髪を切るはなし「うん、いい感じだね! さすが亜貴ちゃん」
僕が仕立てた服を着こなしたメグは姿見の前でくるくると回り、やっぱりこの方が合うと思ったのだ満足気に頷いている。
顔を揺らすたびに肩に掛かるくらいのショートボブの毛先が跳ねて、再び元の場所へとすとんと収まる。何度見ても、今まで肩甲骨あたりまであった綺麗な赤い髪はバッサリと切られている。僕に何の相談もなく突然披露されたその髪型は、驚くほどに似合っていた。
「今日まで会った人みんなこの髪を見て失恋? って聞くんだよ。失礼だよね〜」
そもそもメグは恋愛に生き方を左右されるようなタイプではない。そうじゃなければ、僕にあんなにわかには信じがたい提案などしないはずだ。
「でも亜貴ちゃんはそういうの聞かないから好き」
メグの言葉に、ばれないよう小さくため息を吐いて、手のひらの中に指先を押し込める。
「髪なんて切りたい時に切ればいいし、伸ばしたい時に伸ばせばいいんじゃない」
「うん。メグもそう思う」
衣装に合わせるために切ったのかと聞けば、買い被りすぎだと怒るだろう。言葉の通り、メグは本当に切りたかったから切っただけだと思う。でも、もし僕が仕事のために切ってくれと頼んでいても何の躊躇いもなく受け入れたに違いない。それがメグであり、僕はもう何度も彼女のそういうところに救われている。
「亜貴ちゃんもさ、たまにはばっさりと切ってみたら? それか羽鳥くんくらい伸ばしてみる?」
「どっちも嫌。僕はこれくらいでいいの」
「そっかぁ。ま、メグは亜貴ちゃんがどんな選択をしても応援するけどね!」
かけられた言葉の本当の意味を瞬時に理解する一方で、あえて知らないふりをした。
切りたい時に切り、伸ばしたい時に伸ばす。そんな風に自由気ままに人生を決めることができたらと思う。与えられた猶予の中ですら思い切った選択ができず、ましてやメグに押し付けることなんてできるはずもない自分が、どこまでも嫌になる。
「……髪型ひとつ変えるのに応援なんていらないでしょ」
「あは。確かに!」
てもそうすることが僕にとっての常であるから、これからもきっとそうだ。
悲しいことなんてない。ただひたすらに、虚しいだけだ。