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    ヒロ・ポン

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    ヒロ・ポン

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    ピアスを開けようとする門倉

    梶ちゃんと変態の金持ちと門倉この世界に入って分かった事がある。とにかく人の入れ替わりが激しい。
    先週自分が立ち会った相手がその翌日には死んでいたなどもまあよくある事だ。
    立ち会った以降存命の場合でも高齢ならいずれは遠からず死去する、引退する、若くても破産や死亡で舞台から消える、自分から去る、など理由は様々だ。
    しかしこれはどこの世界も治安レベルの違いはあれど同じようなものだろうとも思う。
    熟練の者が若い芽を摘んでいる面もあるが、大体は目の前にぶら下げられた身の丈に合わぬ勝負に手を出し、ペロリと丸のみされてしまうのだ。

    しかしどうだろう。自分がいま付いている男はまだ五体満足で今日まで生き残っている。生命に関わる賭けを毎回している訳ではないが勝利数はそれなりだ。
    が、我が心中は穏やかではない。
    この男は心酔する男のために駒となって動いている。ギャンブルの目的はシンプルに金稼ぎだ。狙う、受ける勝負も金や資産優先で額面が大きい物を望んでいる。
    特定の個人宛のみの呼び出しによる立会のみではなく「こんな目的や賭け金を出す相手と勝負したい」という要望からのマッチングも請け負っているため、この男が挑む先は自分が決めている事が多い。
    ここが穏やかではない原因だ。
    この世界には一般企業のサラリーマンの年収で尻を拭くような連中が金稼ぎではなく娯楽や快楽の享受目的で参加しに来る。勿論、自分が勝つと分かっているゲームで。
    先の、摘まれる若い芽はよくここに巻き込まれる。その思考はやや理解できた。へし折るのなら、プライドが高い熟練者か、前途ある若者だろう。後者は残りの人生が長い分、捨てるにしても飼うにしても良い娯楽になるようだった。

    *
    面白くない。気に食わない。不愉快だ。
    手元の会員情報と希望要項が記載された書面を眺めて思わず顔をしかめる。脱いでいた上着から煙草を取り出し、苛立ちを紛らわさんと火を着けた。

    梶にはもう伝えてあるにしても、面白くない。いや、勝負自体は面白い物を見せてくれるに違いない。もうそんな信用をする程度には、近い距離になっている。
    梶はまだ若い。この世界においてはまだまだ若手の新人の部類だ。そして生き残っている。相手も、梶自身も。
    大体の勝負で梶は暴力禁止をルールに加え、相手の生命を奪う事を望む事もない。(何らかの事象でそうなったことはある)
    だから対戦者の大多数は生き残る。生きている人間の口には戸は立たず、観戦者が居ればそこを経由して人から人にその名前は渡っていく。
    売り出し中の若手ギャンブラーというだけで当然、よろしくない人間も釣れる。よろしい人間などこの業界にどれほどいるのかと言う話だが…
    何が嫌かと言えば、梶が意識的にこのよろしくない層を釣るようになったことだ。

    名が広まるごとに、クソみたいな…よろしい趣味の人間が釣れに釣れる。しかしそれは梶にしてみれば好都合なようだった。
    趣味のいい連中にとって、五体満足で健康で、野心ある若者はごちそうなのだろう。梶もそれを理解して勝負を受けている。
    梶自身の身体や精神へのダメージ、またはその自由を奪う事を要求されても、「実質賭け金ゼロですね」と言い放つのだからたまらない。
    命あっての物種という物は理解できても、自分の生命に対する比重が軽すぎる。
    身体の重篤な損壊や死亡に至らない限り「負け」以上はなく、次のゲームや別の勝負にて巻き返せるというのは確かだが…

    そしてそれを聞くのは大概、賭郎本部や勝負そのものの場だから、双方合意で積まれる賭け金に対して職務中の立会人である自分が口を挟む余地はない。
    眼球、睾丸、いずれかの臓器、両手足の爪、今後一生の隷属、人または獣に対しての性奴隷契約、そんなものの前にも梶は身を晒す。
    金同士をぶつけるのに飽きた老人たちの前に自分を餌としてぶら下げて、今日まで橋を渡り続けている。
    やめろという気はない。が、それを不快に思うかどうかは別だ。職務を全うすることとそれに感情が伴うかどうかは別である。

    「…」
    今度は梶の側の書面に目を通す。
    双方合意で決まった賭けの報酬でも、本当に反吐が出る。勝てば梶にはラウンドごとに大金が入る。用意された回数をすべて勝ち抜けば、梶の手元には相手の全財産が落ちてくることになる。
    梶に対して現金は要求されていない。負ければ都度、身体のどこかにピアッシングまたはそのまだ開いたばかりの穴の拡張をされる。皮膚でも、粘膜でも。

    感知されなければと前置いてはいるが、どうせイカサマだらけの勝負なるだろう。
    梶が全戦敗北する絵は見えない。が、身体にいくつか穴が開くのは確定だ。梶は、あえてダメージを受ける事を”手”として平然と並べるのだ。そういう男なのだ、もう。
    本当に気に食わない。

    「…先に、開けちゃろうかな…」
    組まれた日程のその日までは一週間ある。
    今日、明日で開ければ当日にはもう痛みも引いているだろう。勝負の妨げにはならないはずだ。
    一旦ボールペンをデスクに放り投げ、携帯で探し物をする。

    流石情報化社会、目当ての物はすぐに見つかった。
    都内だから今日の夜か、明日には届くはず。
    そう思いながら書面の担当立会人の欄に「門倉雄大」と記入し、印を捺した。
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