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    ヒロ・ポン

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    フロ梶のバカンス(出発編)

    概念アジアのリゾートに行く二人※沙村先生の絵で嘘喰いの面々が見たいと思ったあまり組織や地名の名前だけ借りています。


    磁気阻害ケースに入れられたフロッピーディスクがフロイドの胸元からちらりと見えた。
    「石婚島への潜入ってなら従業員側ではまず無理だ。客としてなら手引きできるかもしれないが、辺りは海だから沈め放題でもある。」
    「構いませんよ。動くのは僕たちだけじゃないですし、情報を押さえるだけで止めておくのもアリですから」
    こちらの腹の中にある計画を動かすには、国を三つ跨いでの壮大過ぎる最悪な計画に入り込む必要があった。
    梶は情報と言えばでお馴染み、とまでなったフロイドの手を借り大胆でありながら堅牢な城の中の情報を求めた。
    「相変わらずお前のママは危ないことばかりさせるな。俺ならベビーベッドのガードを100cmくらいにしてるぜ」
    「そうですか?よくお散歩に連れて行ってくれるので僕は好きですよ」
    ヒュゥ、とフロイドが茶化すように口笛をひとつ鳴らす。
    「…ヒルマイナ社のネタはちと高いぜ」
    乱立する売春宿、不法占拠及び入国、銃刀法の完全無視、多数の行方不明者と数多の死体、そして国家どころか諸外国まで絡んでいる。
    梶とてこのネタを不当に値切るつもりはなかった。フロイドが要求するのなら今この場にある以上の額面を出してもいいというのがフロイドの言う”ママ”の意向だった。
    「こちらにも用意があります。用意した分で不足があるなら時間を貰えれば」
    「いや、俺は別に金には困ってねえよ。フロイド・リーも、アレックス・ケインにも、オリバー・ジーン・タカダにもそれぞれが一生遊んで暮らせるだけの金がある。まあこれ全部俺なんだけど」
    厄介だと思った。世の中の大抵の事は金で解決できる。じゃあその逆、金で解決できない事というのは、ずば抜けて始末しにくい。
    「…用意できる物であれば、物によればなんとかなるでしょう」
    「そんな難しい顔するなよ。簡単だ」
    なんだ?金じゃないなら不動産?何かの権利?賭郎の会員権に今日現在確かに空席はある。けどそれを釣り合いがとれるかどうかは独断では決められない。

    「カジ、お前の三日間…72時間を俺にくれ」
    「へ?」
    梶の後ろに供として立っていた弐號立会人と拾陸立会人からも「は?」「あ?」という声が漏れた。
    「別に危害を加えようってワケじゃねえよ。ただ俺と三日間バカンスに行ってくれればいい。すべてこちらが手配するから着の身着のまま、まあセクシーな下着の一枚でも着て来てくれたらそれでいいさ」
    「はぁ!?ちょ、えっ?これはビジネスの話!バカンスは別でしょ!?僕に身体を売れって事ですか!?」
    「カジは想像力が豊かだなあ」
    身体を売れ、というのは言い過ぎた自覚が梶にはある。不当な要求寄りではあるが、フロイドと梶は双方合意の上で恋愛関係にあるのだからこの要求は犯罪であるとか、倫理面に問題がある物ではない。
    「もちろんそっちの二人が抱えてるアタッシュケースはいただくぜ。でも金はそれっきりでいい。カジがバカンスを断るならこの話自体が無し、キャッシュの受け取りも拒否、それだけだ」
    拾陸立会人・南方の携帯が鳴動する。強制的に通話になった端末から「そいつやっちゃっていいよ」という重たい声がスピーカーを通して聞こえて来た。
    もちろんそれで即座に手を出す判断をする立会人二人ではない。弐號立会人・門倉は「はよ決めろ」という目線だけを梶に飛ばした。
    「なあカジ、いじわるしてるつもりも、お前に身体を売れってワケでもないんだぜ?確かにこれはビジネスだ。でもビジネスだってちょっと自分の財布から出す時もある。そうだろ?接待ってやつだ」
    「う…そ、そうかもしれないですけど…」
    梶が視界で追うのを誘うようにフロッピーディスクがゆらゆらと擦れる。空いている方の手が懐に入り、取り出された同じ仕様のケースに入ったMOも重なって梶の目の前をひらひらと泳ぐ。

    「好きな男を24時間も独り占めできていない哀れな男のおねだりだ。これっぽっちのこと、叶えてくれるだろ?」
    「欲張りは、いつか身を滅ぼしますよ」
    「俺はお前がそういう事を言うようになってすごく嬉しく思うよ」
    「どうも…」

    フロイドの懐からまったく知らない名前の印字された航空チケットがひらりと躍り出る。ちくしょう、最初からこのつもりだったんじゃないか。
    梶は受け取った記録媒体を後ろに控える二人に渡し、その後内容の確認が済んだと聞いてそのチケットをフロイドの手から取り上げた。

