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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    かどかじ

    かどかじと欲みっともなく真っ白な精液が真っ白な陶器の上で渦を巻いて流れていく。
    ドアの向こうではマルコがどたばたと朝の準備をしている音がして、その気配がこちらに近づいてこない事にホっとした。
    今日も朝の儀式を終え、きっちりと手を洗ってからなんでもないようにトイレから出る。リビングまでさっさと移動して、ベルトを探しているマルコに風呂場のドアノブにひっかかっていたそれを渡して、出発する。これで完璧だ。

    高校時代から続く朝晩の儀式は裏の世界に入ってからも続いていた。体調が悪い日や出す余剰な物がない日には儀式は延期の運びとなる事もあったが、基本的には毎日続いていた。
    どういうメカニズムなのかはわかっていないが、この儀式を怠るとどうにも頭や腰が重たくスッキリとしない一日になる。
    かといって日中は仕事をしている事が多く、出先でサっと…なんてことには及べない。仕事の効率も落ちるし、大抵の仕事は失敗は許されない一発勝負だからこのルーチンを崩すわけにはいかなかった。

    けど右手だけが恋人の独身男ではない。自分にはれっきとした恋人がいる。二人そろって国内にいる時には最低でも週に一度は顔を合わせているし、やることもやっている。
    たまにある「何も出ない」の日はその男の仕業で、この日は儀式をすっとばしてもある程度は爽快に過ごすことができる。が、それはタスク消化の話であり、欲求の満足な消化の話ではない。
    10ばかり年上の恋人は自分の持ち物が規格外である事と行為自体がかなりの無体であるという事を理解していて、スキンシップとしての意味合いの方を強く持っているように思う。
    それは求められることに喜びを見出す自分にとっては心地のいい接触だった。せずともなんら支障はないというのはわかっていても、進めるステップに進まないというのは気になっていたから。
    満足はしている。乱暴されたりはしないし、気持ちいい。終わったらタバコふかして「帰れよ」なんて言われる事もない(そういう経験はないが、ちょっと想像していた)。むしろその真逆であると言い切れるくらい丁重に扱われている。

    …けど、大満足ではない。
    いつか一人でやらかしたような、もう一滴も出ないくらいにシコり倒したあの感覚に久しく陥っていない。
    あの日の自分には「このサル!」としか思わないが、特に希望もしていないのに延々と製造される精液と欲求を最大限に吐き出して消化し、バカバカしいながらも「やり切った」と思ったあの感覚が最近になって恋しくなった。
    そしてどうせなら、今それは恋人にしてほしいと思った。
    AVよりもじっくりと時間を掛けて解きほぐされ、もう好きにして!となった所で本番に持ち込まれるのはとてもいい。それしか知らないから、現時点での最高はそこなのだ。
    しかしわが身もまだまだ男の子である。限界に挑みたい。でもそこに至るには心理的障壁があった。
    門倉さんは全身を男性ホルモンで成形されたみたいな人のくせに、僕に触れてくる以外の、自分に対しての面では凄く淡泊なように思う。
    お互いに好き合っているのはわかる。けど、どういえばいいのかはわからないけど、お行儀がとても良い感じがする。
    男も30を過ぎればセックスは相手へのおもてなしになるのだろうか。
    とにかく、門倉さんが自分本位に求めてこない以上、自分から「もっとして」と言うのも憚られた。
    オブラートなしで言うなら、淫乱だと思われ呆れられたくないのだ。

    *
    抱く頻度が高かった方の女から連絡が来た。体も頭もよく、からっとして物もねだらない色んな面でいい女だった。
    この頭の傷に最初に気づいた女でもあったから、「最近連絡ないから死んじゃったかと思って」という電話でも笑えた。
    携帯を変えるが番号は要るかという電話だった。何かあったのかと聞けば、結婚するからと報告された。
    互いに恋愛感情などはなかったのでそのまま祝福の旨を述べ、電話番号は不要だと言って「じゃあね」と電話を切った。
    さて、と私用携帯のメモリを見る。プライベートでのやりとりがある黒服や賭郎関係者、表稼業のいろいろ、それから「か」行の一番上にいる恋人。
    予定していた立会が双方合意の上で日程が移動となり、ぽっかりと時間が空いた。「決して都合がいいとかではありませんので」と内心で思いながら”か”の人に電話を掛けてみれば、弾んだ声が通話に出た。
    食事への誘いに乗って来た恋人にジャケットを着て出て来てくれとだけ伝え、近場の店の席を押さえた。ホテルは、やめておいた。

    押してみていけなかった事はまだないが。あまり食事からのセックスの流れを固定化するのもよろしくない気がする。作業のようになってしまう事を恐れているのだ。このワシが。
    「いけるのか?」などと悩む相手は初めてだった。いけるもいけないもなく、それを考える事自体が人生の上でほとんどなかった。こんな風に相手の調子を窺うような事も。
    事を急いているつもりはない。むしろありえないくらい時間と手間をかけている。けどできることなら自分の限界まで付き合わせてみたい。色々と。けどそれにはなかなか手が伸びない。
    立派な成人男性になにを、と思いながらも「おぼこい」としか表せようのないような相手に一時の衝動で無体を働き、壊してしまいたくは無かった。
    自分にしては珍しく、関係が切れてもらっては困る相手なのだ。改めてそう確認して、ハンドルに頭を打ち付けたらクラクションが鳴った。

    *
    相手を性の対象として見初めてからうまく歯止めが利かなくなってしまったように思う。
    湧き上がる衝動が日常の行動に支障を出す前に自分で処理するの精通して以降のが人生通しての当たり前だったというのに、今では処理行動が虚しくて仕方がない。
    視界に入れているのが女体のうねる様だったとしても、頭に浮かべるのは特定の相手の事だった。被せるでもなく、同時進行のようにして頭に思い浮かべて始末をする事が続いた。
    お互いに健康で、特に何かわだかまりがあるわけでもなく、「しよう」と誘えばいい話だ。それで解決できる話なのだ、とどのつまりは。
    しかし欲求不満を悟られるわけにはいかない。
    性欲中心で付き合っているだなんて、そこに至るまでの行動がそれ目的であるだなんて間違っても思われたくないのだ。
    それくらいには、相手の事が好きだった。
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