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    るたかた弁当

    @ruta_vat3

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    るたかた弁当

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    ゲーム時間軸から500年後のテイワットで先生をずっと待ってたタルタリヤと旅をする先生の話
    鍾タル(にょたる)、色々捏造しております

    #鍾タル
    zhongchi

    一衣帯水「おい、本当に行くのか?今日じゃなくても…」

    一人の若者が、黒髪の男を引き止める。

    「どうせすぐ帰されるんだから、そんなに心配すんなって!」
    「そうそう!いくら神の目持ちでも、見てくれてる神様なんぞもう居ないんだぞ〜?なっははははは!」
    「コイツなら大丈夫だろ。最速で一級冒険者まで上がったんだぜ?」
    「死にやしないって!殺された人はいねぇしな!」

    周りの大男たちはガヤだろうか、それとも冷やかしか。大声で笑う彼らは昼間から酒を飲めども、その正体は全員が三級以上の冒険者だ。

    「そんなにここは危険なのか?」

    黒髪の男は大男たちに問うが、男たちは決まってこう言うのだ。

    「いいや?世界一優しい“水の精霊”サマの秘境さ。」

    ここはスネージナヤ南部にある【秘境:クジラの森】。その前に建っている冒険者教会の(ほぼ酒場として機能している)建物の中は賑やかだが、誰一人として秘境に入ろうとする者はいない。

    雪が降りしきるこの北国で唯一、雨が降り続けるこの場所は秘境と言えど見た目はただの森である。しかし中は降り続ける雨によって水元素が充満しており、水元素生物が蔓延る危険な森だ。ただ、死者・行方不明者は未だ出ておらず、必ず秘境の前まで帰される事から「世界一優しく、世界一難しい秘境」とも言われている。

    「兄ちゃんはどうしてこんな辺鄙な場所に?もしかして、お宝か?」
    「いや、とある詩人に“ここに行けば失くした物が見つかるかも”と言われてな。」
    「…失くしモンだァ?兄ちゃん前にここに来たことがあんのか?」
    「今日が初めて…のはずだ。」

    詩人に言われたことをバカ正直に信じるなんてな、と大男達に笑われるが、自分が判断を間違ったとは思わない。

    ここに来てまず感じたのは「懐かしい」だった。初めて来たとは思えない、そんな気持ちが心の中を埋めつくしていくなかで、次に感じたのは「悲しい」。その次は「痛い」、その次は「苦しい」、その次は​──「恋しい」。

    「誰か」に逢いたくて、逢いたくてたまらない。

    目が覚めてからずっと求め続けている「誰か」が此処にはいるのだと、身体が、心が、頭が、魂が、訴えている。

    早く、逢いたい。

    「…兄ちゃん、急いでるのはわかるけどよ、もう少しだけ待ってみな。いいもん見れるぜ、だよなァ?キャサリンちゃん!」
    「はい!もうすぐ17:00ですよ」
    「オラ!野郎ども、静かにしろ!!始まるぞ!!」

    いったい何が始まると言うのだろう?首を傾げていると男達の一人に手を引っ張られ、建物の外へ連れ出された。

    「そら、よく聴け。これが有名な“愛の嘆き歌”だぜ…」

    耳を澄ますと、音程が狂った弦の音と掠れた歌声が聴こえてきた。音の大きさ的に目の前の森からだ。

    きっと長い間調弦されていないのだろう狂った音はどこか悲しげで、それでいて美しかった。微かに聞こえる歌声…と言っていいのかわからない掠れた声がより一層、悲しみを表しているように聴こえる。「嘆き」と言われる理由がよくわかった。

    曲調は明らかにスネージナヤのものではないが、これがまた「懐かしい」と感じる。

    「…っ」

    目の前の景色がじわじわとぼやけてきて、慌てて下を向く。隣から「ズビッ…」と情けない水音が聞こえてきたかと思えば、後ろからは堪えきれなかったのだろう嗚咽が一人、また一人と数を重ねていった。こんなに聴いていて心苦しくなる音楽は、他にはないだろう。

    時間として二、三分だっただろうか。悲しげな音色が鳴り止んだ。

    「…兄ちゃん、顔を上げな。フィナーレだ」

    顔を上げると突然、目の前の森に凄まじい量の水元素が集まり出す。


    きゅうぅぅん……………!


    切ない鳴き声と共に、巨大な水の鯨が森の奥から空に現れた。
    空高く上へ上へと飛び続け、ついさっき輝き始めた真白い一番星にあと少し。
    そこで鯨は上昇を止め、呆気なく森に吸い込まれるように落ちていった。

    あの音程の狂った弦の音も、掠れた歌声も、あの水の鯨に飲み込まれたのだろうか。

    「…毎日よォ、この時間に歌が聴こえた後、空に鯨が飛ぶんだ。だからここは、クジラの森って呼ばれてる」
    「いつも…こんなに悲しく歌うのか…?」
    「あぁ、それも今年で500年目だとさ。丁度、最終戦争が終わってから500年…ずっと変わらずこの時間に誰かが歌って…ってオイ!」

    堪らずその場から駆け出す。隣の男が止めようと追いかけてくる気配を感じ、スピードを上げた。

    「〜っ!気ィつけな!一級冒険者だからって、油断するなよ〜!!!」
    「感謝する!」

    走り去る黒髪の男が見えなくなって、大男はポツリと零す。

    「あの兄ちゃん…やけに美人だったな…」







    薄暗い森の中を進みながら、自身の状況を整理する。

    自分の名前は鍾離。気がついたらスネージナヤという国にいて、倒れていたところを心優しい老夫婦に救われた。記憶を失っているため、自分が今まで何をしていたのか、どこから来たのか、はたまた年齢すらわからない。手元に残っていたのは「岩元素の神の目」と「骨董品に関する知識」、そして体によく染み付いた「槍の心得」。自分に関する記憶がとことん消え去っているものの、生きていく上では困ることは無かったのは幸いだった。

