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    ichikaobm

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    ichikaobm

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    恋人は大事にしたい殿下がルくんと初夜を迎えた朝の話

    君は××い男だ【ディアルシ】 愛する者には優しく触れたい。宝物のように扱いたい。
     ディアボロは常々そう思っていたし、実行するにふさわしい愛に出逢うこともできた。
     めくるめく夜を楽しんで、起き抜けにどんな言葉を交わそうか、わくわくしながら眠りについたことを覚えている。
     気分よく目覚めてからルシファーの顔を覗き込んだところ、まぶたが固く閉じられたままだったのは少し予想外だったが、それもまた一興だ。
     二人分の重みに沈んだベッドに身を預けて、こんこんと眠り続ける恋人を見守った。
     完全無欠そうな見た目に反して、なかなかいぎたないところがまた可愛かった。
     起きてくれないかな、と思って突いてみたりもしたけれど、逃れるように羽毛布団にくるまって「うるさい」「寝かせろ」とディアボロを拒むのも、見ていて飽きなかった。
     ややあって覚醒したルシファーから「すまない、弟と間違えていて……」と言い訳をされることはむしろ予想の範囲内だった。
     問題は、そのあとだ。
    「ディアボロ。俺は君みたいな悪魔がいるなんて、不思議で仕方ないと思ってたときがある。でも、違った。君は立派な悪魔だ。それも悪魔の親玉にふさわしい、とびきりひどい男だ」
     上体を起こし、気だるげにバスローブを引っかけたルシファーの白い肌には、傷一つありはしない。
     多少吸ったり……噛んだりはしたものの、全部魔法で綺麗に、なんならディアボロのベッドに入る前よりもピカピカに磨き上がっているはずだ。
     だというのに、ぷるんとした瑞々しい果実のくちびるはディアボロを詰るのだ。「君はひどい」と。「ああまったくとんでもない夜だった」と。
    「ど、どうして……何がいけなかった?」
     ルシファーと食べたいなあと考えていた朝食メニューの数々が、頭の中から綺麗に霧散した。寝転んでいた体を起こし、慌ててルシファーに問いかける。そんなディアボロを見つめるルシファーの眉間には、くっきりとした皺ができていた。
    「どうして……だと?」
    「私は君が好きだ。愛してるんだ。誰より大切にしたいと思っている。昨日は、その気持ちを存分に捧げたつもりだよ」
    「まあ、確かに。かなり情熱的……ではあったな」
    「じゃあ……」
    「でも、随分ひどかったのもほんとうだぞ」
     ばっさりと切り捨てたルシファーの声は辛辣で、玲瓏で、ああこれが終末の鐘の音か、と思った。
     ショックで言葉もないディアボロを矯めつ眇めつ眺めるルシファーの肩から、かろうじて引っかかっていたバスローブがするりと落ちる。
     あらわになった胸や腹をじっくり見つめたい気持ちはあったけれど、今は一応、断罪を受けている身の上だ。
     ディアボロは、光り輝く肢体からそっと目を逸らそうとした。けれど、それをルシファーが許さなかった。
    「どうした、ディアボロ。今さら後ろめたくなったか?」
     真っ赤な爪が誘うように揺れて、顎をそっとくすぐられる。たぶん今、自分の顔はこの爪に負けないくらい真っ赤になっていると思うのだ。
    「……こんなに可愛い顔をするのに、あんなひどいことが君はできるんだ。やっぱり立派な悪魔だな」
     またルシファーの口から出た「ひどい」に、体が勝手に反応する。
     彼の前では皆こうなるのだろうか。裁きのときを待つ罪人のような気持ちを抱くのだろうか。
    「ほんとうにわかってないのか? なら……そうだな、バルバトスにでも聞いてみるか? ん?」
    「ルシファー……たとえバルバトスでも、ベッドの上で私以外の者の名前を呼ばれるのは嫌だよ」
     くっと彼の喉が鳴る。おかしくてたまらない、といった風情だった。
    「そういうのはわかるんだな」
    「もしかして私をからかっているのか?」
    「いいや、感心してるんだよ。とんだ王子様だとな」
    「褒められている気がしないな……」
    「それは君の感じたままに任せる。それよりも、だ」
     顎に優しく触れていたルシファーの指が、突如として猛禽類の爪に変わった。
     顔をぐっと掴まれて引き寄せられ、そのまま奪うようなキスをされ……るかと思いきや、びっくりするほど優しい口づけを施された。
    「君の優秀な執事に聞くのは嫌だと言うならば、俺が教えてやろう。なあ、ディアボロ」
    「それは……すごく魅力的だね」
    「現金なやつだな」
     機嫌よく微笑んだルシファーにまたキスをされた。
     彼のくちびるは、今までに食べたどんなものより甘くてスパイシーだ。このままずっとこうしていたい。そう願っているのに不意に彼が距離を取ろうとしてきて、焦った。
     嫌だと意思表示したくて腰を引き寄せたけれど軽くあしらわれて、くちびるとくちびるが離れてしまった。
    「ルシファー……」
    「失礼。舌を入れてもいいか聞きたくて」
    「そんなの、いいに決まってるじゃないか。だからもう一度キスしよう」
    「ああ。わかったよ」
     ルシファーの手が後頭部に回される。ゆっくり近づいてくる美貌をうっとりと見つめていると、ぴたりとその動きが止まった。
    「ディアボロ、どうしたんだ? そんなにぼんやりして」
    「え……」
     ただ見惚れていただけだ。君があんまり美しいから。
     そんな今さら改めて口に出す必要もないことを、答えなければならないのだろうか。
     寸暇を惜しんで交わしたいキスを中断してまで、しておくべき確認なのだろうか。
    「ルシファー……君のことが好きだからだ……」
    「ふぅん、そうなのか。それで君はそんな風になるんだな……それなら、俺は今すぐ帰った方がいいか? そんなんじゃ思考一つままならないだろう」
    「どうしてそうなるんだ!」
     わけがわからない。この世で一番愛しい者を目の前にしていれば、誰だって夢見心地になるはずだろう?
     そこに種族の差異などないはずだ。悪魔も天使も人間も、愛の前ではみな敬虔な奴隷になるのだから。
    「ルシファー、どうしたんだい? 今日の君はなんだか……とても、ひどいよ……」
     思わず転がり出た言葉に、ハッとした。戸惑いながら口を覆い、ルシファーを見つめる。
     ああ、なんてことだろう。
     私が焦がれ続けた暁の君は、したり顔まで麗しかった。
    「俺の気持ちが少しはわかったか? ディアボロ」
     ダンスに誘うような仕草で手を取られ、優しく握られた。引き寄せられるまま、二人して枕に倒れ込む。
     深く指を絡める行為は、その優美な動きとは裏腹に、どこか淫靡な印象を抱かせた。
     昨夜、こんな風にルシファーの手を握っていたからかもしれない。
     シーツに縫いつけて逃がさないように。でも、決して傷つけはしないように。初めてルシファーの体を開いた、甘い夜の記憶だ。
     でもきっと、ルシファーにとっては甘いだけではなかったのだろう。意趣返しの理由をだんだんと理解できてきた。
    「ルシファー、すまなかった。体位を変えるたびに君の許可を求めたけれど、困らせていたかな」
    「それだけじゃないだろ」
     ぴしゃりと言葉が飛んできた。ルシファーは相変わらず楽しそうな表情をしていたけれど、つりあがった柳眉には苛立ちが潜んでいる。
    「『やわらかくなってきた。指を増やしていいかい?』だの『泣いてるね。すごく吸いついてきてるけど、抜いた方がいい?』だの……よくもまあ次から次へと恥ずかしいことを言わせてくれたな?」
    「あ、あれは……違うんだよ、君を辱めたかったわけじゃない」
    「それはもうわかった。まあ、君がひどい男だったことはやはり否定できない事実だが」
    「うっ……」
    「でも……俺を大事にしたいからだったと聞けたのは……すごく、うれしかったよ」
     そう言って花が綻ぶように笑ったルシファーに、ディアボロは改めて恋をした。
    「ベッドの上では『優しい』ばかりでなくてもいいんだぞ、ディアボロ」
    「うん……わかったよ、ルシファー。早速実践したいのだけれど、構わないかな?」
    「、ぁ」
     羽毛布団の中に隠れたままだった太ももに指を這わせる。ぴくりと震えたルシファーを抱きしめて、先ほどからお預けになったままの深いキスを交わした。
     互いの唾液をたっぷり交換してから、ルシファーがほうと息をつく。
    「……ほんとうに、困った王子様だ」
     無駄なものが一切ついていないルシファーの太ももが、ディアボロの手をきゅっと挟み込む。
     だんだんと熱を帯びてき始めたルシファーの瞳に魅入られたまま、ディアボロは改めてそのしなやかな指に自らの指を絡めるのだった。


