Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

    ☆quiet follow
    POIPOI 147

    ヒロ・ポン

    ☆quiet follow

    かどかじ

    まちぼうけカジ門倉さんが来ない。
    立会が押しているにしても、4時間の待ちぼうけは初めてだった。もちろん携帯も通じない。
    僕等の立場に「明日」や「絶対」がないなんていうのは承知の上だったけど、いざこうして可能性に直面してみると心穏やかじゃないものなんだな、と感じた。
    待ち合わせのカフェもラストオーダーの声がかかり、僕はコーヒー三杯の支払いをしてそこから出た。

    どうしようかな、もしもそうなら、賭郎から正式に連絡がくるかな?
    心の置き所が定まらない。慌てても、泣いても、喚いても、「これはまだ早いかも」というのが捨てきれない。
    ただ、どうしたのかだけ教えてくれたら、どれかに転がれるのに。吹き付ける夜風が冷たくて、門倉さんがいつかしていたみたいにコートの襟を立ててみた。
    真っ黒な空に雲が集まって来たのが見える。指先が少し気持ち悪くて、多分雨が降るのだろうと思う。
    店先の階段を降りて道路の縁石に乗ってタクシーを探す。この場所では、今の時間は程ちかい歓楽街に台数を取られているかもしれない。それでも電話ではなく道路を走るタクシーを待った。

    遠くから一台の高級車が近づいてくる。自動車信号の赤で停止線より手前で止まったのに、歩行者がいないのを見てなのか堂々と信号無視をして走り出した。
    100mもないその信号から再発進した高級車は路肩に寄りながら減速して僕の前でぴったりと止まる。下がる、スモークが張られたその窓には見覚えがあった。
    「よかった、まだ居た…」
    「真鍋さん、南方さん」
    振り始めた小雨を気にすることもなく南方さんが助手席から降りて歩道に入る。
    「門倉は今日は来ません。本部に帰りがてら、お伝えしようと思って」
    「…何で?っていうのは聞いてもいいですか?」
    真鍋さんが運転席から腕を伸ばして助手席のドアを閉め、窓をぴったりと閉めた。
    「経緯は詳しくは言えません。ただ今ヤツは治療中で面会謝絶です。」
    やっぱりね、と言えればよかった。予想していたことのひとつで、まだいい方だったが、それだけだ。
    「どういう状態かは教えてもらえますか?勝負の内容とか、状況とかはいらないです」
    南方さんは小さく呻いてためらった後、眉間に皺を寄せながら教えてくれた。
    「ご存じでしょうが、門倉の頭は骨も中身もイカレとります。あの時中身は全部入ったままでしたが、骨はどうやっても足らんかったというのでインプラントが入っていました。」
    「…そこが、壊れでもしましたか」
    南方さんは頷く。医学的な知識が無くても、文脈と声の調子からどんな事態が起きているのかはなんとなく想像がついた。
    立てたコートの襟が折れて倒れる。冷たい風がまた頬に吹き付けて、撫でられたみたいな感触におもわず俯いた。
    「命に別状はありません。ただ壊れた部品は取り替えないといけないという話です。面会謝絶も、頭を開くからで」
    「…ありがとうございます」
    実際、状況的にはそうなのだろう。南方さんの言葉に慰めのための嘘は見つけられない。

    「よく、ここがわかりましたね。こんなことで迎えに来てくれるようなものでもないでしょう」
    「…一昨日、飲んでいたもので。門倉が見当付けていた店は、私も使った事があるんです。待ち合わせの時にしばらく貴方の事を遠くから眺めているとか、そういうのも」
    「はは、あの人、結構口軽いんだ…。でもそれは、初耳だなあ」
    眉間がつままれたみたいにジンと痛んだ。俯きはしなかったけど、視界がじんわりと滲む。
    「この時間のこの辺りはアシがないでしょう。お送りしますよ。」
    南方さんの掌に押され後部座席に上がり込む。運転席との間にあるシールドにはさっきは降りていなかったスモークがかけられていて、僕はそこでちょっとだけ泣いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works

    トーナ

    DONEいとしい傷痕の対となってる門梶です。疵に贈るキス


     深夜に目を覚ました梶が最初に気づいたのは裸の背中に当たる大きな存在だった。梶の背中を覆うようにして眠る門倉がすぐ隣にいる。よほど深く寝入ってるようで寝息が耳元に当たる。そっと見上げると普段は鋭い隻眼が閉じられた、穏やかな寝顔があった。思いがけなく跳ねた胸の鼓動を宥めつつ、貴重な時に起きられた自分を褒めた。眠る門倉を見るのが小さな喜びであり、楽しみだった。
     ゆっくり身体の向きを変えて門倉に向き合う。前髪の分け目から見える、皮膚を抉ったような大きな傷痕。梶が雪出との勝負に負けた後に出来たものなのだと聞いた。傷が元で人格や体調に影響が顕れている。プロトポロスで見せた片鱗はたしかに門倉ではない、『なにか』だった。手を伸ばして優しく撫でる。起きないのを逆手に取っていたずらに指を這わせる。


     最初に出会った時とは違うかもしれない。それでも、根幹は門倉なのだと思う。梶は彼が普段から『なにか』を抑えつけているのをひそかに感じ取っていた。梶の前ではなんでもないように振る舞う。そんな彼を前に自分も知らないフリをした。何も出来ないのがもどかしかった。
     感触を感じるのか、眉間にしわ 615