    *

    「ここ、どこだよ…」
    おかしいな、普通に成田のカウンターに行ったんだけどな。と小首をかしげる。今日1日で傾げすぎて頭が左に傾いたまま戻らないかもしれない。
    名義は違うけど正規のチケット、というギリギリな紙一枚を持って手続きをしようとしたら、目の前でカウンターが閉まった。
    まだ14時だけど?と戸惑っているとグランドスタッフの恰好をした人が「カジ様ですね」とがっつり本名を呼び、あれよあれよと保安検査場を無視し、一般旅客機ではないだろう飛行機に乗せられ、目隠しをされたと思ったら知らない土地に居た。
    アジア圏のようではあるが、到着するや否や首にフラワーレイをかけられた。フラワーレイといえばハワイという貧困な発想しか持ち合わせていなかったので混乱した。
    されるがままに鼻の下まで何重にも重ねられたフラワーレイに口に侵入されながら端末の電源を入れる。
    仕事で使う端末も私用の端末も賭郎本部の金庫に預け、今日のために用意した端末の電話帳の登録名「1」を押す。

    「もしもし?」
    『アロ~ハ、カジ。快適な空の旅はどうだった?』
    快適ではあったが、アロ~ハな気分ではないしここは絶対にアロハな土地ではない。
    「はいはいアロハ。本当に手ぶらで来たけどどうしたらいいんですか?」
    『それでいい。迎えのタクシーが来てるだろ、それに乗れよ』
    当たりを見回すと周囲の民間タクシーとは一線を画すような高級車が乗り場に停車している。
    「…」
    ポケットに入る以上の物は持ってきていないのでそのままタクシーに向かい、助手席を開け、おもむろに乗り込んだ。
    「おいおいお客様もっと警戒しろよ。日本風にやるならタクシーの助手席に乗るのは一番下っ端だろ?」
    「さあね。僕にはここが日本かそうじゃないかもわかってないので」
    首を埋めるフラワーレイをバサバサと外し、グローブボックスから先客の拳銃を出してそこに突っ込む。
    「じゃあ72時間、スタートだ」
    フロイドがアクセルを踏み込む。世界一の陰謀王に運転させるのは、自分くらいかもしれない。

    「で、ここはどこなんですか?まさか石婚島って言うんじゃないですよね」
    「まさか!あそこは確かにいい女が揃ってるが、抱くならカジのほうが絶対にいい」
    「どうも…」
    スモーク加工のされたガラス越しに見る風景はいつか旅番組で見たアジアの風景に似ているが、明確にどこというのははっきりしない。
    「このへんって治安どうなんですか?」
    「治安?関係ないだろ。ホテルに缶詰めだ」
    「バカンスっていうからどっか観光でもするのかと思ったんですけど」
    「お前がそうしたいならそれでいいさ。でも日本人は休暇にまであくせくと歩くなんて随分と元気なんだな」
    「そういう皮肉っぽいのを言うのが…あれ?フロイドって何人?どこの国の人?」
    「それって重要か?俺っぽさは俺にしかないぜ~」
    それもそうか、と頷いてしまった。

    ステンレス鋼の網が張られた窓を少し開け、知らない場所の風に吹かれてみる。
    「今日からアレにご宿泊だ」
    到着した空港から少し低いレベルの治安と生活圏の地域を抜け、今度はよく整備された地域にさしかかる。
    アレ、と言われて視界に入るのは何棟かのビルだった。
    車を走らせ近づくと、日本国内の建築物ではまずありえないほどの高層ビルとその足元に街があるのが見えた。
    「出来てから今の所食中毒も狂犬病も出てないから安心していいぞ」
    「へー、じゃあいい所ですね」
    石畳が白くキラキラとした道路に変わる。ずいぶん遠くまで来たものだ。何故だか出がけに会った貘さんの「いってらっしゃい」を言う渋い顔を思い出した。


    *
    「ほらよ」
    「ありがとう」
    ホテルへのチェックインの前に、せっかくだからとホテルから遠い地点から散策することにした。
    カラフルなパラソルの下に簡単な冷蔵庫のついたワゴンを置いて売られているジュースがやけに美味しそうに見えて、どこに行くのかもわからず少しの日本円とカードのみを携えていた梶はフロイドに早速ジュースを買わせた。
    「俺に小銭を持たせるのなんかお前くらいだよ」
    「先にどこに行くのか教えてくれたら両替くらいしてきましたよ…」
    二人で毒々しい色のジュースと見るからに甘そうなジュースをストローから吸う。そして同じタイミングで「うお…」という顔をした。
    「醍醐味、としか言えん味だな」
    「すっご…コーラよりすごい…」
    着色料と甘味料がどっさりと入ったジュースを二人で飲みながら、夜の営業に向けての準備でにぎわう露店群を眺めて歩く。
    「でも意外。フロイドってこういうの嫌がるかと思った。」
    「自分じゃ飲まないな。まあでも下手に用意されたものよりは安全なこともある。俺がお前のどちらかを仕留めるためにこの市場の食べ物全部に毒を入れるわけにはいかないだろうしな」
    確かに、と頷いて返す。甘みが強すぎるジュースには早くも舌が慣れ、機内以来の水分に全身が喜んだ。
    「胃腸はお前の方が丈夫かもしれないが、俺から離れずに歩けよ」
    「手でも繋ぎますか?あんなに大きな情報の差額が僕なのは安すぎるから、それくらいサービスでお付けしますよ」
    「おいおい拗ねてくれるなよ、まだ独占してから2時間だってのにあと70時間その調子でいるつもりか?」
    「さあどうでしょうね。あのアイス買ってくれたらちょっとくらい機嫌治るかも」
    「いいぞ、その調子で我儘になってくれ。俺はお前に困らされるのが大好きなんだ」
    フロイドの眉尻が下がったのを見てちょっと気分がよくなる。別に優勢なわけじゃないが、少し機嫌が直ったので梶はフロイドと腕を組んでやった。

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    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173