Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 117

    ヒロ・ポン

    ☆quiet follow

    バカンスの端切れ

    フロ梶「少し出かけるか、梶」
    「ん、閉じこもるんじゃなかったの?」
    「そのつもりだったがデートも悪くないと思ってな。暑いから嫌か?」
    「ううん行く。京都で張ってた時より全然涼しいよここ」
    拡げて差し出されたシャツにもう何の疑問もなく背中を向けて袖を通す。いつもと同じ型のシャツだが、今日のは純白だった。
    「ねえフロイド、日本の高校生って見た事ある?」
    「あー、”ミニスカ”にジャケットだろ?」
    梶の脚をさながら押し倒す直前、といったところまで持ち上げてその脚にスラックスを通す。
    「なんで女子の方なんだよ…男子、こんな感じなんだよね」
    腰を上げて尻までをすっぽりと収めた梶は膝立ちになってベッドの縁まで移動する。その腰をフロイドに捕まえられ、また膝裏から抱えられて今度は靴下を履かされた。
    「確かにそんな恰好をしていたような気もするが、わざわざ異国で男を視界に入れる意味はないから記憶にないな。気になるか?」
    最早されるがままに服を着せられ、誘導されるままに靴ベラの上に踵を乗せ、足もつま先からすっと真新しい靴にきちんと収まった。
    「僕は別にいいけど、日本ならちょっと職質されるかも」
    「ああ、倫理的な問題か…」
    立ち上がって靴の具合を確かめ、ベッドに腰かけたままのフロイドに向き直る。当たり前のように広げられた腕の中に一歩進んで立ってやればこれもまた当たり前のように抱きしめられた。
    「シンプルイズベストだ。着飾るのは誰にでもできるが、引き算は案外難しい。梶にはこういうのが似合うんだよ」
    「よかった、変な趣味がある訳じゃなくて」
    「おいおい…」
    一歩、後ろに下がれば腕の輪は簡単にほどけた。テーブルに置いたままにしていた旅用の端末と財布を尻のポケットに入れ、その不用心さを咎められながら部屋を出た。

    「…ねえ、これ目立たない?」
    「目立とうが目立たまいが、1,2日でこことはおさらばだから構わないさ」
    ホテルから離れ初日に来た街にまたやって来た。敷地を出る時にホテルのスタッフからフロイドは傘を受け取り、おもむろに開いた。
    梶に晴天の際、日傘を差すという習慣はなかった。女性らがよく使っているのは見かけるが、街中で遭遇する日傘と言えば梶の身長ではすれ違う際に身体のどこかを擦られたり、露先が刺さったりとあまり良い物ではない。
    それなのに今は白のレースどころか、大きさこそ常識的ではあるもののゴルフ場でしか見ないような屈強なシルバーのアンブレラの下に隠されている。
    「じきに日が暮れはするが、空が暗くなっても西日は眩しいままだからな」
    「へー…いや、やっぱ目立つって!」
    同じくして装着させられたサングラスを顔からもぎとり梶は汗を拭った。フロイドも揃いのサングラスをしているが梶が騒ぐのもどこ吹く風で歩いて居る。
    「梶よ、半袖を着せた俺も悪いが日焼けってのは火傷だぜ?この辺りはなまじ舗装しちまったから下からの反射も強い。人間、寒さより熱で死ぬ方が速いんだ」
    傘から半分出かけていた梶をぐいと自分の方に寄せその手に傘を持たせる。
    「うー…フロイドはいいよ、サングラス似合うから。僕なんかどう見ても浮かれた修学旅行生なんだよ…」
    フロイドは空いた手で梶の手からサングラスを取り上げ、開いてまた装着させる。
    「まあ梶にはなくてもいいかもしれん…日本人の目は黒くていいな。俺にはどうにも眩しい。」
    サングラスを下げたフロイドが目をしぱしぱと瞬かせる。二人が歩く道は真新しい真っ白なコンクリートで出来ていて、時折細かい粒がきらきらと光る。
    「今すごく眩しいってこと?」
    「ああ。アジア人に比べたらそうだな。梶も今輝いて見える」
    「なんで白着せたんだよ…」
    「おっと悪い、梶が輝いてるのはいつもの事だった」
    「はいはい、行くよほら。市場に入ったら屋根張ってあるでしょ」
    「おっと~…」
    口説くセリフを無意識か、意図してかするりと躱される。それに思わず天を仰ぐフロイドだったが、梶はその手に傘を返して正面に回り、下げたままのフロイドのサングラスをついと元の高さに戻した。
    「傘差してたら片手がずっと塞がっちゃうけど、フロイドはそれでいいの?」
    「…よくない!」
    「はは、じゃあ早く行こう。僕もう喉が乾いちゃったんですけど」
    自由になった両手を後ろに組んで傘の影から出た梶をフロイドが追いかけ、すぐに分かれていた影はひとつに戻った。

    ゴオッと大きな火柱が上がる。燃え盛ると言うには弱いが、ただの料理にしては大きな火が窯から上がり店主はそこに無造作に手を入れ窯の上で焼いていた串を一本上げた。
    「これなんの串?」
    目の前で改めてスパイスを振られるそれを見ながら梶がアクリル板越しに店主の手元を覗き込む。
    「ラム、羊だな。日本じゃ馴染みがないか」
    「あんまり見ないなあ。あのかけてるのは?」
    「ありゃクミンだ。日本じゃミツバとか、パセリとか、セロリも食べるだろ?あれが食えるなら大丈夫だろうが、まあ苦手なら振って落とせ」
    差し出された串を受け取る。礼を言いながらそっと見た店主の手には不思議な事に水ぶくれひとつない。
    「凄いな、手の皮がめちゃくちゃ分厚いのかな」
    「変な所気にするな。確かに慣れだろうけどよ」
    「前にテレビで油がぐつぐつしてる鍋に手を入れて鶏を掴んでるのを見てさ…」
    「焼ける雄牛に入ってた奴に何言われてもなあ」
    「それとこれとは別だろ…」


    「ん…んま!上のやつも美味しい!」
    「クミンな。もっとかけてやろう…おまじないだ」
    「おまじない?あ、ちょっとでいいのに」
    「梶が世界中どこに行っても、俺の所に帰ってくるように」
    「?、なにそれ。忙しくない時は呼んだら行くよ」
    「まあ、それでもいいけどよ」



    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works