!楽しんでるかーー!!』
    『今日、実は俺たち招待した方がいて、次の曲はその方に関する曲です!ねっ、御幸選手!』
    そう言われ突然場内の特設ビジョンに俺が映し出される。
    『御幸選手には今シーズン登場曲として使用していただきました!』
    『倉持だけちゃっかり現地観戦してるんだよね〜ずるいわ〜』
    『全員だと予定合わなくてなぁ……。いやー、いいだろー!俺らの曲で登場して、ウエストボールはきっちり見逃して、クサイとこは全部カットして、敢えて真っ直ぐのストライクは見逃して、バッテリーを困惑させたところで得意の変化球をスタンドに突き刺す……いやー、ほんとかっこよかった。その前の守備でもさ……』
    『そういうのは配信とか個人的なとこでやって?』
    『ちょっ、どれだけ御幸選手が凄いのかみんなに説明させろって』
    『もう次の曲行こ?ね?御幸選手、最後まで楽しんでいってくださいねっ。倉持、曲紹介!』
    『へーへー。それでは次の曲行きます!疾走!』





    「くらもちー」
    「おー、みゆきー!」
    「皆さん、お疲れ様です。今日、すっごく楽しかったです」
    「わー!生の御幸選手体でっか!」
    「スゲー!どうしたら俺もこんな風になれんだろ……」
    「はは、ありがとうございます」
    「御幸さん、差し入れありがとうございます。とても美味しかったし、お陰様でパワー出ましたよ」
    「そーそー!これめっちゃ美味かった!今度連れてってくれ」
    倉持だけずるい!とか、俺もぜひお願いします!とか、LPBのメンバーにせがまれるだなんてオタク冥利に尽きるなと思ってしまう当たり、完全にプライベート気分なのだろう。
    「すみません、皆さんと写真撮ってこいと広報に言いつけられてるんですけど、お願いできますか?」
    開演前にもメッセージを送られていたが、終演の頃を見計らって再びリマインドメッセージが送られていたため、忘れたら女性誌取材とか面倒な仕事させられる気がしてならない。
    「ぜひぜひー!」
    「俺達も撮りたいっすー!」
    良かった、女性誌免除。アンド推したちに囲まれる。
    恐れ多くも俺を真ん中に、LPBのリーダーと向き合うように横一列に並ぶ。
    「もう少し寄れますかー?」
    そう言われるや否や、俺の後ろに並んでいた倉持が俺の腰に手を回すようにくっ付き、ドキッとしてしまう。
    「オッケーでーす」
    スマホを受け取って撮ってもらった写真を確認すると、思ったよりも倉持がくっ付いていて、一方の俺は動揺して緊張した面持ちになってしまった。
    「御幸、この後メシ行くだろ?」
    「おう」
    「え?なに?倉持、御幸選手とメシ行くの?俺も行きたいっす御幸選手〜」
    「だってさ」
    「皆さんで行きます?」
    「やったー!」
    準備させるんで良かったらこちらでお待ちください、とスタッフさんに案内される。待ってる間に先程の写真をSNSに投稿し、改めて写真を見てみると、
    「倉持、耳と首真っ赤じゃね……?」
    愛嬌いっぱいのめちゃくちゃ可愛い笑顔で写っておきながら、その実めちゃくちゃに照れてたんじゃ、と自意識過剰な考えが頭に浮かんだ時、
    「みゆきー、待たせたなー。行くぞー!」
    「おっ、おう」
    慌ててスマホをポケットにしまって皆の後をおった。
    「なぁ御幸」
    周りのメンバーやスタッフさん達に聞こえないように、声を潜めた倉持がシャツの裾を引っ張りながら俺を呼んだ。
    「明後日の夜って、お前空いてる?」
    「明後日の夜?えーっと、遅くなるかもだけど大丈夫だけど、どうした?」
    「お前に話したいことがあんだけどよ……」
    「突然改まってどうしたんだよ?」
    暫しの逡巡の後、
    「とりあえず、お前ん家行ってもいいか?」
    「え?あぁ、わかった」
    俺が承諾したのを見て、パッと離れてメンバーの方へ駆けていった。その後ろ首もまた、いやさっきよりも赤くしていて、いよいよ勘違いでは無いと思いたい。倉持の赤さが移ったのか、顔が火照っているのか、冬の夜の寒さがちょうどよく感じた。
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