ラブコメにしたくてならなかったモノ竜胆くんはすごくモテる。それはもう恋人である俺が尻込みしてしまうほどに。
六本木のカリスマ兄弟であのルックスだ。涼しげな目元にスッと劣った鼻筋。
浮かべる表情はどこか子供っぽくてかわいらしいところがあるために女性目線からすると母性本能がくすぐられるんだろう。
などと現実逃避をしているが、今日は竜胆くんと久しぶりのデートの日。
待ち合わせ場所につくと女の子達に囲まれている竜胆くんをみて、場違いだと思ってしまった結果なのだが・・・。
街路樹の後から遠目に見ながら悶々と考えていると、ぱちっと竜胆くんと目が合う。
彼はこちらに気がつくと、囲んでいる女の子達に何か言い放って、こちらにズンズンと歩いてくる。
その様子は少し焦りつつも、浮かべている表情はムスッとしており唇がとんがっている。
「・・・なんでそんなトコにいるんだよ」
「・・・あ~、えっと・・・竜胆くん、モテるみたいだから・・・」
「・・・だから何?」
「なんか俺なんかが隣に立つのはちょっと駄目かなぁって」
「は?」
「だって・・・」
「・・・俺が好きなのは武道なのに・・・?」
「うっ・・・」
近くに来た竜胆はすこししょんぼりしており、たれた耳と尻尾が見えてしまった。
言葉に詰まる武道の腕を掴み竜胆が自分の方に引き寄せる。
竜胆はまっすぐに武道を見つめ、頬に手を滑らせた。
「俺はお前が好きなんだよ」
「でも・・・」
「何が不安なんだよ?それとも不満か?」
「・・・」
至近距離で見つめ合っていたが、竜胆に問いかけられて武道は視線を外しうつむく。
そこを逃す竜胆ではなく、腕は掴んだまま俯いた武道の前にしゃがみ込み、顔をのぞき込んだ。
竜胆がのぞき込むと、武道は唇をかみしめて痛みを絶えるような表情を浮かべていた。
「・・・武道、言って」
「・・・え」
「何が嫌か。俺にちゃんと教えて」
「・・・・・・」
「言ってくれなきゃわかんねぇし、我慢すんのはよくない。それにもっと我が儘言って欲しいし」
「・・・・・・」
「言って」
「・・・・・・俺以外見ないで」
「お前しか見てないよ」
「女の子に囲まれるのやだぁ・・・」
「うん、ごめん。ちゃんと気をつける」
「竜胆くんは俺のことしか見ないで・・・」
「うん」
「・・・・・・俺のこと、嫌いにならいで・・・」
「・・・うん、言えんじゃん」
ぽつりぽつりと言葉を落としていく武道は一度口に出してしまえば堰を切ったように言葉が出てきたようだった。
最後の一言を零すころには涙を瞳いっぱいに溜めて竜胆を見つめ返していた。
そんな武道に満足したように竜胆は笑いかける。
そして立ち上がって武道の頭をわしゃわしゃと撫でる。ついでにとばかりに目尻にたまっていた涙をぐいっと拭う。
「嫌いになんてならないし何ならお前の我が儘はなんでも叶えてやりてぇって思うくらいにはお前に夢中だよ」
「・・・本当?」
「・・・あのな、俺がお前に好かれるためにどんだけ頑張ったと思ってんだよ・・・兄貴には笑われるしさ・・・」