半貸切の飲み会なんてこんなものだ。それが、それなりに大きな仕事の後なら尚更。まるでカレッジ生のようにはしゃぐ部下たちを見ながらウイスキーを流し込む。
ブラッドリーもこうなることを承知で店主に多めに握らせておいたし、明日からも続く通常業務に身が入らないなどということが起きないようにするためにも、こういった場は必要と言える。それでも少しずつ自らの機嫌が下降していくのを止められなかった。
多くの部下と同じように、ブラッドリーにとっても今日の美酒は久方ぶりに味わうものだ。思っているより酔いが回っているのかもしれなかった。自覚していながらも受け流すことが出来ないのだから厄介極まりない。
グラスを置いて、傍らのジャケットを持って席を立つ。視線を向けた先では、一際はしゃいだ声で笑う部下が一人。どうしてそうなったのか、身に着けているのはだらしなく腰に引っかかっているスラックスと下着だけ。アルコールをどれほど摂取したのかはわからないが、見える肌は薄紅色に染まっている。
「……カイン」
「あはは、ぼすだ!ぼすも、のもう!」
「飲まねえよ」
ふらふら揺れる右手から空のジョッキを取り上げ、手にしたジャケットを被せてやった。途端にぴたりと笑い声が止まる。袋を用意させるべきかと身構えた。確か近くにネロがいたはずだと視線を動かして、小さく聞こえた声に目を戻す。
被せてやったジャケットを掴んで嬉しそうに頬ずりしながら、酒精に蕩けた金の目がブラッドリーを見る。
「ふふ、ぼすのにおいがする」
いいにおい、と浮かれ切った声が言う。袖口に顔を埋めて恍惚と深呼吸するその様子を、黙って見守れる程枯れてはいない。酔っ払いを持ち帰る趣味はないというのに。
腕を引き、肩に担ぐ。どうしたんだと声を掛けてくる部下に適当な返答をして、立つことさえもままならない男を引きずってエアカーに連れ込んだ。オートドライブを設定し、後部座席に座るカインの顎を掴む。ぼんやりとした目が鈍くブラッドリーを見つめ返している。
泥酔した人間を相手にすることほど面倒なことはない。手を伸ばせば苦労する。理解していても止まる気は起きず、やはり今日は随分酒がまわっていると思う。
「目ぐらい閉じろよ、お嬢ちゃん」
「ん?ん……」
言われた言葉が何を意味するのか考えもせず、素直に落ちた瞼に堪らない気持ちになる。薄く開いた唇を塞いでやった。
「んぅ……ん、んっ」
舌を擦り合わせれば肩が震え、歯列をなぞれば腰が跳ねる。縋るようにブラッドリーの服を掴む指先に逃がしてやろうという気が無くなっていく。不器用な息継ぎ一つで煽ってくるのだから、そこらの娼婦より余程タチが悪いと笑いさえ零れた。
車内に差し込むネオンの光が減っていく。住宅街に入り込めば、ブラッドリーの自宅までそう時間はかからない。体を離した。
「いやだ」
服を掴んでいたはずの手が首に回る。散々貪った唇が再び触れ合う。
「ぼす、もっと」
焦れたように入り込んでくる舌先を拒む理由は、なかった。