     20220208
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    Replies from the creator

    ichikaobm

    DONE南の島で別荘コーディネートのアルバイトをしてる殿下がルくん(お付き合いしてる)に叱られる話
    楽園【ディアルシ】「何か俺に言うことがあるんじゃないのか?」
     そう言ったルシファーはとても怒っていた。もしも私が人間だったら、きっと畏怖で気絶していたと思う。
    「る、ルシファー……君、そんないつも通りの格好で暑くないのかい? 売店にアロハシャツも売ってるよ……?」
    「俺の服装なんてどうでもいい。今は君の話をしているはずだ」
     一応の気遣いをぴしゃりとはねつけられ、しょぼんと眉毛が下がるのを感じた。
     う、とルシファーは呻いたけれど、詰問を止めるつもりはないようで、腕を組んだまま私をぎろりと見下ろしている。
     ちなみに現在、私はアルバイトの合間、カフェで休憩を取っているところだった。
     黄昏空が見えるテラス席で、スモーク暗黒ガチョウのクロワッサンサンド(ピクルス抜き)を食べるこの時間は、ここ最近の私のお気に入りだ。だから、カフェに来たときは大体これを注文するのだけれど……さっきまでとても美味しく食べていたけれど……音もなく忍び寄ってきたルシファーに詰め寄られている今は……味がちょっとわからないな……。
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