仲裁。「幻覚が、いつも俺を、それでおれ、おれが」
きっとこいつは限界なのだろうと思った。人としての何かを失ってまでして生きる理由は何か。いくら考えても答えは、ない。だから俺は愛用の、ファイヴセブン残弾をしっかり数えて掌で回して遊ばせてからしっかりと握りなおし蛍を見た。
「なぁ、……縁田に逢いたいか?」
「あ、美彦、さ、んに……?」
やっと重なった視線が、目が徐々に水分を帯びていくのを見た。
「逢いたい、逢いたいです、あって、殴らないと、だから逢わせてください…。頼んで、いいです?」
神にでも縋るかのように拳銃を握った腕に縋り付いてきた君を振り解く理由はなかった。脳裏にいる七瀬はそんなことしちゃダメだよと優しく悟してくれるというのに、俺はダメな男だなと自分で呆れ返りながらもう一度掌で拳銃を回して遊ばせておく。
「これであの世で仲直りを先にしておいてくれ。……依頼は聞いた。死をもって仲裁させていただきます」
そう。これは今までよりもずっと、俺が初めて聞いた悲しくて綺麗な愛の終わりの依頼だ。だから俺は引き受けた。これ以上君が苦しんで壊れる姿は見たくないし、縁田美彦という人間にも見せたくないのだ。
「まぁ美彦先輩ぶん殴れるし、やっと楽になれるしで良い事ばっかりですよ。ごめんなさいね。優しくしてくれてありがとう、待ってます」
やっと楽になれる。あぁそうだ。とてもよく、わかる。
視界が霞む。幻覚が、俺の友達が俺を見放して、俺の大切な人がー…。
それでも最期言葉に出たのは
「幸せ、そうでよかった。」
の一言で、そこで俺は自分が極度のお人好しであるという事実を知ったのだ。
辛かった。ただ聞いていただけでいつの間にか渦中に巻き込まれて、メンタルのいかれた人間にばかり好かれ、自己の承認欲求を満たすための道具の生活が。
今やっと、俺も、楽になれる。
弟みたいなあいつも待ってるって言ってた。
七瀬にだってドレスを着せたい。
新の話を聞いていたい。
あまつか先輩が、俺を救って(殺して)くれたから、今から叶えられそうだ。