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    ayty_st

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    神玲

    クリスマスSS「は? 何でいるの」
     12月24日、世間的にはクリスマスイブという世の中の恋人たちにとって一年で一番特別な日と言っても過言ではない。そんな日に私は、恋人でもなんでもない神楽さんのアトリエへとやってきた。目の前には驚いた顔の神楽さん。なぜか。それは私が一番聞きたい。
    「これにはいろいろとありまして。最初から説明するといろいろと長くなるんですけど……」
     何から説明しようかと左右に目を泳がせる。黙った神楽さんは数秒思案した後「とりあえず入りなよ」と中へ入れてくれた。この寒空の中、追い返されなくてよかったとほっとした。
     とりあえずこれを、と頼まれていたものを手渡せば中身を確認して「えっ」と驚いた後、はぁと大きくため息を吐いた。
    「……なるほどね、大体理解した。羽鳥は何て?」
    「ええと、仕事頑張ってねと」
    「僕への伝言じゃなくて。君に何て言ったかって話」
     神楽さんは明日、羽鳥さんのお母さんが主催するチャリティショーに出演する予定だ。その準備の大詰めでクリスマス返上でアトリエに篭っているところに、急遽明日の衣装に必要になった羽鳥さんのお母さんご指定の材料を届けに来たのだ。
     神楽さんが聞いているのは、なぜ羽鳥さんが私にその役目を頼んだかのかというとだ。私の今日の予定を知っていたかのように退庁したタイミングで突然現れた羽鳥さんは「俺から玲ちゃんにプレゼント」とウインクしながら紙袋を渡してきた。要件を伝えるとあっという間に去ってしまった後ろ姿に取り残されたまま、のこのことアトリエへやって来た私はまるでサンタクロースにでもやった気分……な訳がない。
     片思いの相手にクリスマスに会えたらなんて下心と一緒に連れてきた私を、仕事を目前に集中している神楽さんにバレたくない。でもやっぱり少しでも会えてうれしく思ったり。
    「いえ。と、特には……?」
    「ふーん」
     明らかに嘘だと分かる言い訳にも、神楽さんは、いつものように「暇なの?」とは言わなかった。とりあえず役目を果たせたので長居せずに家に帰ることにしよう。クリスマスなのに予定がないことには最早ツッコミは不要だ。
    「じゃあ君が僕に会いたかったってことね」
    「えっ」
    「違うの? わざわざクリスマスイブに、僕に会いに来たんじゃないの?」
     全く予想していなかったいつになく率直な問いに狼狽えてしまう。何と答えたらいいのかわからなくなって頭の中が真っ白になる。もしかしてこれが本当のホワイトクリスマス? いやいや、全然面白くないから。
    「今ならおいしいケーキと、温かい紅茶も淹れてあげるけど。……それでも、帰る?」
     気付けば首を横に振っていて、それを見た神楽さんは満足気に笑う。ケーキ取ってくる、と早々にキッチンへと消えてしまったので一人取り残された私はつい先程のやりとりを思い出してしまう。
     そういえば、背を向けた時に見えた耳が赤かったのは気のせい、かな。
     もし気のせいじゃなかったとしたら、どうしよう。うん、絶対に気のせいじゃない。
    「あの、わ、私も手伝います……!」
     思い出した瞬間、体温が移ったみたいに顔が熱くなって居ても立っても居られないと慌ててその背中を追いかけた。
     がらんとしたアトリエの傍らには、これからキッチンで繰り広げられる攻防など知りもしないだろうクリスマスツリーの電飾がやけに眩しく点滅していた。






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