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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    門梶 専属面する門倉今行くと面白い物が見れる、と小走りでやってきたのは銅寺だった。
    正直なところ、弥鱈はこの立会人の「面白い」には少しも期待などしていなかった。しかし今日立ち会う予定だった賭けが片方の第三者からの攻撃による死亡で場が流れたのだ。
    書類仕事よりは多少は面白いかもしれないと大人しくついて行き、行き先である休憩室に向かいながらポケットの中の小銭を数えるなどしていた。

    「ね、ほら。曲芸みたいでしょ。四本同時に吸う人は初めて見たなあ」
    「…」
    ほらおもしろい、と指しこそはしなかったが、どこの誰の事を見て言っているのかはすぐに分かった。
    時代の流れとともに喫煙者が隔離されゆくのはここ賭郎本部でも例外ではなく、休憩室の各テーブルに灰皿が置いてあった状態から休憩室に喫煙スペースが設けられる形式になっていった。
    中にいる人数と顔がわかるようにアクリルの板で作られたボックス状の部屋には霧と見紛うほどの紫煙が漂っている。見るからにイラついている門倉がその中にいるのはさながら動物園の展示のケースの様であった。
    「動物園みたいで面白いと思って」
    「随分とおぞましい展示で…」
    しかし、少し面白いと思ってしまったのが悔しい。確かにタバコを四本同時に吸う人間など、そうそうはお目に掛かれない。
    「あ、もうちょっと面白くなりそう」
    「?」
    あっち、と今度は指で示される。休憩室の入り口ドアを開けたのは南方だった。
    南方は自分の胸ポケットから煙草の箱を取り出しながら歩いていたかと思えば、喫煙スペースの鬱屈の霧を見てぎょっとした後にすぐ近くにあった消火器を片手にアクリルのドアを勢いよく開けた。
    ドアを開けると同時に喫煙スペースの中から怒号が飛ぶ。南方がレバーを握るより早く蹴り飛ばされた消火器はその向こうにあった観葉植物をへし折って減速し床に転がった。

    「消すな消すな!おい!ワシに小麦粉まぶして食う気か!揚げとるんか!ワシを!」
    「おっお前なんて吸い方してるんだよ!火事じゃなくても酸素ないだろうが!」
    「梶…?まあ梶は確かに酸素じゃな…」
    「喫煙とアルコールは脳細胞を殺すんだ、お前高校までは行っただろ!もうやめとけ!」

    「大卒の元ヤンが就職コースの元ヤンに何か説教してますね」
    「あの二人の頃ってそんな教育あったんですかね」
    「どうだろう。でも喫煙者が喫煙者に説教しても説得力無いね」
    確かに、と頷きながら自販機に小銭を入れる。「コーヒーでいいですよ」の声を無視して一本だけ買う。
    喫煙所から出て来た門倉は髪をばさばさと振って煙を逃がしながら自分の背広に腕を通す。ヤニの焚きしめから勝負服を逃がす頭はあったらしい。
    珈琲のおこぼれを得られなかった銅寺が恐れ知らずに南方と門倉に話を振った。

    「梶様っていま台湾でしたっけ」
    空気が大理石に罅の入るが如く、固く、びしりとした。
    門倉の手が今しがた仕舞ったばかりのタバコを取りだし、脚はまた喫煙スペースに向かう。
    「ヤニ入れて頭の血管かっぴらいとかんとどうにかなりそうでのお」
    「OK,ニコチンOK」
    銅寺に「吸わないくせに」とは思いつつも、門倉の情けない格好が見られるかもしれないという期待をもって自分も同席する。
    先ほど破天荒な吸引をしたからか、今度は常識に則り門倉が煙草を一本くわえる。

    「まあ…立ち会えんかった…呼ばれんかったというか…別の奴が行ったワケよ。このワシを呼ばんかったというワケよ。」

    そんなことを言いながら遠い目をする門倉に、一同は困惑した。
    「…いや、専属でもなんでもないだろお前」
    「…」
    「卍の間の専属だったじゃないですか」
    「…」
    「一発ヤっただけで彼女になった気でいる奴ですよそれ」
    「…」

    世間の風当たりは、冷たかった。
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    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173