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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    梶から梶母への感情を捏造しています

    (門梶)母の名は都心で母親を見た。どうやらまだまだ元気らしい。
    でも記憶にある母親の姿よりもうんと歳を取っていて、手の甲も首も瞼の皮も最後に見た時よりもっと垂れて、乾いて、線を重ねていた。
    服装だけは最後に顔を合わせた時と変わらない。なんだか斜めになっているハイヒールの踵でカコカコと歩きながら、僕と同じくらいの男の腕に縋りついていた。
    当たり前か、と何故だか腑に落ちた。母は歳を取るが、求める物はずっと一緒なのだ。そして僕も歳を取っているから、必然的にそのバランスになるのだろう。
    僕は今、店員さんに「よかったら掛けてお待ちください」、と引かれたテラス席の椅子に座っている。
    母はもう、目と鼻の先に居る。連れている男の腕に巻かれているロレックスの面取りの甘さや王冠が太く丸すぎるのが見えるくらいに。
    僕も男も顔を合わせた事はないし、母はこちらには気づいていない。
    人間は無いと思っている物には気づけないから、僕は今二人がもたれているウッドデッキの向こうにいる、単なる待ちぼうけの男。
    僕だって最初、母だと気づけなかった。母だって僕だとわからないかもしれない。
    もうイガグリ頭じゃないし、千円のパーカーと三千円のジーンズと、二年履いてるスニーカーじゃない。

    ただ無感動だった。
    老いている自分に相応の物を選ぶことをしない様を改めて見ればそれは社会的に見たら惨めなものかもしれないが、
    あの頃と比べて抱く感情が減った気がする。
    老いた母、偽物を身につける男、どっちも怖くない。たとえ殴られたとしても、詰られたとしても、もっと怖くて痛い物も知っている。
    僕にとって物を知る事は強くなることだったのかも、と最初の頃貘さんに闇金について教えてもらった時の事を思い出す。
    長い間、多くを知ろうとすることは生意気な事で、何かをしようとするのは余計な事だった。
    けど、今は逆で、そうしないことは死に繋がるから、好きなだけ、好きじゃなかったとしても、やらなきゃいけない。
    それが心地よかった。ここなら死ねるかも、とさえ思った。死なないために色んなものを重ね続けているのに変な話だと思う。

    歩行者信号が青に変わり、汚い茶髪の二人が遠ざかっていく。
    まだそれをぼんやりと目で追っていると、上から降って来たステーキの写真に視界を奪われた。
    「個室、片付いたそうですよ」
    長い腕とメニューブックで大きな円を作って僕を囲みながら、門倉さんが僕の耳元でそう言った。
    気まぐれに「ここがいいです」と入った店だったけど、店内に空席はあった。4人掛けだって窓際だって、このテラス席だって。
    でも門倉さんは個室から人が出て来たのを見て店員さんを急かして用意させた。

    「うかつでした。中で待たせるべきでした」
    背中から抱きこまれているような格好になっているから門倉さんの顔は見えない。
    「はは、流石に今の偶然は貘さんでもわからないですよ」
    僕はメニューブックを下から受け取って、これにします、と左ページの和牛手ごねハンバーグを指して見せる。
    僕が選んだのを見てパタンとメニューは閉じられ、僕を囲んでいた円が開くのと一緒に椅子から立ち上がった。
    店員さんが開けてくれているドアをくぐって、門倉さんが通るとドアは閉じられて世界が二つになった。
    その後門倉さんと二人きりになって、世界と世界はどんどん離れていく。

    もう忘れる事にした。
    僕はさっきのハンバーグにライスを足して、門倉さんは「もう15時ですし軽く食べたいですね」と言いながら1ポンドステーキを注文しようとして、1.5ポンドにした。
    「どうせ”そっちにすればよかったかな”と言い出すでしょう」
    僕にちょっとくれる前提の言いぐさに、僕ってそんなに毎回それ言ってる?と少し恥ずかしくなった。

    そうだ、他の事は何も関係ない。今はこの人とご飯を食べに来たんだ。
    勝負中にお腹が鳴った僕を見事に鼻で笑いやがったこの男と。
    母をまだ母と呼んでしまう僕に「ええんやないの」と返してくれたこの男と。
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    トーナ

    DONE初門梶SSですが、門倉さんあまり出ません。すいません…。

    裏ver書きたい。
    僕の秘密

     門倉さんに秘密にしていることがある。それは門倉さんがいない間に僕が彼のシャツを独り占めしてることだ。僕と門倉さんは恋人同士で今でもどうしてこの関係になったのかもわからない。きっかけはたぶん、プロトポロスでの出来事だろうと踏んでいる。お付き合いしてだいぶ経った頃に彼がある日仕事が長引いてなかなか会えなくて寂しくなった僕は洗濯物に混ざっているシャツを見つけた。シャツから香る門倉さんの匂い。たばこと体臭。最後に嗅いだのはいつだったか。そしてふと思いついて、実行すると寂しさが解消された。
     
     その日も僕はあることを始めた。洗濯せずに取っておいた門倉さんのシャツを抱きしめながら眠る。彼と一緒に暮らすようになって、いつしか彼の存在がそばにあるのが当たり前になっていた。だから、会えない間はそばにいないと僕は胸に穴が開いて落ち着けなくなってしまう。
    「…門倉さん」
    僕より大きいそのシャツから嗅ぎ慣れた匂いがした。その匂いがあるだけで門倉さんがいるんだと錯覚できる。だから、よく眠れるようになる。胸のあたりに顔を埋める。今は薄っぺらいシャツだけの感触しかないけど、ここには彼のたくましく厚い 1001

    トーナ

    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173