    一般常識は老夫婦が丁寧に教えてくれたが、一つ鍾離には気がかりな事があった。
    何一つわからない自分のことだったが、どんな時も心の片隅で「何かが足りない」と訴える自分がいるのだ。そりゃあ勿論記憶が無いから当然だろうと最初は思っていたが、時が経つにつれてそれは「誰かがいない」という確信に変わった。
    老夫婦に恩を返すために冒険者昇級試験を受けて、最高位の一級冒険者として依頼をこなす日々。時が経つにつれて増していく「喪失感」。自分は一体何を、誰を求めているのだろうか?
    悶々と考えていると突然ガサリ、と目の前の茂みから水元素生物が現れる。とても大きな…雀だろうか?他にもリスやカエルなどがいる。

    「…さすがに戦闘は避けられないか」

    ふぅ…と一息ついて、槍を呼び出す。手によく馴染んだ鋭い長槍は岩元素を纏って黄金色に輝いている。
    少しの間睨み合っていると、目の前に立ちはだかっていた水元素生物達が一斉に左右に避けた。ずっと降り続いている雨も心做しか弱くなったように感じる。

    「もしや、道を開けているのか…?」

    その声に答えるかわりに、森の奥から聴き覚えのある音程の狂った弦の音が聴こえてくる。秘境の最深部に近いのだろうか?逸る気持ちを抑えて、慎重に暗い森の中を進んでいく。
    日はとっくに沈みきっていた。




    じっとりと水元素が充満していた森の中と違い、ここは空が開けていて、優しい月明かりが照らすだけ。中央には存在が控えめな小さな泉と石碑がある。静かに石碑へと近寄り、そこに書かれた文字を読んだ。

    “契約に従い、かの者を待つ”

    「…契約、か」

    契約。それは500年前まで璃月を統治していた岩神が重んじていたものだと老夫婦に教わった。
    岩神は最終戦争の前に一度姿を消している。正確には”死を偽装し、人に国を託した”と伝わっていて、当時「最古の魔神」として崇めていた人間達は悲しみに暮れた。しかしその後、最終戦争にて再び姿を現した彼は自身を犠牲にした攻撃をし、まばゆい光と共に消えていったらしい。彼の攻撃によって戦争の情勢は一変しテイワット連合軍の勝利となったが、戦争が終わった後になって一部の者は”まだ彼は生きているのでは”と唱え始めた。
    結局その考えはある者によって否定されたのだが、岩神の再来と消失はテイワット中に多大な影響を及ぼしたと伝わっている。500年経った今でもそれは教科書にデカデカと書かれており、岩神の人気は未だ衰えることを知らない。

    色々と考えたが、どうしても自分は“契約”という言葉に引っかかってしまう。何か自分にとって大切な事だったような…少し懐かしい気持ちになるのは、きっと失った記憶と関わりがあるのだろう。

    少し長く考えすぎてしまったと思い、顔を上げると​───────目の前には美しい人がいた。
    こちらを不思議そうに見る彼女は俺と暫く見つめ合った後ハッと何かに気付いたのか、小さな泉にぽちゃんと音を立てて消えてしまった。

    「…っ!ま、待ってくれ!君はっ…!」

    慌てて泉を覗き込めど、水は驚く程透明な青に染っているだけで何も見えない。
    純粋な水元素の集まり。そっと水に手をいれると、ふわりと温かい水が指の隙間をすり抜けていくのを感じる。敵意はないようだ。

    「突然君の…家に入ってすまない、どうか許してほしい。悪意はないと誓おう。」

    水の魚が小さくパチャンと跳ねた。

    「話を聞いてくれるのか?ありがとう。君は優しいんだな」

    先程より大きく魚が跳ねる。心なしか、触れたままの水が少しぬるくなった気がした。

    「俺の名前は鍾離という。君は──…」

    パシャンと大きな音を立て、水の中から一人の女性が顔を出した。言ってしまえば肌色なんてどこにもない、女性の顔をした水元素生物。けれど目の前の彼女は”人間”だと思った。

    『ーーっ、ー…』

    口をパクパクと開いて何かを伝えようとしているが、聞こえてくるのは掠れすぎて音にすらなっていないもの。そういえば秘境の前で聴いた歌は掠れていたような。

    「っ失礼、」

    そっと彼女の口に人差し指をあてる。びくっと体が跳ねたが、指はあてたままにする。

    「…ずっと、歌っていたのだろう?無理に出すとこれ以上、声が嗄れてしまうぞ」

    出来る限り優しい声で語りかけると、理解してくれたのか彼女は静かに口をつぐんだ。

    「そうだ、”はい”と”いいえ”で答えられるか?」

    ”はい”ならば首を縦に、”いいえ”ならば首を横に振ってほしいと伝えるとゆっくりと首を縦に振ってくれた。






    「君は、人間なのだろうか?」

    考え込むように目を閉じて、首を傾げる彼女を見つめながら祖父母から聞いた話を思い出す。

    “氷に包まれる国には神に愛された罪人がいる。神を愛し神に愛されてしまったが故に、世界の脅威に成り果てた哀れな女。彼女は恋人の帰りを待っている。それが叶わぬ願いだと知っても。”

    …先程から彼女がじっと荷物を見つめているのはどうしてだろうか?

    「何か、気になる物でもあったか?」
    『………』
    「これか?これは」




    ここまでしか書けてない
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