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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    かどかじ

    まちぼうけカジ門倉さんが来ない。
    立会が押しているにしても、4時間の待ちぼうけは初めてだった。もちろん携帯も通じない。
    僕等の立場に「明日」や「絶対」がないなんていうのは承知の上だったけど、いざこうして可能性に直面してみると心穏やかじゃないものなんだな、と感じた。
    待ち合わせのカフェもラストオーダーの声がかかり、僕はコーヒー三杯の支払いをしてそこから出た。

    どうしようかな、もしもそうなら、賭郎から正式に連絡がくるかな?
    心の置き所が定まらない。慌てても、泣いても、喚いても、「これはまだ早いかも」というのが捨てきれない。
    ただ、どうしたのかだけ教えてくれたら、どれかに転がれるのに。吹き付ける夜風が冷たくて、門倉さんがいつかしていたみたいにコートの襟を立ててみた。
    真っ黒な空に雲が集まって来たのが見える。指先が少し気持ち悪くて、多分雨が降るのだろうと思う。
    店先の階段を降りて道路の縁石に乗ってタクシーを探す。この場所では、今の時間は程ちかい歓楽街に台数を取られているかもしれない。それでも電話ではなく道路を走るタクシーを待った。

    遠くから一台の高級車が近づいてくる。自動車信号の赤で停止線より手前で止まったのに、歩行者がいないのを見てなのか堂々と信号無視をして走り出した。
    100mもないその信号から再発進した高級車は路肩に寄りながら減速して僕の前でぴったりと止まる。下がる、スモークが張られたその窓には見覚えがあった。
    「よかった、まだ居た…」
    「真鍋さん、南方さん」
    振り始めた小雨を気にすることもなく南方さんが助手席から降りて歩道に入る。
    「門倉は今日は来ません。本部に帰りがてら、お伝えしようと思って」
    「…何で?っていうのは聞いてもいいですか?」
    真鍋さんが運転席から腕を伸ばして助手席のドアを閉め、窓をぴったりと閉めた。
    「経緯は詳しくは言えません。ただ今ヤツは治療中で面会謝絶です。」
    やっぱりね、と言えればよかった。予想していたことのひとつで、まだいい方だったが、それだけだ。
    「どういう状態かは教えてもらえますか?勝負の内容とか、状況とかはいらないです」
    南方さんは小さく呻いてためらった後、眉間に皺を寄せながら教えてくれた。
    「ご存じでしょうが、門倉の頭は骨も中身もイカレとります。あの時中身は全部入ったままでしたが、骨はどうやっても足らんかったというのでインプラントが入っていました。」
    「…そこが、壊れでもしましたか」
    南方さんは頷く。医学的な知識が無くても、文脈と声の調子からどんな事態が起きているのかはなんとなく想像がついた。
    立てたコートの襟が折れて倒れる。冷たい風がまた頬に吹き付けて、撫でられたみたいな感触におもわず俯いた。
    「命に別状はありません。ただ壊れた部品は取り替えないといけないという話です。面会謝絶も、頭を開くからで」
    「…ありがとうございます」
    実際、状況的にはそうなのだろう。南方さんの言葉に慰めのための嘘は見つけられない。

    「よく、ここがわかりましたね。こんなことで迎えに来てくれるようなものでもないでしょう」
    「…一昨日、飲んでいたもので。門倉が見当付けていた店は、私も使った事があるんです。待ち合わせの時にしばらく貴方の事を遠くから眺めているとか、そういうのも」
    「はは、あの人、結構口軽いんだ…。でもそれは、初耳だなあ」
    眉間がつままれたみたいにジンと痛んだ。俯きはしなかったけど、視界がじんわりと滲む。
    「この時間のこの辺りはアシがないでしょう。お送りしますよ。」
    南方さんの掌に押され後部座席に上がり込む。運転席との間にあるシールドにはさっきは降りていなかったスモークがかけられていて、僕はそこでちょっとだけ泣いた。
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    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173